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avec_toi   作者: くれきあお
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「……彼は10人目まで他の人間を操って殺していた。10人目はその操っていた人間。その後11人目は美術館の野外アートの下で殺される。12人目は古びた教誨。そこには中世の物を模したダンス・マカブル…死の舞踏のステンドグラスがはめ込まれていた。尤もそれは、もう朽ち果てた教誨から運ばれた…」

「ダンス・マカブル! へえ、もう無くなったと思ってた!」

「言ったでしょう、リメイクものよ。それでも古いは古いらしいけど」

「へえ…見たいな」


楽しそうにそう言ってから、シュヴァルツは考え事をする為に首を傾げて黙りこんだようだった。しばらくして囁くように赤い、血のような色をした唇から言葉を漏らす。


「10人目は無残に殺された、操っていたくらいだ、どうでもいい存在だから喰い散らかしただろう。11人目は野外アートの下だから樹木は目に付く場所にあるね。12人目は教誨か。…それでは、その殺された人間はエメラルドグリーンの瞳、かな。ダンス・マカブルのステンドグラスがじゃ出来ない事もないが、不特定すぎる………色々考えると、緑というのは彼にとって純粋なもの―樹木ではないか、寧ろ緑という色そのものなのかな」


それでも少し悩んでから、シュヴァルツは傾げていた首を元に戻して顔を上げる。ミエルはちら、と彼に目をやってから資料にまた視線を戻して言った。


「彼の…本当の姿の彼の瞳はエメラルドグリーンだったそうよ」

「本当の姿?」

「……喰った子供の皮を被っていたらしい。だから事件毎に気配が違い、捜査官は迷ったみたい」

「だから言ったでしょ、能力者の捜査官は力に頼り過ぎる……で、死んだの?」

「ええ。本命のその捜査官の目の前で」

「…そ。…じゃあ彼は、己の瞳に何か思い入れでも在ったのかな。彼はヴァンパイアだし、その捜査官が本命ってのも違和感だ…」

「似てたんですって、顔が」

「嗚呼、そう言う事…彼女との思い出? 緑の瞳が? 分からないな……でもあれだ、もう過ぎた事か。…ならどうでもいい、至極どうでもいい」


彼は本当につまらなそうに荒々しく首を振ってそっぽを向いた。それからそれに、と続ける様にシュヴァルツは突然立ち上がってからこちらにーと言っても壁に挟まれているのだがー近づき、その透明な壁にペタリ、と人差し指を突きつけた。


「君は僕の事だけを考えていればいい」


そして見据える、黄金の瞳。異形の瞳のような、美しい瞳。その瞳が私を移す時だけ、時の流れは一瞬にして流れを変える。


「君が他の男の事を考えるなんて許さない。君を殺すのは僕だ。僕を殺すのは君だ、ミエル。それ以外は死んでも許さない。君を殺すのは僕だ僕以外許さない」


それは殺意だ。禍々しい程の殺意。あの時のあの感情が今は壁を通して伝わっている。ぞわぞわと背中に虫が這いまわるようなおぞましさ。どこか胸を刺す様な切なさ。声は楽園の蛇の様に艶を持ち毒を放つ。それら全てを唇を噛みしめて堪え真正面から受け取る。しっかりと彼を見つめる。彼を殺す。その意識で彼を見つめる。その時だけ私は『有機物』になる。彼がそれを望んでいるから。

その時だけ彼は人を殺す『無機物』と化す。


「…ふは」


やがて乾いた笑いが室内に木霊した。


「ははははははははは! あははははは! ふはははははははは!」


彼が、身体をのけぞらせて、狂ったように全身で笑い声を上げる。その様子も私はしっかりと彼を見つめていた。それはまるで関心の無い喜劇を見ているかのように、面白くもなんともないものだ。しかし見なければならない。

やがて彼は笑い終わると、今度はベタン!と両手を壁に貼り付けて身体の重みを預け、下からゆっくりとこちらを見返した。皿の様に丸く開いた瞳が瞬間、微笑みによって細くなる。


「…その視線が見たいんだよ。俺を捉えた時に俺だけに向けられた瞳。ミエル…俺はいつだって逃げ出せるんだ。あの時も簡単に逃げられたんだよ。それでも敢えて、君がいたから、君だから掴まったんだ。僕を殺す役目を君にあげる。そのかわり君を殺す役目は僕に頂戴。あの時から、君が僕を捕まえた時から、僕らは誰よりも近しい関係になったんだ…」


甘く囁く声は脳髄を酷く刺激する。クラクラと眩暈を誘う声が意識に直接語りかけてくるようなそんな感覚を受ける。そして彼は待っていたかのように衝撃の言葉を口にした。


「君はいつも関心が無い、興味もない、人としてすら僕を見ていないふりをする事で僕を手なずけていると思っているのだろうけど、違うよ。僕はそんな君が好きだから―そういう風に思わせてあげようと思った。愚かで、可愛くて、それが堪らなく愛おしい」


三日月の様に、その真っ赤な唇が持ち上がって笑った。ミエルはその場にイスに腰掛けたまま、言葉もなくただ絶句していた。

―彼にはやはり全てが分かっていた。

どこかそんな気はしながらも気がつかず、結局彼の掌で踊らされていた、という事実に、彼はいつでもここを出られる、という事実に、言葉が出なかった。今まで自分がしてきた事は。自分がしてきた事は。黄金の瞳がまた嬉しそうに笑い、細められる。


「正直に告白してしまうなら―僕はあの時―あの瞬間に、激しい感情を僕に向けて来た君に惹かれてしまったんだね」

「……そう」


やっとの事で無機質な音程でそう言い放つと、彼は尚も嬉しそうに笑ってこちらを見た。



「おいで」




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