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avec_toi   作者: くれきあお
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3-drei-

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崩れ落ちた身体を再びイスから起こしてそっと近付けば、彼は彼は壁越しに手招いて透明な壁の、こちらの顔の高さに手をつけた。拍子に彼の手首にかかる銀のチェーンがちらりと顔をのぞかせた。

彼の、人を殺した罪の証。

しばらく沈黙した後、シュヴァルツはでもね、と真っ直ぐな視線をこちらに向けて言った。


「……何度も言うけどね、僕は激しい感情をぶつけてくる『有機物』の君も好きだけど、そっけない『無機物』の君も好き。大好きだよ、ミエル。だから僕は、敢えてその君の態度も受容するんだ…」


づう、と彼は壁に付けていた指を滑らせた。


「……僕はどっちの君も好きだから、自分からは殺さない。君を誰かに殺されるくらいなら、僕が殺すってことだよ。勘違いしちゃ駄目だよ。勝手に誰かに殺されたりしちゃ駄目だ。ミエル…」

「……」


ふと時計を見て時間を思い出し、何とか彼の優越をぶち破る様に話を切った。


「シュヴァルツ。私はもう帰るわ」

「あーあ…もうそんな時間…」


立ち上がり、反転して扉の方に顔を向けて歩き出すと、ああそういえば、とシュヴァルツが思い出したような声を上げた。何事かと思い再びそちらを振り返ると、彼の黄金の瞳が悪戯に視線の先で輝いている。


「最後の、12人目の教誨。ステンドグラスがはまっていた元の教誨を見てご覧。今じゃないよ、昔在った場所…街外れの古びた教誨ってコト。……そこに面白いものがある。暇が出来たら行ってみると良い」


それから彼は可笑しくて堪らない、といった風にニタリとした笑みを張りつけたのだった。




+




それから間もなくして私は例の教誨に行ってみる事にした。何の事は無いただの好奇心に過ぎないのだが、彼が最後に言ったあの言葉がどうしても気になっていたのだ。

朽ち果て欠けた扉を通り、祭壇のある部屋へ進む。神が住まうあの荘厳な佇まいの祭壇は今や土と埃にまみれている。その背後にはステンドグラスがはまっていたであろう壁の穴がある。―そこにはもう何もない。神の象徴は欠け、そこが既にいかに使われていないかを物語っている。祭壇に近づき、見つめようとする前にふと思った。彼は何故この事を知っているのだろう? 私は事件のあらすじの様な事しか朗読していないのだ。それなのに、何故彼はここに面白い物がある、と言ったのだ? どこかでそれを知ったのか? 情報は漏れていないはずだし彼も漏らす様な事はしない、というか出来ないのだ。あの白い部屋は彼を全てから遮断しているという。

それからしばらく考えたが、その場で考えても仕方ない事なので取りあえずステンドグラスの近くまで行く。朽ちかけた祭壇を食い入る様に見つめると、そこに何かキラリと何かが光を反射して光った。祭壇まで行き、その姿を確認する。

それは細工の美しい金色の懐中時計だった。鎖は切れてしまっていたので持ち上げた拍子に音を立てて滑り落ちる。耳を当ててみるが音はしない。ひっくり返し、元に戻してから蓋を開けてみる。よく見ると蓋の裏に小さな文字が彫られているのがかろうじて読みとれた。



『Avec toi』(アヴェク・トワ)


〝君と共に〟



「……これ…は…」


君と共に。


それでは、彼は―あの12人を殺したというその彼はー本当に愛おしい者を探していたのか。よくよく見るとチェーンには何かが茶色い物がこびり付いている。恐らくは…血だ。その後も懐中時計を見返してみるが、それ以外は変わった事は無かった。


「……」


擦れて傷つき、所々金が禿げてしまっているそのつたないメッセージをしばらく見つめていた。胸が締め付けられ、鼻の奥がじいん、と痛む。何故だか涙が零れてきた。

―罪を犯した理由。

それは、愛おしい者を求めた者の唯一の願い。ただ会いたかっただけ。ただ一緒に居たかっただけ。愛したかっただけ。それはあまりに無垢で、純粋な、純粋過ぎる思い。異種が求めた、たった一つの思い。それが人を脅かす大罪を起させ―そして叶わずに終わった。報告書によれば、彼の本当の思い人はずっと前に死んでいた。

その思いを考えると、切なかった。ただ切なかった。


Avec toi アヴェク・トワ。


〝君と共に〟

君と共に。

君と、共に。


それは異種族―ヴァンパイアと人間とでは決して叶わぬ思い。

彼は自分を追い掛けて来た捜査官に彼女の幻影を見たのだろうか。

叶わぬ思いを消化できぬまま、己の無気力な生を生きたまま、そしてその幻影に何を願ったのだろう。



―その場に崩れ落ちて、ミエルは一人咽び泣いた。






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