第12話 到着と
街に着いたのは、日が傾き始めた頃だった。
石畳はまだ新しく、村とは違って人の往来も多い。
露店の呼び声、馬のいななき、遠くで鳴る鐘の音。
世界が、ちゃんと動いている。
「ここまでだな」
冒険者ギルドの前で、ラグが足を止めた。
荷車は引き取られ、商人たちはもう姿を消している。
護衛の仕事は、これで終わりだった。
「助かったぞ、クオン」
「……こちらこそ」
それだけだった。
握手も、約束もない。
また会うかもしれないし、会わないかもしれない。
「無茶はすんなよ」
「そっちも」
ラグは片手を上げて、人混みの中へ消えていった。
久遠は、その背中を追わなかった。
宿屋は、ギルドから少し離れた通りにあった。
一階は酒場で、夕食の時間帯らしく賑わっている。
部屋は二階。
狭いが、清潔だった。
扉を閉めると、外の音が遠のく。
「……静かだな」
「そう?」
いつもの軽い声が返ってきた。
部屋の隅。
椅子の背もたれに腰掛けるように、セラがいた。
「街は人が多いからさ。
天使的には、ちょっと居心地悪い」
「今さら?」
「今さら」
セラは肩をすくめる。
久遠は、ベッドに腰を下ろした。
「……俺さ」
「うん?」
「逃げてばっかだな」
「知ってる」
即答だった。
「でも、今日は逃げなかったよね」
「……結果的には」
「それでいいんだよ」
セラは、どこか満足そうだった。
「選ばなかった。
でも、間違った方は選ばなかった」
久遠は、しばらく黙っていた。
「俺の能力さ」
「うん」
「大したもんじゃないだろ」
「そうだね」
否定はしない。
「派手じゃないし、強くもない」
「……それでも?」
「それでも、生きてる」
セラは笑った。
「君には、それが一番向いてる」
久遠は、天井を見上げた。
木の梁。
古い染み。
「ここで終わりか?」
「どうだろ」
セラは立ち上がり、窓の方へ行く。
「また会えるかもしれないし、
もう会わないかもしれない」
夕暮れの光が、セラの輪郭をぼやかす。
「天使って、そういうものだから」
久遠は、何も言わなかった。
言えば、何かが確定してしまう気がした。
夜は、何事もなく過ぎた。
久遠は久しぶりに、深く眠った。
――――
朝。
目を覚ますと、部屋は静かだった。
「……」
違和感がある。
いつもなら、もう声が聞こえる時間なのに。
久遠は、ゆっくりと起き上がる。
部屋を見回す。
椅子。
窓。
何も変わらない。
ただ、机の上に――
白い羽が一枚、置かれていた。
「……」
指先で、そっと触れる。
軽い。
それだけなのに、妙に現実感があった。
置いていったのか。
それとも、落としただけなのか。
分からない。
久遠は、羽をしばらく見つめてから、静かに懐へしまった。
宿屋の外では、街がもう動き出している。
人は歩き、商人は声を張り上げ、冒険者は仕事を探す。
久遠は、扉に手をかけた。
――逃走は、まだ続く。
だが、逃げる理由は、少しだけ変わった。
生きるために。
選ばなかったものを、背負わないために。
そして、いつかまた――
何かに気づいた時のために。
久遠は、街へ踏み出した。
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