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幽霊母ちゃんの料理教室  作者: くろくまくん


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2/6

二品目・だし巻き卵

葬儀が終わったばかりの母親が、幽霊になってタクミの前にあらわれる。


そして、料理未経験のタクミに、作り方を教えてくれるという。


さて、今日はどんなご飯が待っているのだろうか。

結局、母親が復活(?)した次の日の朝は、お弁当づくりは無理だった。


そりゃそうだろー。昨日の味噌汁だけでもたいしたもんだろー。


なので、朝は冷凍ごはんの残りと、昨日の味噌汁の残りをいただいた。

だし巻き卵とか目玉焼きが食べたいところだけど…


『もう学校の時間ちゃうの?帰ってきたら作り方教えたるし、今日は我慢しとき。学校はちゃんと行けそうなん?』


「わかった〜。あ、帰りに食材とか買うものあるかな?調味料とか。学校は普通にちゃんと行ってるで」


僕が通っている高校は、うちの団地から徒歩5分とめちゃ近いのだ。なので、結構寝坊してもなんとか間に合うことが多い。よくギリギリまで寝てて怒られたっけ…。

僕が制服に着替えている間に、母親が買い物リストを考えていた。こういう時、モノに触れないのは不便だな、まぁ話せるだけでも嬉しいんだけど。


『あ、どっちにしても買い物は学校から帰ってからでいいやろ。遅れてまうし、はよ行ってき!はよはよ!』


母親は邪魔者のように、僕を早く学校に行かせたがる。まぁ、遅刻しないようにっていう、気づかいなんだろうけど。

なんか幽霊の母親に見送られて学校に行くのも複雑な心境である。


「じゃあ行ってくるー」


今日は学食で食べるか、学校の購買でパンか何かを買うことにした。パンに関しては僕も母親も手作りじゃないと!というこだわりはない。むしろパン屋さんのほうが美味しいから。


僕が通っている高校はごく普通の公立高校だ。普通と言うと言い過ぎかな。どちらかというとレベルは低めと言われる方の高校だ。でも近いし、学費のことを考えると、無理に遠い難関校に挑んだり、私立に行くよりも、いいと思った。


高校は今が秋なのであと1年と少し。元々そのつもりだったけど、今は完全に就職の道しかない。というか進学する気もない。


「タクちゃんおはよー!ちゃんと学校きてるやん」


「あぁ、おはよー」


挨拶してきたのは、小学校から一緒の幼馴染みのチィだ。本名は後藤ゴトウ 千紘チヒロ。僕はチィと呼んでいる。あ、あまり名前呼ばないけどね。


「あ、あのさ…タクちゃん。元気…?」


なんかチィがもじもじしてるのをあまり見ることがないから気持ち悪い。


「ん?別に普通やで。なんで?」


「あー、そう。お母さん大変やったね…。ごめんな、私なんもできんくて」


「え、あぁ大丈夫、意外と元気そうやし」


あ、違う。


「あ!僕が元気ってことなー。ははー」


「ん?うん…元気やったらよかったよ。あっ、そろそろ行かな遅刻するでー」


あはは。母親が幽霊でいることなんかもちろん言えない。てか、お祓いとかされるんじゃないか。

あぶないあぶない。チィが気づかなくてよかった。


チィは違うクラスなので、教室の廊下で別れる。

2年のクラスは全部で5つ、ひとクラス20人くらいだから、学年で約100人の生徒がいることになる。

なぜか授業を受けていると睡魔が襲ってくるんだけど、みんなは経験があるだろうか。授業が終わるとパチッと目が覚めるんだけど、学校の先生はみんな催眠術が得意なのかな。

うん、きっとそうだ。


そんなこんなで、午前の授業が終わってお昼休み。

チィが僕のクラスにきた。


「タクちゃん一緒にお昼食べようや」


「うんうん、ええよ。あ、今日学食に行くわ。それでもいい?」


「あ、うんうんそうやんね。私おべんと持って行ってそこで食べる。あとでジュースも飲むし」


2年の教室が2階で、学食があるとこは違う建物なので、階段を降りてそこまで向かう。


「かけうどんと、梅おにぎりくださーい」


学食のカウンターで注文をする。

決して美味しくはない。でも安いので文句は言えない。かけうどん150円と、おにぎり70円は安い。この物価高の中、よくやってくれている。学食だから国の補助とかあるんだろうけども。


