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逃げ切った先には何があるか  作者: エピファネス


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第5話 嫌な予感は、だいたい当たる

 その違和感は、朝からあった。


(……なんか、嫌だな)


 理由はない。

 音も匂いも、昨日と変わらない。


 ただ、胸の奥がざらつく。


「どうしたの?」


 セラが、歩きながら久遠の顔を覗き込む。


「いや……何でもない」


「その“何でもない”、最近多いね」


 商人ギルドへ向かう途中だった。

 昨日と同じ道、同じ時間。


 それなのに、足が少し重い。


(気のせいだ)


 そう思って、一歩踏み出した瞬間。


 ――ガシャン。


 前方で、木箱が崩れた。


「おっと!」


 馬車の横で作業していた男が声を上げる。

 積み上げた箱が傾き、雪崩のように落ちていく。


 久遠は、反射的に後ずさった。


 次の瞬間、箱の一つが地面に叩きつけられ、粉塵が舞う。


「危ねぇ……!」


 周囲がざわつく。


「怪我人はいないか!」


「誰か、手伝え!」


 久遠は、少し離れた位置で立ち尽くしていた。


(……あのまま歩いてたら、下敷きだったな)


「ね?」


 セラが、得意げに言う。


「今の、来てたでしょ」


「……来てた」


 説明できないが、確信はある。


 あの嫌な感覚。

 無視していたら、巻き込まれていた。


「それ、能力?」


「さあ……」


 久遠は首を傾げる。


「考える前に、体が止まる感じだ」


「ふーん」


 セラは、少しだけ真面目な顔になった。


「派手じゃないけど、生き残るには十分だね」


 ギルドに着くと、いつもより人が多かった。


「今日、荷が多いからな」


 受付の女が淡々と言う。


「報酬は出来高制。

 ただし、遅れると減額」


 倉庫に入った瞬間、またあの感覚が走る。


(……ここ、嫌だ)


 天井を見上げる。


 梁が古い。

 縄が一本、妙に擦り切れている。


「セラ」


「うん?」


「あの辺、近づかない方がいい」


「理由は?」


「ない」


「了解」


 二人は、少し離れた場所で作業を始めた。


 数分後。


 ――バキッ。


 嫌な音がして、梁の一部が崩れた。


「下がれ!」


 誰かが叫ぶ。


 荷が散乱し、倉庫は一時騒然となった。


 だが、久遠とセラの場所は無事だった。


「……また当たり」


 セラが呟く。


「これ、偶然じゃないよね」


「……だと思う」


 久遠は、胸を押さえた。


 さっきから、心臓が早い。


(万能じゃない)


 わかる。

 未来が見えるわけでもない。


 ただ――。


(避けるべき場所が、なんとなくわかる)


 作業後、男が声をかけてきた。


「助かったよ」


 昨日の箱の男だった。


「お前が場所を変えたから、俺もつられて離れた」


「……そうだったか」


「ああ。

 直感、悪くないな」


 それだけ言って、男は去った。


「評価されたね」


 セラが言う。


「商人ギルド的には、プラス?」


「生きてる時点で、ね」


 銀貨を受け取り、外に出る。


 空は、少し曇っていた。


「この力、名前付ける?」


 セラが軽く聞く。


「要らない」


「そっか」


 久遠は、空を見上げる。


(これは、戦う力じゃない)


 英雄にはなれない。

 誰かを救う力でもない。


 ただ――。


(死なないための力だ)


 それでいい。


 少なくとも、今は。


 セラが、ぽつりと言った。


「ね、久遠」


「何だ?」


「この力、使い続けると……

 たぶん、普通の人生からは遠ざかるよ」


 久遠は、少し考えてから答えた。


「……最初から、普通じゃない」


 天使は、小さく笑った。


「じゃあ、合ってるね」


 逃げるための力。

 選ばないための力。


 それは確かに、久遠の中で目を覚まし始めていた。

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