傷痍軍人
その人のベッドには、鉢植えが置いてあった。
「なんで、鉢植えなんでしょうかね」
陸軍中佐として、戦地へ派遣され、爆弾によって左足をまるまる失い、左手が動かず、左目が極めて見えにくい状態だという。
そのためか、彼は体の右側ばかりを動かす。
その鉢植えが置いてあるのも、彼から見て右側だ。
「……さあね」
彼はのんびりとした独特な口調で、植木鉢に植わっている植物を見ていた。
「どなたからの贈り物なんですか」
カーテンを開けながら、彼に聞いてみる。
「……さあね」
だが、その彼の目線は、慈しむかのような、まるで子供を見るような感じだった。
きっと、大切な人からの贈り物だろうと考え、それからは何も聞かなかった。
それから3カ月後、彼は体内に残っていた爆弾の破片による化膿が原因となり、亡くなった。
最後に、この植木鉢について聞こうと思ったが、ついに聞きそびれてしまった。
だから、手元にあるこの植木鉢については、結局何も分からないままだ。