第十一話 甘いものパクパク
しわくちゃのシャツ、だらりと結ばれたネクタイ。羽織っているのは、袖の長いフード付きのローブ。
髪質は猫っ毛で、右目には眼帯をしている。
ダニエル・ラシュトンは、眠たげな目蓋を擦りながら私を見た。
「で、誰さキミ」
「こんにちは。ダニエル・ラシュトン様。国王陛下の命により、貴方を更生させるため、やって参りました。シャノン・フリエルと申します」
嘘は吐かない。もしも嘘を吐いてしまい、それがバレたとき、それが一番怖いからだ。オリアーナと同じ、裏切りは、絶対にしてはいけないのである。
「……更生? 何でそんなことになってんの? ボクが魔術しよーがしまいがボクの勝手でしょ? もういーよ。あれやれこれやれって、嫌になったから、こんなとこ出てくよ」
わーい。引きこもりからは脱却だぁ。
さて…………どうしよう。
恐らく私はダニエルに魔術開発をさせ、学園へ登校させなければならないはずなのだ。
出ていかれたら、それが難しくなる。
しかしながら、私には秘策がある。
乙女ゲームをクリアし、攻略本まで買った私は、キッチンへと移動する。ダニエル・ラシュトンは甘いもの、お菓子やデザートなんかに目がないのである。それを使って彼を釣ろうと考えたのだが、キッチンも例外ではないようで、そこは散らかっていたのだった。
一応、何をどこへやればいいのかと、片付け方を聞いてみると、全部燃しちゃうかとか言い出したので、素人目に似たようなのを纏めながら片付けた。
部屋がすっきりする頃には、日が暮れつつあった。寝転がっているダニエル・ラシュトンは、どこに行く風でもなく、ごろごろとしている。
私はささっと夕食の支度をして、ダニエルが食べ終わる頃にデザートとしてケーキを出すと、彼は甘いものを前にして、目を輝かせたのであった。
「ケーキぃい! ケーキだぁあ!」
無邪気やな。
本当に美味しそうに、幸せそうに食べるものだから、作りがいがあるというものだ。
「明日はピクニックに行きましょう。お菓子を籠にいっぱい詰めて」
「おー!!」
これ、お菓子で開発とかも釣ればええんやない?
その日の夜、事件は起こる。
ダニエル・ラシュトンの住んでいる部屋は広く、さらにいくつか部屋があり、私は一番狭い部屋に布団を用意して寝ていたのである。
そして、私は何か違和感を感じ、目を覚ますと、そこにはどアップで美形の顔があった。
「やぁ」
「やぁっじゃないですよ! 何してんですか!」
「ボクのお布団を奪ったのはキミでしょ?」
あれは布団じゃなくて、タオルの山だよ!
キミってば温かいねと言われたけれど、それはあれかな! 子供っぽいねってことかな!?
「それじゃあ、おやすみー」
「寝ないでくださいよ!」
「何? 寝かせてほしくないの? ん? あは。真っ赤になった。うんうん。温かいねー。おやすみー」
うわぁああぁぁああ!