一章 エピローグ
遠山吉人の攻撃によって気を失っていた磯澄日向は、自分の家であるマンションの302号室で目を覚ました。
「う……うん? ここは…………家か。私どうしたんだっけ……そうだ、あの男にやられて……」
「あ、目が覚めましたか」
「ってええええええぇぇぇぇぇ!!!??? なんで心明ちゃんがここに!?」
驚愕する日向の部屋に、兄の磯澄勇也が入ってきた。
「お、目ぇ覚めたか。気分はどうだ? 特にひどい怪我はなかったみたいだけど」
「あ、う、うん。大丈夫だけど…………」
「そっか、なら良かった」
「ね、ねえ……なんで心明さんが家にいるの? …………ていうか、あの男はどうなったの? 私、あいつの攻撃を受けて………………」
どんどんと質問を重ねる日向に、勇也は
「まあ、とりあえず落ち着け。リビングにリーダーと宮ノ内さんがいるから、そっちに行ってから説明する」
勇也達がリビングへ行くと、美春と宮ノ内が話していた。二人は日向に気付くと、すぐに話しかけてきた。
「あ! 日向! 大丈夫か!? 怪我は? どこも痛めてないか!?」
「うわっ!? いや、全然大丈夫ですよ! どこも痛めてません。」
「そ、そうか…………良かった……………………日向、その…………」
なぜか申し訳なさそうな顔でうつ向いている美春に、日向は不安になったが、美春が先に喋り出した。
「…………本当にすまなかった。何の関係もなかったお前を、私達の都合で巻き込んでしまった…………」
美春から出てきたのは、謝罪の言葉だった。深く頭を下げて、誠意を示している。
「えぇ!? ちょっと、頭上げてください! …………ていうか、またそれですか? 元々最初に狙われて巻き込まれたのは私自身ですし、助けてもらって、役に立てたらと思ってそこから首を突っ込んだのも私からですよ! まあ、結果的には足手まといになっちゃったみたいですけど…………ですから、美春さんは何も気にしないで下さい。」
「………………ありがとう」
「はい! ……それに、これ以上関わると兄にこっぴどく怒られそうなので、これからは何もできませんし…………」
「これ以上、じゃなくて今回ので十分アウトだ。後で俺の部屋こいよ……」
「う…………。じゃ、じゃあそろそろ説明してよ、どうなったのか……」
「…………そうだな、じゃあいくぞ」
勇也が説明を終えると、日向は怪訝な顔をした。
「神名……良美? その人が私を助けてくれたの?」
「ああ……本人の話を聞く限りではそうらしい」
宮ノ内が答えると、心明が疑問を口に出した。
「彼女は本当に本物の神名良美なんですか? 名乗ってるだけなんじゃ……」
「おそらく本物だろう。能力も同じだったしな」
美春の予想に、勇也が結論を出した。
「本物だな。今知り合いに聞いたんだけど、神名良美はこの町に行くと言っていたらしい」
「なっ…………っ! おい、その知り合いというのは何者だ? そんな情報を持っているなんて……」
美春に聞かれ、勇也は名前だけを答えた。
「和井菜月だ」
「なっ…………あの『七月』の!?」
「あぁ、そうだ」
「嘘…………」
「……成る程、そんな奴が近くにいれば、どんな情報も入ってくるということか」
「まあ、そうだな。……たまに、機密事項とか言って教えてくれない時あるけど」
「それはそうですよ……」
そして、勇也が話を変えた。
「さて、これから暗部の生活が始まる訳だけど……リーダー、学校には行ってもいいんだよな?」
「まあ、仕事の時は休むことになるだろうが、問題ないだろう……ま、その辺の暗部の事情については後々教えるさ」
「分かった」
「とりあえず、近いうちにアジトへ案内しなければな。空いている日は?」
「じゃあ明日で」
「分かった。……さて、そろそろ帰るか。宮ノ内、心明、準備したら行くぞ」
そう言われ、二人が準備を始める。
途中、心明が勇也に話しかけてきた。
「あの……」
「ん? どうした」
「これから、よろしくお願い……します」
「おう、よろしくな」
そうして、勇也以外の『トレイン』メンバーは部下の車で帰っていった。
これが、磯澄勇也の暗部生活の始まりだ。