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逃げ切った先には何があるか  作者: エピファネス


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第17話 忘れないで

 夜。

 宿の部屋は静かで、灯りだけが揺れていた。


 久遠は、机に広げた地図を見下ろしている。

 意味があるのか、自分でも分からないまま。


 線をなぞる。

 街道、裏道、袋小路。

 どれも、行かなかった場所だ。


「……結局さ」


 久遠が、ぽつりと呟く。


「俺、何も出来てないよな」


 女魔族は、椅子の背に腰を預け、足を組んだ。


「出来てない、って?」


「剣も振れない。魔法も分からない。

 結局、逃げてばっかりだ」


 女魔族は、くすっと笑った。


「へえ」


 その反応に、久遠が顔を上げる。


「何だよ」


「自覚なかったんだ、って思って」


「……何が」


 女魔族は、指先で机を軽く叩く。


「ねえ、久遠。

 あんた、いつ死にかけた?」


「……」


 即答できなかった。


「ほら」


「それは……」


「ないでしょ?」


 女魔族は、楽しそうでも、馬鹿にするでもなく言う。


「剣振ってる連中、何人も見てきた。

 ああいうの、だいたい“勝とうとして死ぬ”の」


 久遠は、視線を落とす。


「俺は……勝てないから」


「違う」


 即座に否定された。


「あんたは、負け筋を見てる」


「……負け筋?」


「そう。

 ここで踏み込んだら死ぬ。

 ここで粘ったら崩れる。

 ここで引けば、まだ残る」


 女魔族は、地図の端を指でなぞる。


「それ、誰でも出来ると思う?」


「……皆、やってるだろ」


「やってない」


 きっぱりと言い切る。


「大半はね、“進むこと”しか考えてない」


 久遠は、黙った。


「逃げるって言葉が嫌い?」


「……好きじゃない」


「じゃあ、言い換えてあげる」


 女魔族は、少し身を乗り出す。


「退く。

 避ける。

 捨てる。

 待つ」


 ひとつずつ、区切るように。


「全部、選択でしょ?」


 胸の奥が、ざわついた。


「選ばなかったんじゃない」


 女魔族は、静かに言った。


「あんたは、“まだ使える選択肢を残してた”だけ」


「……」


「だから生きてる」


 久遠は、息を吐いた。


「でも……それじゃ、攻撃出来ない」


「しなくていい」


 あっさりと返される。


「攻撃したい人にさせなさい」


「……は?」


「そのために、あんたがいる」


 女魔族は、微笑んだ。


「出口を作る人。

 失敗しない道を残す人。

 それが出来る人が、いちばん強いの」


 久遠は、地図を見つめる。


 今まで、無意識に避けていた線。

 無理だと感じていた場所。


 そこに――

 “選ばなかった理由”が並んでいることに、初めて気づく。


「……逃げてたんじゃ、なかったのか」


「やっと言えたね」


 女魔族は満足そうに笑った。


 そして、不意に視線を逸らす。


「ねえ、久遠」


「?」


「選ばれなかったものってさ」


 一拍、間があった。


「だいたい、忘れられるの」


 その言葉は、能力の話ではないように聞こえた。


「でも――」


 女魔族は、立ち上がる。


「覚えてる人が一人でもいれば、

 それは“なかったこと”にはならない」


 久遠は、彼女を見る。


「それって……」


 女魔族は、振り返らなかった。


「また、何も選ばなくていいよ」


 扉の前で、足を止める。


「その代わり――」


 小さく、けれど確かに。


「忘れないで」


 扉が閉まる。


 久遠は、一人になった部屋で、地図を畳んだ。


 選ばなかった道。

 進まなかった理由。


 それらを、胸にしまい込む。


 あのときと同じように、

 ――いや、少しだけ違う。


 久遠は、それを懐にしまい、

 あのとき選ばなかったものを――忘れないことにした。


数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


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