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白色のチューリップ:新しい恋
四月。桜の舞う季節。
俺は高校に通うことになった。しかも2年生。
えっ、いきなり二年生ですか?
いえいえ、私は今年で十八歳です。
本来なら高校生三年生になっていたであろう年齢である。
なら、何故二年生かというと一言で言えば出席日数の関係であった。
中学生までは、病院の中にある院内学級に通うことが多かった。高校は、かなり迷ったけど私立の高校を受験し合格した。
しかし、高校に上がって半年もしない内に病状が悪化し、再入院。いつものことだから慣れているが、今回はかなり困った。
高校生は院内学級の対象にされていない。まずは休学の手続きをしたが、入院が長引くことも考えて退学するか悩んでいた。
そんなとき、院内学級の先生に訪問教育を受けてはどうかと勧められた。
それからは、訪問教育とボランティアで病院を訪れていた大学生の手を借りて勉強を進めてきた。
その合間、一時帰宅などのときにはなるべく学校に行って出席日数を稼いだつもりだったが、進級できなかったらしい。
一年生後半から、二年の二月まで入院生活である。
やはり厳しかったか。
しかし、学校側の配慮と母の懇願のおかげか、二年生からまたやり直せることになった。
この際いっその事、一年生からの方が…と考えてみたが、周りが十八歳で卒業のときに自分だけ二十代と言うのはおじさんって感じがして嫌だなぁと思い、その恩恵をありがたく受け取ることにした。
今日は十日。
入学式からは数日過ぎている。
高校は小学生まで住んでいた隣町の高校を選んだ。
一年生は半年も行ってないから友人も少ない。その数少ない友人たちも一つ学年が上になるからなかなか出会う機会も少ないだろう。中学生まではほとんどが病床の上だった為、友人が出来た試しがなかった。
また一からのスタートだ。
よし。
目を瞑り、心の中で自分自身に気合を入れる。
張り切って校門を潜った。
まだ職員室へ行く時間には早い為、校舎へを続く桜並木をゆっくりと歩く。
登校時間には些か早い為、人影は疎らだった。
桜は満開だ。
風に煽られて、桜の花びらが掌に収まる。
真っ白。
本当なら綺麗なピンク色なのだろう。
桜の木の下には死体が埋まっているという伝説地味た話しがある。
本当は真っ白な花びらが、死体の血を吸い上げることで綺麗に色づくのだと。
実際の色はこんな感じかな。
あのチューリップのような綺麗な白だった。
そんなことを考えている内に、強い風に煽られて桜の花びらが舞い踊る。
いつもの灰色の空を白く染めた。
・・・
「今日からクラスメイトになる、一色だー」
「一色 遼です。よろしくお願いします」
職員室で、校長先生や担任から軽く説明を受けた後、SHRの時間に合わせて教室へと向かった。そして今、クラスメイトの前で、挨拶をしている訳であるが。
皆の視線が一身に集まる。
闘病生活の為、人前に出ることなんで皆無と言っていいほどなかった人生だ。緊張で鼓動が跳ねる。それを表に出さないように冷静さを保っていた。
だが、所々で聴こえてくる女子のヒソヒソ話しや、好奇に満ちた視線に耐えられなくなってきていた。
早く終わってくれ。
「一色は、この間まで入院していたー。だが一昨年までこの学校に通ってたんだぞー。お前らより一つ年上になるがみんな仲良くなー」
「はーい」
「じゃぁ、一色の席は…」
変に間延びした担任の話し方が気に障るが、それよりも早く座りたい。この雰囲気は耐えられない。慣れない。もう二度とやりたくない。動悸がする。苦しいです。
これは病のせい…ではないだろう。変に疲れた。
やっとこの変な緊張感から解放される。
心の中で溜息をついた矢先、勢いよく椅子を引く音が教室中に響いた。自分に集まっていた視線が一気にそちらへ向かう。
窓側の後ろから二番目の席の女子生徒が、目を見開き俺を指差していた。
彼女だ。
花屋で白のチューリップを渡してくれた、笑顔が印象的な彼女だった。
「あっ…」
「この前の、黒装束の人‼」
「……………はっ…?」
彼女との再会は、かなり最悪だった。