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「ある何か離れてそれ自体存在していて、なんらかの感覚的なものに属しないようなものが、果たして存在するのかどうか」

                 by アリストテレス



 光を失いつつある太陽が朽ち果てた大地を照らしていた。ボロボロの小屋、恐怖の森。ここは現実という名の世界。

 ぼくはボロクズの剣を持って、怪物退治に行くことにした。村長が頼んでくるのだ。村を荒らす怪物を退治してほしいと。

 それで、ぼくは一人で村を出て、恐怖の森に入った。この森のどこかに怪物がいる。

 しかし、動きにくいなあ。ぼくの足はどうしてこんなに動きが悪く、手はか弱く、頭はとろいんだろう。

 森を歩くと、少女がいた。ぼくと同じように剣を持っている。

「どうしたの」

 と聞くと、少女がこっちを向いた。

「怪物退治に来たのだけれど」

 少女はそういう。

「なんだ、ぼくと同じじゃん。きみも近くの村を荒らされたとかで派遣されてきたのかい」

「うん。だいたいそんなところだよ。よかった。一人じゃ心細かったところなの。あなたもこの森の怪物を退治しに来たんだね」

「そうだよ。一緒に戦おう。ぼくはナルエー。きみは?」

 少女はちょっと横を向いて答えた。

「あたしはプテラ」

 そして、ぼくとプテラは恐怖の森を進んでいった。

「この剣、ボロボロでしょ。もっといい剣があるといいんだけどな。きみの剣のが切れやすそうだね」

 とぼくがいうと、プテラは重大な秘密をあっさりと打ち明けるように不思議な口調で話した。

「あたしの剣もボロクズの剣の一振りだよ。この世界は影なの。どこかに完全な本当の世界があって、あたしたちの世界はその影によってできているんだよ」

 完全な世界? 影?

「いったいどういうこと?」

「それは、ことば通りの意味だよ。それがこの世界で賢く生きるコツなんだって。本当の完全な世界では、完全な出来事が起こるから、これからあたしたちが怪物を退治するのは、本当の完全な世界の影のできごとなんだよ」

「ううん、よくわからないな」

「とても大切なことよ。本当の完全な世界で怪物を倒せない限り、怪物は何度でも復活するんだよ。それは、怪物の本当の形が傷つけられないからなんだよ」

「ううん、やっぱりよくわからないな」

 そして、話しているうちに、森の中で洞を見つけた。


「たぶん、この中に怪物がいるね」

「うん。怪物の巣だよ、これ」

「無事に勝てるといいんだけど。このボロクズの剣でどれだけ戦えるだろう」

 そして、ぼくらは洞の中に入った。

 怪物がいた。

 赤いグリフォンだ。

「我が棲家に何の用だ、人間どもよ」

 怪物の怒声が響いた。

「いくぞ」

「うん」

 ぼくらはボロクズの剣で怪物を切りつけた。一振り、二振り。プテラとは息が合う。うまく、連携して怪物を追い詰めていく。

「それ」

「ぎゃあ」

 ぼくのボロクズの剣の大振りが怪物の背中を斬りつけた。

「二度と村を荒らせないように退治してくれる」

 何度も怪物を斬りつけると、怪物は飛べずに動かなくなった。怪物が透明な血をだらだらと流している。

「貴様らのボロクズの剣でこの我が負けるわけがないだろう」

 赤いグリフォンの傷はみるみる回復していく。決して死なない化け物のようだ。

「きゃあ」

 プテラが左手を食いつかれた。

 ぼくは怪物の背中を斬りつける。

 怪物が痛みで噛みついた口を開ける。

「逃げるぞ、プテラ。この怪物、傷がどんどん治る。まるで不死身の怪物のようだ。このままでは勝てない」

「うん」

 ぼくとプテラは走って洞を出た。

「はあはあ、追ってこないな。どうして、あんな怪物がいるんだろう」

 プテラは左手から血を流していた。

「傷、大丈夫かい」

「うん。ちょっと痛いけど」

「包帯ならあるよ」

「ありがと。やっぱり、この影の世界では決してあの怪物を倒すことはできないんだよ。本物の完全な世界であの怪物を倒さないといけないんだよ」

「そんなことどうやったらできるんだ」

「イデアって知ってる?」

「イデア? 聞いたことはあるよ。別次元に真理があるんだろう」

「そう。そのイデアの世界の怪物を倒さない限り、この世界のあの怪物は決して死ぬことはないんだと思う」

「そうかあ」

 そして、ぼくらは森を抜けて、ぼくの村へ帰った。


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