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 第十六話 村を包む淀んだ空気

 朝起きると、村長から話があると宿の女将さんから聞き、私たちは村長宅へと向かった。家に入るといきなり村長は頭を下げて、謝罪の言葉を述べた。

 村長の話によると、湖の水を取り戻したあの結晶が早朝には無くなっていたらしく、調べたところ村人の一人がそれを持って逃げてしまったらしい。

「本当に申し訳ありませんでした。せっかく魔術師様に作っていただいた結晶が……」

 ダニエルは怠そうに頭を掻き、いえいえお気になさらずとだけ言った。私は小声で、替えを作っちゃったりしません? ねぇ、しません? とアピールする。

「……えー」


 嫌そうな顔をしながらも、結局は作ってくれる辺り、ダニエル・ラシュトンは優しい人なのだろう。村人たちからもさらに感謝されたし。うん、どうだろうか。やりがいとか感じてくれて……たらいいなぁ。


 結晶を作った後、ダニエルは私にだけ聞こえる声で、明日にはここを立つからねと言った。はて、村人たちを見るダニエルの視線がきついように見えるのは、私の気のせいだろうか。


 宿の女将さんの勧めで、森の中にある花畑でピクニックをすることにした。あまり水のいらない、この土地にだけ咲く桃色の花が一面に咲いているらしい。

 ダニエルとピクニックということで、大急ぎでお菓子を籠いっぱいに作った。故に、隣を歩くダニエル・ラシュトンはすこぶる機嫌が良い。ふんふんふーんと、鼻歌まで歌っている。

 しばらく森の中を歩き、桃色の花畑が見えてくると、私はおぉ……と女性らしからぬ感嘆の声を上げた。ダニエルはというと、一切花への反応を示さず、お菓子を食べる準備をせっせとしていた。

 愛でようよ。イケメンなんだから花を愛でようよ。

 そんな視線を送ってみるも、ダニエルは私すら眼中にないようだ。きょろきょろと近くだけをダニエルは見回して、ケーキを掴もうと手を伸ばした。

「ダニエル様、フォークはこちらです」

「……ん。ありがと」

 今、手で食べようとしてたろ。危ない危ない。

 座ってにこにこしながら体を左右に揺らし、上機嫌のダニエルは、もはやいつもの如くと言ってもいいだろうあーんをさせようと私にフォークを渡した。断らないよね。そんな顔だ。無論、断れないよね。結晶を二度も作って貰っちゃったからね。はい、どうぞ。

「うまー。キミはもうボクのメイドになっちゃうべきだよね。毎日、お菓子を作って、食べさせて、一緒に寝ようよ。キミぽかぽかしてるし、抱き心地よくて大歓迎」

 いやや。そんなんごめんやで。

 イケメンと添い寝とか心臓持ちませんからね。

 断固拒否なのですよ。

 表情で私の感情を読み取ったダニエルは、頬を膨らませ、フォークでケーキをさし、私の口に突っ込んだ。もぐもぐ……うん。我ながらなかなかにうまいな……なんて思っていると、ダニエルは同じようにフォークでケーキを食べて、にこりと間接キスだねと言った。しかもペロリとフォークを舐めた。

「はっ……残念でしたね。間接キスなんかで、私は動揺しませんよ! ふはは!」

「…………ぷっ。すげー真っ赤。間接キスなんかで、すげー真っ赤」

 ぐおおぉぉおお!

 言葉ではいけてたけど、顔色はどうにもならなかったか! ちくしょー!

 私は手で煽って顔の熱を冷まそうとした。けれど、それをダニエルは許してくれなかった。私の手を掴み、手の甲へキスを落とす。

「ふあああぁっ!?」

「ん? 何? 場所が不満? 唇にしてあげようか?」

「結構だ! こんにゃろう!!!」

 湯気が出るんじゃないかと思うくらい、私の体温は一気に上がった。怒る私に、ダニエルはキミはこういうのに免疫がないねぇなんて笑われた。

 ぐ、ぐぬぬ。

「……?」

 ふと、何やら視線を感じて周囲を見回す。

 角が立派な野生の鹿と、目が合った。けれど、鹿はすぐにその場から逃げていく。

「ダニエル様、今、鹿がいましたよ! 私、しかと見ました!」

「……寒い」

 え……?

 あ……ち、違っ。ダジャレを言ったつもりなんて、なかったんです。ほ、本当ですよぅっ!


 宿へと戻り、夜はダニエル・ラシュトンの抱き枕にされ、迎えた朝。

 またも、村長から結晶の盗難事件が起きたという報告をうけた。事件の内容は同じだけれど、犯人は違う人物で、前の犯人と同様に村から逃げたらしい。村長は再びダニエル・ラシュトンに謝り、ダニエルは三個目となる結晶を無言で作った。村長はお詫びに村で宴を開くと言う。若い娘たちに舞を踊らせ、食事やダニエルの好きなお菓子も用意させるというのだ。


 ダニエルが結晶を作り感謝され、村は宴を開く準備に忙しなさそうな中、私はなぜだか違和感を覚えた。


 私はまた結晶が盗まれるかもしれないと不安を感じ、湖に様子を見に行ってみた。けれど、湖周辺には人が一人もいなくて、私はおかしいなと首を傾げた。

 だって、二度も盗まれた結晶の近くに、見張りを一人も置かないなんて、不自然だろう。

 私は村人たちの様子を思い出す。宴を準備しているというのに、彼らは皆浮かない顔だった。盗まれたことに対する申し訳なさというのとも違ったように思える。

 こう、言えない隠し事をしているとか、後ろめたい何かがあるとか。

「…………うーん」

 これは、雲行きが怪しくなってきたな。

 早々にこの村から出ていった方が良いかもしれない。

長く書こうと思ったのですが、細々と書いていたのでバランスが……。ダニエルさんのお話はあと二話くらいで終わる予定です。天才ゆえの苦悩の話になります。

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