第十五話 枯れた湖
ニムバス村の入口は寂れていて活気がなく、ちらほらと見かける村人には一様に元気がない。生活するための水がないのなら、不安になるし暗くもなるということかもしれない。
しかしながら、暫し待たれよ! きっと、ダニエル・ラシュトンがお救いするはずだから!
どうにも引っ掛かるダニエルの言葉は、はっきりせず曖昧なもので、今は考えないでいる。もしも、本当に断るのなら、両方とも解決法を考えなくては。が、頑張るぞ。
村の外れにあるという湖のもとまで行ってみると、そこには湖どころか水が一滴もなく、広く大きな穴としか表現出来なかった。
「見事にないですね……水」
「からっぽだね」
確認を終え、私たちは近くを歩いていた猟手に話を聞くことにする。猟手の話によると、ここ数ヶ月雨が降らず快晴が続き、湖の水は枯れてしまったのだという。今は隣の村の井戸まで、水を汲みに行っているらしい。国には水路を作ってくれと申請しても受理されず、祈祷師様に雨乞いを頼むお金は村にはなく、魔術師に頼んでみてはいるけれど、そちらも望みは薄そうだと、猟手は肩を落とした。
うんうん。それは災難ですねと熱心に頷き、話を聞く私とは対照的に、ダニエルは興味無さそうにそっぽを向いていた。猟手のおじさんに、お話ありがとうございましたとお礼を言って、私はダニエルの視界に入るよう移動する。
「お救い下さいませぃ!」
「…………えー」
ごめんなさい。やってください。そう言って下手に出ると、ダニエルは溜め息を吐いて、手のひらに透明な結晶を作った。その結晶の中は空洞のようで、たぷたぷと液体が溜まっていく。満タンになると、結晶に鎖を取り付け、それを船着き場の柱にくくりつけたかと思うと、ダニエルはそれを湖だった穴に投げ入れた。すると、どういうことだろう。十分もしない内に、湖は元の姿を取り戻したのである。
「…………流石です。ダニエル様」
天才魔術師は伊達じゃないということか。乙女ゲームでは、魔術の描写は少なかったため、まさかここまでとは思わなかった。
辺りにいた村人たちはざわざわと騒ぎだして、私たちにちらちらと視線を送り、こそこそと話をしていた。
しばらくすると、村長だという老人が現れた。何でもこの度のことを感謝したいのだそうだ。
そうだ、そうだ。感謝して欲しい。そしてダニエル・ラシュトンに魔術のやりがいを見つけて欲しい。
「……えーと。申し訳ないですが、依頼通りのものではありませんし、これが水を出し続けるのは、せいぜい三ヶ月くらいです。ですから、感謝は……」
ダニエル・ラシュトンは控えめに、感謝を遠慮した。
「いえいえ。これだけの水があるだけでも、隣の村へ行かなくてはならないという労力が軽減されます。どうか村でお礼をさせて下さい」
村長は人の良い微笑みを浮かべ、私たちを宿へと案内した。
その日の夕食は豪華で、この村で作られたという質の良い生地も貰った。
けれど次の日の朝、事件は起こったのである。