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かみかくし

作者: 藤鳥沢

「神隠し」

半分以上隠れた雑誌の、どこかおどろおどろしくも見えるその文字から私は目が離せなかった。




漫画の最新刊と参考書を手に本屋を後にする。

それからもう一冊。

「神隠し」という文字に惹かれ手に取ってしまったそれは、名前も聞いたことのないような、どこか堅苦しい雰囲気を持った雑誌だった。

当初の予定より1000円近い出費は痛いが、買ってしまったものは仕方ない。

本との出会いは一期一会だ。欲しいと思った時に買わなければ後悔する。



家に帰ると山のような洗い物が待っていた。

取り合えず見て見ぬふりで、ビニール袋から本を出す。

漫画と参考書は後回しだ。



記事は思っていたよりも量が多く、充実していた。

各地に伝わる伝承や神隠しとしか思えない現在の行方不明事件を軸に、そもそも神隠しとは何かということが分かりやすく面白く書かれている。

これは当たりだ。

特集の最後に神隠しを扱った本が紹介してあったのでその幾つかにボールペンでチェックを付けておく。



特集を読み終える頃にはすっかり暗くなっていた。

都会の夜は明るいが、一歩道を入れば神隠しに合いそうなそんな暗さだ。



そう言えば、とその暗さに子供の頃のことを思い出した。



母の実家は田舎で、すぐ後ろには山があった。

悪いことをすれば大人に怒られるというのは当たり前のことで、母の実家ではそこに山が密接に関係していた。

「悪い子は山の神様に連れて行ってもらうよ」

「山の神様が迎えにくるよ」

今思えばそんなことと思うが当時は本当に恐ろしく、母や祖父母が「山の神様」と口にするたびに、必死に泣きながら謝った憶えがある。

あの神様にも確か名前があったはずだ。

もう思いだせないそれは、私の中に恐ろしさと懐かしさを残している。




しばらくの間雑誌を閉じることができなかった。

「神隠し」の文字が、薄く暗い字で、静かにそこに佇んでいた。






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