二品目・だし巻き卵
学校から帰って、食材の買い出しに行ったタクミ。
これで料理の準備は万端だ。
今晩のレシピは何かな?
帰り道、まぁまぁカゴが重いので、歩くのが遅くなる。
『男の子やのに、力ないな〜、あんた。はい、頑張って持ちや〜!』
モノに触れないのをいいことに、文句が多い。
「だから買いすぎやって、言ったやん〜」
『はい、到着〜!タクちゃんおつかれさん』
なんか母親が生きてる時より元気な気がする。まぁ…それはそれでいいか。
『はい、じゃあ食材を冷蔵庫に入れる前に、ご飯炊いとこかー』
「あー、お米洗わないとダメなんちゃうの?うわー、めんどくさそう…」
『ん?無洗米やから洗わんでええよ。あっ、これも覚えときや。お米洗ったあとの研ぎ汁あるやろ。あれが結構汚れっていうか、あかん物質多くて、それが環境汚染になるんやで。これからお米買う時はなるべく無洗米にするんやで』
出たよ、環境大臣。まぁ洗わなくていいなら楽だからそれでいいんだけど。
炊飯器にお米を2合いれて、お水を2合の線まで入れて、早炊きにしてスイッチを押す。なんだ、簡単じゃないか。
『はい、じゃあ買ってきたものを冷蔵庫に入れてや〜』
「あ、今日は何を作るん?」
『ふっふっふ…今日はタクちゃんの好きなだし巻き卵やで〜♪』
おー!早くも僕の好物!ちょっとテンション上がったかも。
『んで、昨日作った味噌汁をまた作るで。味噌汁とかは煮込んでる間に、他のおかずとか作れるから、先に始めたらいいで』
「はーい!母ちゃん先生」
『なんやの、母ちゃん先生て』
「え、なんか料理教室みたいやから、言ってみてん」
『そういうことな!たまにはあんたも面白いこと言うやんか』
もう味噌汁は昨日で作り方は覚えた。味噌汁さえあったら、どんなご飯しても合うもんね。昨日の残ってたニンジンと、今日買った、ニラを少しと、もやしを入れた。なんか料理してる気分だ。
ニラは束ねて、3センチくらいに切る。ニンジンは昨日と同じ短冊切り。なんか葉っぱのイチョウみたいな形にするイチョウ切りという切り方もあるみたい。もやしは切らずにそのまま入れる。
『味噌汁の具を煮てる間に、だし巻き作るで〜。母ちゃんの黄金レシピ教えたげるわ』
黄金だと…!これは期待が高まる。
『たまご2個割って、んで、白だしちょっと、あとごま油少し。それだけ』
「全然シンプルやーん!期待して損したわ~」
『ええんや、ええんや。あんまり調味料色々いれてもな、ええことない時もあるねん。ほんでこのレシピは、母ちゃんが居酒屋さんで働いてた時、このレシピやったんやけどな、まぁ言うたらプロの味っていうやつや』
ほんまかいな…まぁ指示に従う。たまごを割って、混ぜる。
『あっ、卵はそんなシャレた混ぜ方したらあかんで、泡立ってしもたら巻きにくくなるねん。箸で卵をズバッと切るみたいにな、こうシャーシャー!ってしたら勝手に混ざるわ』
そういうもんなのか。
卵焼き用の四角いフライパンに、ごま油を入れて、火をつける。
『はじめは火強めな。そんで油がなじんだら、焼くときはもうずっと弱い火でいいで』
火をつけてたら、ふっと弱くなった。熱くなると自然に弱くなるらしい。
『卵の量によるんやけど、はじめは半分くらいかな。じゃーって全体にいれて、箸でしゃしゃしゃってかき混ぜるねん』
しゃーとかしゃっ、とか音ばっかでよくわからん。まぁ身ぶり手ぶりしながら教えてくれるので、それでなんとかわかる。卵をいれて、かき混ぜて、そして、火を弱める。
