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幽霊母ちゃんの料理教室  作者: くろくまくん


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五品目・茶碗蒸し

 チィに連絡が繋がらず不安になるタクミ。気になって、チィの家に様子を見に行くことにしました。


 チィ、大丈夫かな?

 電池切れてるのかな。


 んー、出かける約束しててさすがに携帯充電しないまま放置はないような気もする。


 近くだし、行ってみるか。チィの家は、僕の住む団地から徒歩5分くらいのマンションだ。




 ◇ ◇ ◇




 チィの住むマンションについて、インターホンを鳴らす。いてくれよ…


『はい、後藤です』


 チィのお母さんだ。


「あ、タクミですけど…チィが連絡取れなくて、気になってきたんですけど…」


『タクちゃん、わざわざ来てくれたんやね。ちょっと待ってね』


 数分してからドアが開いた。チィのお母さんは少し疲れたような顔をしていた。


「チィは…?」


「昨日の帰ってきた夜遅くから熱が出てきてね…今朝救急で病院連れてったら、インフルやったんよ。たぶん携帯も部屋に置きっぱなしなんとちゃうかな、連絡できてなかったんやったらごめんね…」


「そうやったんですね。まだ、しんどそうですか?」


「うんうん。普段あまり熱とか出さん子やからちょっと辛いみたいやわ…。インフルの薬出してもらって朝に飲んだから、これからはマシになると思うんやけどね。今は寝てるみたいやわ」


 インフルでしんどいかもだけど、チィが家で無事にいてよかった。もし何かあったらと思うと…。チィのお母さんは何か落ち着かないような感じだ。


「チィのお母さんどうしたんですか?」


「あぁ、仕事がね…昨日も夜勤やったんやけど、今日も夕方から夜勤でね、明日の朝までなんやけど、チィこのまま置いとかれへんからどうしよかなと思ってたんよ。交代してくれる人探してるんやけど、急やからなかなかね」


「あ、僕でよかったらチィ見ときますよ。薬とかだけ言うといてくれたら」


「今晩だけ…頼んでもいい?ごめんなぁ、ほんまに」


 チィのお母さんはほんとに申し訳なさそうにしている。


「全然大丈夫です。僕も特に用事ないんで。あ、使い捨てのマスクとかだけもらっていいですか?」


「うんうん、これ使い捨てのマスクと…あと一応除菌のウエットティッシュな。冷蔵庫に一応ゼリーとか入ってるんやけど、もしなんも食べれんかったらそれあげたげて薬飲ましてもらってもいい?」


 その他の家の備品などのことを僕に伝えて、チィのお母さんはあわただしく家を出た。念のため、お母さんとも電話とメールを交換しておいた。




 さてと。どうしようかな。あ、チィの部屋…勝手には入ったらまずいだろうけど、携帯だけは充電してあげないと連絡したくてもできないよな。


 チィの家には、何回か来たことはあるから家の造りというか、部屋もだいたいわかっていた。僕の家より少し広い2LDKの間取りで、LDKの奥に2部屋が並んでいる。お母さんの部屋と、もうひとつがチィの部屋だ。


 寝てるかもだけど、一応小さくノックをする。


「チィ…ごめんな、勝手にやけどはいるで…」


 なるべく小さな声で言う。部屋の奥でチィがベッドで寝てるのが見えた。まだ熱があるのか寝ながらもしんどそうだ。


 ベッドのすぐ横にならんでデスクがあった。そこにチィの携帯が置かれていて、やっぱり電池は切れていた。同じデスクのコンセントに刺さっていた充電のケーブルをチィの携帯に接続する。


「タクちゃん…サンドイッチ…好きなんやなぁ…」


 見ると、なんか寝言みたいにチィが言っている。

夢の中でピクニックに行ってるのかな。楽しみにしてたのかな…


「僕も楽しみにしとったで…でも、それよりもチィが無事でよかったわ」


 たぶん聞こえてないだろうけど、言っておいた。携帯が充電されてきたのか電源が入った。チィの手に届くとこあたりに、携帯を置こうと手に取ったら、たまたま待ち受けが見えてしまった。


