表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/23

 第十話 ダニエル・ラシュトン

 まず最初に、彼のことを思い出そう。

 『primavera†Siesta』という乙女ゲームに出てくる、ダニエル・ラシュトンという攻略対象者を。

 彼、ダニエルは天才魔術師である。

 数々の魔術を作り上げ、大々的な儀式をせずとも、その域の魔術を、彼は杖一振りで行使することが出来てしまう。魔術研究機関『セージ』での期待の星なのだ。

 天才。

 それ故に、彼は苦悩していた。

 次々と来る新たな魔術開発の依頼と、周囲の勝手な期待が、好きであったはずの魔術を嫌いになるくらいに、彼を追い込んでしまったのである。

 けれど、彼の前に一人の少女が現れる。乙女ゲームの主人公オリアーナだ。彼女はダニエルに、魔術の楽しさを思い出させる。そして、二人は惹かれ合い、ダニエルは機関のトップになるというストーリーである。

 しかし。そう、だがしかしなのだ。

 この世界でのダニエル・ラシュトンは、オリアーナに裏切られ、研究機関の寮に引きこもっている。彼は魔術開発をしていないというが、それをどうにかするのが私の役目なのだ。けれど、一体どうしろっていうのだろう。好きなものが嫌いになって、好きになって……忙しいなダニエル・ラシュトン。


 王子のメイドを暫し辞めることになったのだけれど、リリーとララは普段は有能であるはずなので、あまり心配はない。それよりもリリーの抗議が大変だった。国王陛下を闇討ちしようとしたのである。止めさせるために、彼女には私の私物を何個か渡すことで手を打った。喜んでくれたから良しとしようじゃないか…………納得しようじゃないか…………私。


 私は荷物を入れたトランクを持ち、魔術研究機関『セージ』の中でも選ばれた者だけが住むという豪奢な寮に足を踏み入れた。ここの管理を任されている男性に事情を話し、私はダニエル・ラシュトンの住む部屋を教えてもらう。実は、王子とイザドラの件で私は国王陛下より勲章を賜ったので、これを見せればある程度のことが許されるらしい。こういった物は、使いどころを間違えてはいけないので、使いどころは考えなくてはね。うん。


 コンコンコンと扉をノックするも返事がなく、中で人が動いたような気配もない。まぁ、これくらいは想定の範囲内である。

「ふははー。開けーごまっ」

 私は管理を任されている男性から借りた鍵を鍵穴に差し込み、がちゃりと解錠する。私は何者にも止められないのだよ!

「…………っ!?」

 しかし、扉を開けた途端、私は口許を手で覆う。

 臭いがキツいのだ。鼻がもげるくらいに。

 入ることを躊躇ってしまうけれど、勇気を出して「失礼します」と断りをいれ、中を突き進んでいく。そこは、臭いの原因が解らないくらいに散らかっていた。書類の塔は崩れた様に辺りに散らばり、杖や壺はあちらこちらに落ちていたり、割れていたりしていて、臭いの原因の疑いが高い薬草や液体を入れた容器も床に散乱していた。

 何かの剥製や骨も置かれていて、カーテンは閉めきっているようで、とても不気味な部屋だ。

 私は乙女ゲームの内容を思い出す。確か、散らかったこの部屋をオリアーナが綺麗に掃除するエピソードがあったはずだ。この臭いで、よく笑顔だったなオリアーナ。ヒロインの鏡だぜ……。

 私は窓を開け放ち、深く呼吸をする。

 空気がうまい!

 さて、まずは部屋掃除からだな。下手にやると怒られてしまうかもしれないので、あまり怒られそうにないタオルタワーに手を出すことにする。こんなにタオルが必要なのだろうかと疑問を感じるタオルの量に圧倒されながらも、私は一枚ずつ畳んでいく。次を畳もうとしてタオルタワーに手を突っ込むと、タオルとは違う感触があった。驚いて思わず手を引っ込めるが、気になってまた突っ込む。触ると人の手のような形をしていたので、私はそれを掴み、引っこ抜いた。

「ふぁあ…………ん? キミ誰さ。ボクの部屋で何してんの?」

 それはね、こっちの台詞だよダニエル・ラシュトン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