『あとはな、火ぃ弱めたらそんな丸焦げにはならんから、焦らんと端っこからゆっくり転がしていき』
めちゃめちゃゆっくり焼けてきた卵をおりたたんでいく。でも、なんか油がしっかりなじんでるからか、卵があまりくっつかないし、まだやりやすい気がする。
『ほんで、巻けた卵を向こうに寄せてな、次の卵をそそぐ。2回目からはちょっとずつでええよ。入れ過ぎたらなくなってまうからね』
母親が横で手とか動かしながら教えてくれるから、昨日と同じでやっぱり心強い。なんだか一緒に料理をしてるみたい。
卵をそそいで、焼けてきたら転がす。これを2回くらいした。
『はい、もう完成やで。あとはまな板とかにバンって置いて。あ、火はそのままでも消してもいいけど、その余熱でウインナーを焼くで』
味噌汁の鍋が、いい具合に煮えてきていた。1度火をとめて、味噌をおたまで溶いて、入れる。そのあとみりんを少し入れ、弱火にしておく。
『だし巻き卵は…まぁ初めてにしては上出来やろ。そのうち慣れたら目ぇつぶっても焼けるようになるで』
それは無理やろ。
ウインナーは余熱で少し焼くくらいのがいいみたい。焼きすぎると焦げてしまうかららしい。お米が炊けた音が鳴った。子供の時はこのメロディに合わせて歌っていたな。
ご飯を混ぜて、いったん置いておく。卵焼きを6等分に切る。半分は週明けのお弁当に入れるらしい。味噌汁も明日の朝に飲むぶんを置いて、半分だけお椀にいれる。
白ごはん、だし巻き卵、ウインナー、味噌汁。
全部自分で作った!あ、母親に教えてもらってだけどね。
「いただきまーす!うんっ、美味い!」
だし巻き卵は見た目はともかく、美味しかった。なんか朝ごはんみたいなメニューだけど、それでも満足だ。
「母ちゃんにも食べさせてあげたいくらいやわ、美味しいで〜」
『ほんまやなぁ…タクちゃんが作ったご飯。いっぺん食べてみたかったなぁ…』
母親が少し寂しいような顔をした。食べれない母親に、こんなこと言ってしまった。
「その分、僕がいっぱい食べるわ!母ちゃんの分まで」
『うん、そやなぁ〜。あ、ご飯は残ったやつは冷凍しとこ。ご飯入れる用のタッパあるからな』
「ごちそうさま!お腹いっぱいやわ」
先にお風呂に入っておけばよかった。まぁ明日は土曜日で学校休みだからいいか。そして、いつものようにめちゃくちゃ眠い。
『タクちゃん!今日はちゃんとお布団で寝ないとあかんよ!』
座椅子に転んでしまう前に、自分の部屋に布団を、敷いて横になる。
「あ、明日はなんか豪華なご飯作りたいわ、今のももちろん美味しかったんやけど」
『うんうん、今日買った食材で、ハンバーグとマカロニサラダを作ろっか』
おぉっ、これまた僕の好物ランキング上位のやつ!眠い中ちょっぴりテンションが上がった。
「じゃあ、もうそろそろ寝るわ〜、お風呂は明日の朝はいるわ…めっちゃ眠い〜。母ちゃんありがとうな、今日も」
母ちゃんは、僕が寝転んでる横で、座っていた。ふと手を、手のひらを下に向けて、僕のほうに差し出した。でも、途中で引っ込めていた。
『おやすみ、タクちゃん』
タクミんちの冷蔵庫の中身
◯たまご 8個
◯白だし
◯ニラ 三分の二
◯玉ねぎ
◯きゅうり
◯豚肉
◯ミンチ(合い挽き)
◯もやし 二分の一
◯キャベツ
◯マカロニ
◯スパゲティ
◯マヨネーズ
◯えのき茸
◯ウインナー 12本




