第十四話 微かに陰る
一日目、二日目は野宿で過ごし、三日目は小さな村の宿を取ることができた。ずっと野宿で不機嫌なダニエルの機嫌が直ることを切に願う。
「ボクのメイド。さぁ、おいで」
ほらもう、絶対なんか企んでるよこの笑顔。
ベッドに座るダニエルに近づくと、彼は私の腕を掴んで、無理矢理膝の上に座らせた。じとりとダニエルを睨むも、にこりという笑みで返される。
「はい。これ食べさせてね」
そう言ってケーキとフォークを持たせられる。ポーズは前よりも悪化したけれど、人前じゃないだけ救いなのだろうか。ほい。口許にフォークを持っていくと、ダニエルは満面の笑みでぱくりと食べた。食べる顔は天使のようで、こちらの気が緩む。
「ねぇ、もしもボクが更生したら、キミはどうなるの?」
「次の方に行きます。貴方を含めて四人を更生させ、私はまた王子のメイド長に戻るのが理想ですね」
「なにそれ。ボクのメイドでしょ?」
いや、君のじゃないよ。
私は私の物だよ。それか王子の物だよ。
「……不満そうな顔だね? でもいいのかなぁ、そんな顔しちゃっても」
おっとぉ。やべぇですぜ、こりゃ。
むにゅっと、私の唇に柔らかい感触があった。
弾力がある白色のお菓子。マシュマロである。
え? 食べろと?
「食べさせて」
!?
「ほら。キミから、食べさせてごらん?」
ぎゃあぁぁあ。
ぶんぶんと頭を振るうも、ダニエルは逃がさないという意味なのか、お姫様だっこのように背中と膝裏を支えた。口にくわえたマシュマロを口移しなんて、恥ずかしすぎて出来るかぁ!!
「キミが来ないならボクから行くよ? うっかり唇に触れちゃうかもね。いいのかなぁー」
ダメなんだよなぁー。これ、自分で行くしかないのかなー。
うじうじしていると、目の前にダニエルの口を開けた顔があった。私は驚いて身を引くと、ぱくりとダニエルはマシュマロを食べた。あと少しで触れていた距離だった。
「もぐもぐ……。今、絶対動かなければしちゃってたね」
やめて。悪戯っ子の表情をこちらに向けないで。
「キミは本当にすぐに真っ赤になるなぁ。遊びがいがあるねー」
「…………ぐ、ぐぬぬ」
「ちゅーするよ?」
「うわあぁぁあああっ」
「あははははっ」
笑うなよ! 笑うんじゃねーよ!
ひとしきり人で遊んだダニエルは、私を下ろして、窓の方へと移動する。
「ねぇ。ボク、そのナントカ村を救いたくないんだけど」
「何でですか?」
ナントカ村じゃなくニムバス村ね。
「………………なんとなく」
煮え切らない返事とは、珍しい。
それに、どこか表情が暗い気がした。
さらに理由を聞こうとしたけれど、下から夕食の準備が整ったと呼び出され、私は聞くタイミングを失ったのだった。
それから何度も聞こうとしたけれど、ダニエルにするりとかわされ、私たちは目的地であるニムバス村に到着した。