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二つの影
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月が出ていた。
見事な満月だった。月はいつもより夜を明るくし、川の水面に光を落としている。
川沿いに咲く桜は、もうすぐ満開を迎えようとしていた。花吹雪が舞う。
川べりには、二つの影があった。
「何故、余計な事をする?」
小さな影が、凄みのきいた声で問うた。細長い影は、紫煙を吐き出す。
「変な邪魔が入ると、計画が狂うだろう」
「……お前は、一人でも人を『不幸』から遠ざけたい」
「そうだ。そのために、貴様を多少は当てにしているのに……」
まったく……と少女がぼやく。
「だが、それで香坂は幸福なのか?」
細長い影が、煙草をくしゃりと潰した。
「貴様が、あの娘の幸福を語るとはな」
「彼女に暗い顔をさせるのはやめにしないか? 黒猫。母親と同じ道を辿らせるのは……」
「貴様になんぞ、言われたくはない」
黒猫ーーハルは、ふんと鼻を鳴らす。
「この、死神崩れが」
彼女の鋭利な眼差しにたじろぐことなく、死神ーー久保田は、彼女の瞳と同じ金色の月を見上げた。
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