第六話 花言葉は誤解を生む
翌朝。リリーと共に王子を起こしに部屋へ入ると、王子は物憂げな表情で、白い花瓶に入れられた青紫色の花を見ていた。
それはイザドラから渡された花で、王子にイザドラから貰ったと言うのを私はすっかり忘れていた。
「これは、シャノンが?」
いいえ、イザドラ様からですと告げれば、王子は悲しそうに花をつついた。この花の名前を知っているかと聞かれ、リリーと私は首を横に振る。
「この花は、グレープヒヤシンスっていうんだ。葡萄の実のように見えるから。幼い頃、イザドラが好きだって言っていた花なんだ。花言葉は、失望。……きっと、僕に失望しているってことなんだろうね」
王子は寂しげに笑う。
私は焦った。だって、イザドラが王子に失望していると思わなかったから。そうだ。彼女はこの花を見たとき、こう言ったのだ。
『嫌な女ね。自分で自分に失望してしまう』
と。
きっと、この花は彼女自身に対する言葉なのだ。
なんて厄介な花を王子に贈ってくれたのだろうか。
けれど、問題は王子にだってある。
「イザドラは失望なんか、していません。……王子はなんでも、そうやって他人のことを思いますよね。こうしたらいいんだろうなとか、こうしたら喜ぶんだろうなとか。ですが、貴方はいつだって本当の気持ちを聞いたりはしない。思って、思って、思いやるだけだ」
決めつけるだけだ。
誰かに気持ちを聞いたり、気持ちを言ったりを、貴方はあまりしようとしない。
だから、貴方とイザドラはすれ違うのだ。
「そんな悲しい顔をするのなら、イザドラ様に失望しないで欲しいと言えばいいじゃないですか。あの時の婚約破棄のことは、誤解だと、言えばいいじゃないですか」
好きだったのなら、なんで言わなかったんだ。
相手が距離を置こうとも、追えばいいじゃないか。
「シャノン?」
いきなり感情的になる私に、王子は驚いていた。
私はなんでもありませんと言って、いつも通りに仕事をこなした。
「リリー頼まれて欲しいことがあるんだけど」
私はリリーにイザドラの家に行って、告白する日時と場所を聞いてきて欲しいと伝える。
「お姉様、失礼ですが他人の恋路を覗くなんて、無粋っていうものですよぉ。それより私とデートした方がいいと思います」
いや、君との恋路を進める気はないからね?
「王子は謹慎中で、告白のためには抜け出す準備しなきゃいけないから」
ぶぅーっと不満そうな顔で、リリーは大人しくイザドラに聞きに行ってくれた。
明日の夜、城にあるバラ園の近く。よく遊んだ開けた芝生で。とのことだった。
主人公の恋愛は、もう少し先です。
すみません。