第13話 押し付けられた欠片
第2章スタートです
街に着いてから、一週間が経っていた。
護衛任務は無事に終わり、久遠は最低ランク――Fランクから一つだけ昇格した。
といっても、胸を張れるほどのものではない。
剣は振れない。
魔法も使えない。
出来ることといえば、危なそうな場所に近づかないことくらいだ。
結果、久遠が選んだ仕事は――ドブ攫いだった。
街の下水道に入り、詰まりや異物を取り除く。
誰もやりたがらない仕事だが、依頼は途切れない。
報酬は安い。
だが、追い立てられることも、信仰を問われることもない。
久遠にとっては、それで十分だった。
その日の帰り道だった。
夕暮れの路地。
人通りもまばらになり、露天商が店仕舞いを始めている。
久遠は足を止めるつもりはなかった。
ただ――視線が、引っかかった。
古布の上に並べられた、がらくたの山。
刃こぼれした短剣、欠けた装飾具、用途の分からない金属片。
その隅に、黒と茶が混じった何かが転がっていた。
小指サイズのカケラ。
宝石のような輝きはない。
加工前の象牙の破片のようで、鈍く燻んでいる。
見た瞬間、胸の奥がざわついた。
寒気。
高熱を出したときに、一瞬だけ走るような感覚。
だが、すぐに消える。
「……これ」
久遠が声をかけると、露天商は面倒くさそうに顔を上げた。
「魔物の石だ。価値は分からん」
信用できる説明ではなかった。
久遠は懐を探る。
残っているのは、銀貨が二枚だけ。
「……そうですか」
その問いに、露天商は答えなかった。
代わりに、布の上を一瞥し、舌打ちする。
「全部だ」
「……え?」
「全部まとめてだ。いらねえんだよ、もう」
説明はそれだけだった。
久遠が戸惑っていると、露天商は手を差し出してくる。
「金」
「……これしか」
久遠は手のひらを開いた。
銀貨が一枚。
露天商は、それを見るなり、ひったくるように掴み取った。
「十分だ」
そう言って、布を乱暴に畳み、そのまま久遠の腕に押し付ける。
「文句あるなら返せ。店仕舞いだ」
言い終わる前に、露天商は背を向け、人混みに消えた。
残されたのは、腕の中の重みだけ。
包みの中から、あのカケラが、かすかに触れる。
また、寒気。
「……嫌な感じ」
久遠が小さく呟いた、そのときだった。
「それ、感じるんだ♪」
声。
振り向くと、いつの間にか女が立っていた。
一見すれば、どこにでもいる人間の女。
だが、距離が近すぎる。
両腕で胸元を寄せるように抱え、前屈みになり、にっこりと笑う。
「……」
目が、合った。
久遠は、すぐに視線を逸らした。
(関わらない)
(見なかった)
歩き出そうとした、その背中に。
「天使くさいの、もう消えてるのに」
ぽつりと、女が呟いた。
足が、止まる。
久遠は、ゆっくりと振り返った。
「……何で、それを」
女は楽しそうに笑った。
「違和感、信じなかったことあるでしょ?」
胸の奥が、ざわつく。
「だから、今も選ばない」
女は、久遠の腕の中の包みを見る。
「それでも、拾っちゃうんだよね」
久遠は答えなかった。
答えを出すつもりもなかった。
夜、宿に戻り、布を机の上に置く。
中身を確認する気にはなれず、そのまま懐にしまう。
久遠はそれを懐にしまい、
あのときと同じように、何も選ばなかった。
数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。
気が向きましたらブックマークやイイネをお願いします。
また気に入ってくださいましたら評価★★★★★を宜しくお願い致します。
執筆のモチベーションが大いに高まります!