「なんでこんな写真…」


 笑ってしまった。僕とチィがならんで写ってる写真なんだけど、カッコよくもかわいくもない、妙な表情の写真だ。


 高校入学の時だったかな…あ、あまりずっと居てもびっくりさせたらダメだし、リビングにいとこうかな。



 ◇



 冷蔵庫のものは適当に食べたり飲んだりしてね、とお母さんが言ってたので、遠慮なく麦茶をいただいた。


 チィにメールいれといたげよか。


『チィのお母さんは仕事に行ってる。代わりに僕がおるから、ノド乾いたり、お腹すいたり、なんかあったら言うておいでや』


 チィの部屋でピコンとメールが届いた音が聞こえたから、たぶん送れているだろう。


「母ちゃん、おるかな?」


『おるよー、チィちゃん心配やなぁ…』


 やっぱりいた。なんとなくだけどそんな気配がしたのだ。


「インフルの時に食べれるものとか、なんかってあるやろか?」


『うーん…どっちにしても熱下がらんとしんどいやろし、ノド痛かったらなんも食べれへんもんなぁ…あ、茶碗蒸しとかだけ作っといたげたらどう?あれやと具なしにしたらプリンみたいにノドに優しいと思う』


「おー、そうしよう。でも、茶碗蒸しって難しくないん?」


『ふっふっふ…母ちゃん先生を見くびったらあかんで〜。レンジで簡単に茶碗蒸しができてまうレシピがあるんやで〜!』


「な、なに〜!!」


 完全にドヤっている母親。ちょっとそれはそれでイラッとくる。


「で、どう作んの?」


『もうちょい誉めてからでもええのに〜。まぁええか。んとな、卵、お水、白だし。これだけでできるで』


「え、そんなんでできるん?」


 再びドヤる母親。もういいぞ。


『茶碗蒸しの入れ物あればええけど、なかったらなんでもいいから、マグカップとか。それになんとなくでいいんやけど、水入れて、卵いれて、白だしいれて、あとは混ぜ混ぜするだけや』


 食器棚からマグカップを2つ取り出す。卵と白だしは冷蔵庫にあった。


『ほんでな。混ぜたらラップをピタッとやなくて、ふんわりかけて、レンジでよわーいやつにして7分くらいかな』


「ラップふんわりはええんやけど、よわーいやつて何?」


『あ、レンジは出力って言うて、強さが色々変えれるねんな。強いやつでやっちゃうと茶碗蒸しやなくて卵の固まりみたいになっちゃうんや。このレンジって押して、このボタンでパワー調整できると思うわ』


 指示通り押していくと、600→500→200→1000と数字が変わっていく。


『そうそう、それの200にして、ほんで時間を7分でスタート!』


 時間を合わせてスタートボタンを押した。ちょうどその時、メールが来た。チィからだ。


『タクちゃん!家おるん??』


『そうやで。飲みものとか食べたいものある?』


 少ししてから返事がくる。


『お水と…ノド痛いから食べ物はいい』


『わかった。あ、今茶碗蒸し作っとるから、もし食べれそうなら食べな。薬のむやろし』


『シブいなタクちゃん。でも茶碗蒸しやったら食べれるかも。ありがと…。あ、ごめんね、サンドイッチつくれなくて』


 サンドイッチのことはええってな。チィらしい。


『大丈夫やで。もうちょいしたら、持って行くからゆっくり休んどき』


『うん、わかった。ありがと』


 ちょうど調理が終わったみたい。レンジの扉を開けると、ふわっと湯気が出てきた。母親は…引っ込んだのかな。


 マグカップがまぁまぁ熱かったので、フキンでテーブルに移す。ラップを取るといい感じにプルプルになっていた。スプーンを出して一口食べてみた。うん、茶碗蒸しの味だ。具がないからちょっと寂しいけど、ノド痛いと具も飲み込めないだろうからね。


