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 第十二話 心臓はばくばく

 結局、昨日は一睡も出来ずに夜が明けた。

 何度脱出を試みても、がっちりと抱きつかれた状態で抜け出せず、本気で力を出そうとしたら、魔法によって行動を不能にさせられた。意識はあるのに、手足がまるで動かなかったのだ。しかしながら、二日三日の徹夜なんて、メイドには何の苦でもない。

「おはようございます。ダニエル様」

「おはよう。昨日はキミの心臓が五月蝿くて、なかなか寝れなかったよ」

 嘘をつくな。すぐ寝やがったろうが。

 五月蝿いと思うなら、離せよこんにゃろう。

 朝食の用意をして、私はダニエルを席に着かせる。キッチンから漂う甘い香りに、ダニエルは終始ご機嫌だったが、お昼のピクニック用だと食後に告げると、頬を膨らませ、今すぐにピクニックに行こうと言い出した。

「食べたばかりではありませんか」

「甘いものは別腹なんだよ」

 女子か!

 ご機嫌から一転、不機嫌モードになった彼は、ピクニックの籠と敷き布を持ち、私の前まで来たかと思ったら、私までを持ち上げ、部屋の扉を蹴って外へと向かうのだった。魔術師のくせに力あるね!

 近くの芝生に布を敷き、籠から手際よくお菓子を取り出していくダニエルは、とても嬉しそうだ。すべてを出し終えたダニエルに、はいとフォークを渡される。

「ボクもう疲れたから、食べさせて」

「はい?」

「た、べ、さ、せ、て?」

 有無を言わさぬ笑顔に負け、私はフォークを受け取り、カップケーキを彼の口へと運んだ。

「あーんっ。……うん! さすがボクのメイド」

 ご満足いただけたようで、嬉しいですよ。はい。

 周りからの視線がないか気になって辺りを見ていたけれど、いざこちらを見る人が出てくると恥ずかしくなって、周りを見れなくなった。恥ずかしい。美形にあーんとか、めっさ恥ずかしい!

「そ、そういえばダニエル様は、魔術でお菓子を作ったりはしないのですか?」

 ただただフォークを運ぶという作業に、私は飽きてきたのである。それに、気をそらしたいのだ。話をしようじゃないかダニエル・ラシュトン。

「んー? やってみるよ?」

 ダニエルそこらに転んでいた小枝を振るい、目の前にお菓子の材料と思われる小麦粉やら牛乳やらを出現させた。

「天才と呼ばれるボクでもこの程度さ。ほんっと、お菓子は至高だよ」

 すげー。料理の材料費が小枝の一振りで浮くとかすげー。

 羨ましく思う気持ちもそこそこに、私は少し彼に近づくことにする。物理的な意味じゃないよ。

「魔術開発は、そんなに嫌なのですか?」

「嫌だね。もう絶対にしない」

 乙女ゲームのダニエル・ラシュトンは、ここまで嫌がってはいなかった。悩みはするけれど、開発はしていたし、出ていくなんてことも言わなかったのだ。オリアーナの裏切りによって、おそらく彼は吹っ切れてしまったのだろう。

「魔術は嫌いですか?」

「好き…………なのかな? 便利だとは思ってるよ」

 ダニエルは最後の一口を頬張ると、ここから見える一件のカフェを指差した。

「さ! まだまだ食べるよ!」

 す、すげー胃袋。

 私は見ているだけで、お腹がいっぱいだった。

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