チィは小さな可愛らしいピンクのお弁当をランチバッグに入れて持ってきていた。あまり気にしたことなかったけど、意外と女の子っぽいのが好きなんだな。


うどんをすすりながらチィのお弁当箱を見てたら、チィが気がついた。


「ど、どしたん急にジロジロ見てー」


「んーん、なんもないで。ちゃんとお弁当作ってもらってるんやなーて」


「あっ、これな。このお弁当は私が作ってるんやで。だってママは朝早いし、夜勤もあったりするから」


チィの母親は介護士らしい。そして、僕と同じ母子家庭だった。


「へぇ〜、チィもなかなかやるやんか」


チィの表情をみてると面白い。笑ったり怒ったり、すねたり、とか感情の変化がまぁまぁ顔に出るのだ。今の表情はなんだろ、なんかドヤ顔のような、照れてるような、その中間くらいだな。


「そやろ〜、私も家事とかもまぁまぁできるんやで。あ、タクちゃんが嫌やなかったらなんやけどな…」


ん、なんかまたモジモジが始まったぞ。最近トイレ近いのか。

そのうちにうどんとおにぎりを食べ終わった。


「おばちゃんごちそうさーん。チィ、ジュース買いにいこ」


「あ、う、うん〜」


チィにジュースをおごってあげた。僕はホットコーヒーを飲む。中学くらいからコーヒーはホットのブラックを飲むようになった。ホットコーヒーを飲むとなんだかほっとするのだ。

シャレじゃないよ。

チィはアイスレモンティーを飲んでいた。昔から好きだなそれ。


午後の授業は、午前よりも更に眠かった。

今日は時短で一コマだけだからまだマシだったけど、ご飯食べたあとはやっぱり眠い。


そして、授業が終わった。


帰る準備をしてたら、チィがまたきた。


「タクちゃん一緒に帰ろ〜」


「うん、ええよ~」


一緒に、っていっても僕の家につく5分だけの間なんだけどね。


歩きながら今日の授業の眠かったことなどを話す。


「あ、今日ってタクちゃんこのあと時間あるん?」


「え。いや〜、買い物とか色々しないとあかんこといっぱいあるんよね…どしたん?」


「あ〜、そっか。ううん、じゃあ今度でええよ。別に大事な用とちゃうから」


「そうなんや、まぁそしたらまた月曜な」


今日は金曜日だから明日とあさっては学校は休みだ。


「うんっ、タクちゃんなんか困ったことあったらいつでも言うてな。ばいばい」


チィと別れる。

家に帰って…あ、そうだ買い物か。


『あんた、チィちゃんに冷たいんとちゃうの?』


「うわぁっ!なんなんいきなり〜」


母親である。


『女の子には、もうちょい優しくしなあかんよ。せっかくあんたのこと…まぁえっか。あ、買い物リスト言うから、メモしーよ』


もう普通に会話してるけど…死んだんだよな?


買い物リストを書く。


◯たまご

◯ごま油

◯パン粉

◯白だし

◯ニラ

◯玉ねぎ

◯きゅうり

◯豚肉

◯ミンチ(合い挽き)

◯もやし

◯キャベツ

◯マカロニ

◯スパゲティ

◯マヨネーズ

◯しめじかえのき、やすい方

◯ウインナー


まぁまぁあるな…


「母ちゃん、こんないっぱい買うん?」


『冷蔵庫もうほとんどすっからかんやろ。それに毎日買い物いくわけちゃうんやから、これで何食か分が作れるんやで。まぁおいおいわかるわ』


「まぁえっか。じゃあ買い物いこー」


『あんたマイカゴちゃんと持っていくんやで、そこにあるやろ』


「え〜!このカゴ持って歩くの恥ずかしいやんか〜、袋もらったらいいやん」


母親は不服そうな顔をしている。


『ええか?そういう自分だけやったら大丈夫やろ、っていう積み重ねが環境破壊になっとんやで。袋にお金がかかるからとかケチってとかじゃないねん。その積み重ねのせいで、今生き物もよーさん死んどるし、地球もボロボロなってるんやで。つべこべ言わんとはよカゴ持って!』