 お水と茶碗蒸しと薬をトレーに乗せて持って行く。


「チィ、はいるでー」


 まだ少しチィはしんどそうだった。でもちゃんと寝れたからか、はじめに来た時よりは顔色はマシな気がする。


「ノド痛いかもやけど、少しでも食べて、薬飲みな」


「うん、ありがと…」


 ノドが痛いからか、少しチィの声が枯れていた。


「無理して喋らんでいいからな。ほら、まだ少し熱いかもやけど、冷まして食べや」


 小さくうなずく。お水を飲んで、それからスプーンで茶碗蒸しを少しすくって、口にいれた。


「おいしい」


 今度は僕がうなずく。


「あまりずっとおったらゆっくりできんかな?リビングに行っとくで」


「あ、タクちゃん」


「どうしたん、チィ」


「できたら一緒におってほしい」


 チィがそのほうがいいなら、仕方ないか。しばらくは何も言わず、茶碗蒸しを食べていた。僕も自分の分の茶碗蒸しを食べた。


「あんな、返事はせんでいいから聞いときな。昨日の夜、とか、朝とか。なんか今までチィから連絡返ってこんかったことなかった気がしたから。すこし、淋しかったわ」


 チィはだまって茶碗蒸しを食べている。


「チィが普段そばにおってな、色んな顔したりすんの面白いなぁと思って見てるわ。なんていうか、早く元気になって、またおもろい顔見せてな」


 チィが苦笑いをした。


「ごちそうさま、おいしかった。薬のんどこかな」


 お水と、聞いていた薬を出してあげた。


「淋しかった、ってさっき言うたけど、ほんまは心配してた。ほんで、昼前になっても連絡つかんから居ても立ってもおれんくなって、こっち来た」


 チィがお水を飲んで、そのあと薬を飲んでいる。


「インフルでしんどいと思うけど、でも、家におってくれてよかったわ。無事じゃあないけど、無事でよかったわ」


 チィはだまって聞いていた。


「薬飲めたかな。もう少し寝る?寝れるまで横におっとこか?」


「だいすき」


 え。


「ずっと大好きやったけど。もう今は、もっと大好き」


「チィ…」


「熱だいぶマシになったよ。あのな、しんどい時って、人間って素直になれるんやってさ」


「うん…」


「タクちゃんが笑ってくれたら、私も嬉しい。タクちゃんが悲しい時は私も悲しくなる。だから、タクちゃんがなるべく笑えるように、私してあげたいなって思ってるねん」


 チィはゆっくり、ゆっくり言葉を紡いでいる。


「そう思ってたのに、私が看病されてしもた」


「うん、うん。それは全然ええんやで」


 チィはマスクをしていて、髪もボサボサで、目も少し眠たい目をしていたけど、なんかいつもより可愛く見えた。


「タクちゃん。私のこと、好き?」


 チィがこんなことを言うのは初めてのことだった。僕もいつも当たり前のようにチィと一緒にいたし、好きとか嫌いとかじゃなくて、一緒にいるのが当たり前のような感じだったんだ。チィは横になって、目をつむった。


「チィ…」


 こういうこと言うのって、すごく勇気がいるよな。


「僕も、チィのこと、大好きやで。大事に思ってる」



 すぅ…



 あれ。



 すぅ…



 チィはいつの間にか寝ていた。まぁまぁ勇気出していったんだけど…。


 まぁ、いいか。


「チィ、おやすみ」



 五品目、茶碗蒸し。


 ごちそうさま。




 2人でピクニックに行けなくて残念でしたね。でも、インフルで伏せってしまったおかげで、お互いの気持ちを確認することができました。


 タクミんちの冷蔵庫の中身はちょっと変わっただけなので、今回も未公表にしておきます。


 次回もお楽しみに。

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― 新着の感想 ―
インフルエンザでしたか。 事件で無くて良かったですけど、 むー。 ( ・∇・) 看病から、メインの料理に流れるのが素晴らしいですね。 お母さん大活躍です。 茶碗蒸しでしたか。 桃缶も、欲しいね。
チィちゃん、好きなタクチャンが看病してくれて嬉しかったんですね。 好きなんてそんなシチェーションでないと言えない。 タクちゃんは優しいですね。これでは女の子もコロッといく。 (*^。^*) 今回も私の…
風邪でしんどい時のプリンは旨いですよね。 茶碗蒸しは風邪の時に食べたことが無いのですけど、何となく想像できました〜。 お互い素直になれてとても良かったと思います。 (*´ω`*)
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