まぁまぁうるさい。

まぁ…昔からそういうのはしっかりしてたな。近くのスーパーだから別にいいか。


マイカゴっていうのは、スーパーに置いてるようなプラスチックのカゴで、それを家用で買っておくと、買い物するときに、レジで直接そこに入れてくれるのだ。

スーパーによったら、携帯みたいな端末で、商品取るたびにバーコードを読んで、そのままマイカゴに入れたら、支払いもスムーズだし、詰め替えの作業もいらないので、とても便利だ。


スーパーについて、買い物をする。

確かにマイカゴ持ってたら楽だった。

たまごは安いからといって、サイズバラバラのやつを買うより、少し高くてもL寸のを買えだとか、

ミンチも、脂の入り具合を見ろだとか、細かい指示を受けた。

どっちでもいいだろー、そんなん。



◇◇



帰り道、まぁまぁカゴが重いので、歩くのが遅くなる。


『男の子やのに、力ないな〜、あんた。はい、頑張って持ちや〜!』


モノに触れないのをいいことに、口出しだけである。


「だから買いすぎやって、言ったやん〜」


『はい、到着〜♪タクちゃんおつかれさん』


なんか母親が生きてる時より元気な気がする。まぁ…それはそれでいいか。


『はい、じゃあ食材を冷蔵庫に入れる前に、ご飯炊いとこかー』


「あー、お米洗わないとダメなんちゃうの?うわー、めんどくさそう…」


『ん?無洗米やから洗わんでええよ。あっ、これも覚えときや。お米洗ったあとの研ぎ汁あるやろ。あれが結構汚れっていうか、あかん物質多くて、それが環境汚染になるんやで。これからお米買う時はなるべく無洗米にするんやで』


出たよ、環境大臣。

まぁ洗わなくていいなら楽だからそれでいいんだけど。


炊飯器にお米を2合いれて、お水を2合の線まで入れて、早炊きにしてスイッチを押す。

なんだ、簡単じゃないか。


『はい、じゃあ買ってきたものを冷蔵庫に入れてや〜』


「あ、今日は何を作るん?」


『ふっふっふ…今日はタクちゃんの好きなだし巻き卵やで〜♪』


おー!早くも僕の好物!ちょっとテンション上がったかも。


『んで、昨日作った味噌汁をまた作るで。味噌汁とかは煮込んでる間に、他のおかずとか作れるから、先に始めたらいいで』


「はーい!母ちゃん先生」


『なんやの、母ちゃん先生て』


「え、なんか料理教室みたいやから、言ってみてん」


『そういうことな!たまにはあんたも面白いこと言うやんか』


もう味噌汁は昨日で作り方は覚えた。味噌汁さえあったら、どんなご飯しても合うもんね。昨日の残ってたニンジンと、今日買った、ニラを少しと、もやしを入れた。なんか料理してる気分だ。


ニラは束ねて、3センチくらいに切る。

ニンジンは昨日と同じ短冊切り。なんか葉っぱのイチョウみたいな形にするイチョウ切りという切り方もあるみたい。

もやしは切らずにそのまま入れる。


『味噌汁の具を煮てる間に、だし巻き作るで〜。母ちゃんの黄金レシピ教えたげるわ』


黄金だと…!これは期待が高まる。


『たまご2個割って、んで、白だしちょっと、あとごま油少し。それだけ』


「全然シンプルやーん!期待して損したわ~」


『ええんや、ええんや。あんまり調味料色々いれてもな、ええことない時もあるねん。ほんでこのレシピは、母ちゃんが居酒屋さんで働いてた時、このレシピやったんやけどな、まぁ言うたらプロの味っていうやつや』


ほんまかいな…まぁ指示に従う。

たまごを割って、混ぜる。


『あっ、卵はそんなシャレた混ぜ方したらあかんで、泡立ってしもたら巻きにくくなるねん。箸で卵をズバッと切るみたいにな、こうシャーシャー!ってしたら勝手に混ざるわ』


そういうもんなのか。


卵焼き用の四角いフライパンに、ごま油を入れて、火をつける。


『はじめは火強めな。そんで油がなじんだら、焼くときはもうずっと弱い火でいいで』


火をつけてたら、ふっと弱くなった。熱くなると自然に弱くなるらしい。


『卵の量によるんやけど、はじめは半分くらいかな。じゃーって全体にいれて、箸でしゃしゃしゃってかき混ぜるねん』


しゃーとかしゃっ、とか音ばっかでよくわからん。

まぁ身ぶり手ぶりしながら教えてくれるので、それでなんとかわかる。


卵をいれて、かき混ぜて、そして、火を弱める。


『あとはな、火ぃ弱めたらそんな丸焦げにはならんから、焦らんと端っこからゆっくり転がしていき』


めちゃめちゃゆっくり焼けてきた卵をおりたたんでいく。でも、なんか油がしっかりなじんでるからか、卵があまりくっつかないし、まだやりやすい気がする。


『ほんで、巻けた卵を向こうに寄せてな、次の卵をそそぐ。2回目からはちょっとずつでええよ。入れ過ぎたらなくなってまうからね』


母親が横で手とか動かしながら教えてくれるから、昨日と同じでやっぱり心強い。なんだか一緒に料理をしてるみたい。


卵をそそいで、焼けてきたら転がす。

これを2回くらいした。


『はい、もう完成やで。あとはまな板とかにバンって置いて。あ、火はそのままでも消してもいいけど、その余熱でウインナーを焼くで』


味噌汁の鍋が、いい具合に煮えてきていた。1度火をとめて、味噌をおたまで溶いて、入れる。そのあとみりんを少し入れ、弱火にしておく。


『だし巻き卵は…まぁ初めてにしては上出来やろ。そのうち慣れたら目ぇつぶっても焼けるようになるで』


それは無理やろ。


ウインナーは余熱で少し焼くくらいのがいいみたい。焼きすぎると焦げてしまうかららしい。


お米が炊けた音が鳴った。子供の時はこのメロディに合わせて歌っていたな。


ご飯を混ぜて、いったん置いておく。

卵焼きを6等分に切る。半分は週明けのお弁当に入れるらしい。


味噌汁も明日の朝に飲むぶんを置いて、半分だけお椀にいれる。


白ごはん、だし巻き卵、ウインナー、味噌汁。


全部自分で作った!あ、母親に教えてもらってだけどね。


「いただきまーす♪うんっ、美味い!」


だし巻き卵は見た目はともかく、美味しかった。なんか朝ごはんみたいなメニューだけど、それでも満足だ。


「母ちゃんにも食べさせてあげたいくらいやわ、美味しいで〜」


『ほんまやなぁ…タクちゃんが作ったご飯。いっぺん食べてみたかったなぁ…』


母親が少し寂しいような顔をした。


「その分、僕がいっぱい食べるわ!母ちゃんの分まで」


『うん、そやなぁ〜。あ、ご飯は残ったやつは冷凍しとこ。ご飯入れる用のタッパあるからな』


「ごちそうさま!お腹いっぱいやわ」


先にお風呂に入っておけばよかった。まぁ明日は土曜日で学校休みだからいいか。


そして、いつものようにめちゃくちゃ眠い。


『タクちゃん!今日はちゃんとお布団で寝ないとあかんよ!』


座椅子に転んでしまう前に、自分の部屋に布団を、敷いて横になる。


「あ、明日はなんか豪華なご飯作りたいわ、今のももちろん美味しかったんやけど」


『うんうん、今日買った食材で、ハンバーグとマカロニサラダを作ろっか』


おぉっ、これまた僕の好物ランキング上位のやつ!


「じゃあ、もうそろそろ寝るわ〜、お風呂は明日の朝はいるわ…めっちゃ眠い〜。母ちゃんありがとうな、今日も」


母ちゃんは、僕が寝転んでる横で、座っていた。

ふと手を、手のひらを下に向けて、僕のほうに差し出した。でも、途中で引っ込めていた。


『おやすみ、タクちゃん』





タクミんちの冷蔵庫の中身


◯たまご 8個

◯白だし

◯ニラ 三分の二

◯玉ねぎ

◯きゅうり

◯豚肉

◯ミンチ(合い挽き)

◯もやし 二分の一

◯キャベツ

◯マカロニ

◯スパゲティ

◯マヨネーズ

◯えのき茸

◯ウインナー 12本

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主人公と幽霊のお母さんの関係がいいですね。 だしまき卵、美味しそうだって野で早速作ってみました。 フライパンの火が強すぎたせいかちょっと固くなってしまった。 (ToT)/~~~ 次回また頑張って挑戦し…
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