冒険者+5:おっさん納品する
謎を残したまま、私とクロノは土竜の口から辺境ギルドまでやってきた。
「はい、これ『虹鉱石』だよ。確認をお願いします」
「はい!――えっと……確かに本物且つ、高純度の『虹鉱石』です! お疲れ様ですルイスさん! クロノさん! 勿論、エミックもね」
『~~♪』
そしてフレイちゃんにいつもの笑顔を向けられ、精神を回復する。
あぁ、彼女の笑顔を見ると帰って来たって思えるよ。
けれど、またすぐに行かないといけないんだ。
王都で品を待っている人達がいるからね。
全く、たまには実家でのんびりしたいな。
それをフレイちゃんにも伝えると、彼女を頬を膨らませた。
「またですかぁ……! もう! 皆さん、ルイスさんを酷使し過ぎです!」
「だってルイスしか行けねぇし」
フレイちゃんからのお叱りに、クロノは苦笑し、ギルド長はそんな事を言う。
だからたまには自分達も行け。
命がけなんだぞ、こっちは。スキルだけで頑張るのにも無理があるっつうの。
結局、フレイちゃんが煎れてくれたお茶を飲んだ後、私達はすぐに王都へと出発するのだった。
今日は馬車で野宿だな。
だが少しでも王都に近付かないと明日苦労する。
それに帰還が遅いと最悪、死んだと思われるから嫌だ。
だからとっとと納品するに限るんだよ、こういう時は。
♦♦♦♦
そして二日後、私達は王都へ戻って来た。
このまま拠点に戻ってのんびり――って訳にもいかないか。
クロノのギルドにもそうだが、ミア達の方にも届けないといけない。
だから私達はまず、ミア達のギルドから回って『虹鉱石』を納品していった。
「センセイありがとな! 次はオレも行くから!」
「師匠ありがと~レイは儲かって嬉しい」
「海だったら私も行けたんだけどねぇ!」
やれやれ好き勝手言ってくれる弟子達だ。
それでも笑顔を見れて嬉しいんだけどね。
そして次は騎士団だ。
王様への献上品なのかは分からないが、どうやら『虹鉱石』を必要としているようだったな。
「ありがとうございます! ルイス殿!」
「おぉ……すげぇな、これが『虹鉱石』か!」
満面の笑顔で出迎えてくれるエリア。
そして『虹鉱石』を見て驚くグラン。
まぁ確かに初見だと驚かない筈がないからな。
下手な加工よりも加工前。そう言われる程の存在感がある。
さて、最後はクロノのギルドだな。
そこで納品を終えれば、今回の依頼完了だ。
「無事に終わりそうだな、クロノ」
「えぇ、何の問題も無くて良かったですよ。最近は、何かと問題がおきますから」
「確かにな。だが、今回は大丈夫だろう。前みたいな五大ギルドの介入は、裏に始高天がいたからだ。流石に同じ手を何度も使ってこないだろう」
私はクロノへそう言ったが、同時に私自身の願望でもあった。
連鎖の様に問題が続く事が増えて、少し嫌になっているのかもしれない。
だが同時に所詮は可能性でしかない。
流石に今回は大丈夫だろうと、楽観的だがそっちの可能性が高い。
私は顔には出さずにそう思っていると、クロノも頷いた。
「確かに、これで問題が起きれば間違いなく厄年ですよ」
「アハハ……確かにな」
既に厄な気がする。
私は笑いながら誤魔化したが、やはり不安は僅かでも残ってしまった。
そして、そんな事を話している内に馬車は、クロノのギルド『黒の園』へ到着する。
「それでは、俺は馬車を置いてきますね」
そう言って運転手のギルド員とも分かれた私達は、入口の前で伸びをしていると門番がクロノと私達に気付いた。
「ギルド長! ルイス殿も! お帰りなさい!」
「ご無事でよかったです」
「あぁ、無事に帰れたよ。何か変わりはないか?」
門番の挨拶に答え、クロノは何か変わった事がないか聞いていた。
すると、門番の顔が僅かに険しくなった。
「実は、ここ最近……うちのギルドを見張っている連中がいるんです」
「なに? それで正体は?」
「分かりません。ギルド紋も見せず、流れの冒険者とも思えない雰囲気ですし……声を掛けると逃げてしまうので……」
それは妙だな。
確かに仕事欲しさの流れ冒険者の動きじゃない。
しかし良い予感もしない。
まさか『虹鉱石』の為の監視か?
だが、クロノのギルドをピンポイントで見張るっていうのは非効率な気がするな。
まぁ、人海戦術で他も見張っている可能性があるがな。
「どうしますか? 今日は来てませんが、来たら何とか拘束しますか?」
門番からの言葉にクロノは少し考える素振りをしている。
だがやがて、首を横へと振った。
「いや、危害が加えられた訳ではないなら大丈夫だ。だが、もし相手が仕掛けて来たなら反撃し、すぐに応援を呼べ」
「分かりました。その様に」
甘い対応かと思えば、クロノは険しい表情でそんな事を言う。
やはり今までの事もあって、少し厳しく対応することを決めたんだろう。
私はそれを見て、彼なりの成長だと思った。
クロノは慎重過ぎる癖があった。
それが裏目に出る事も多かったからね。
やはりそれぐらいで丁度良いんだ。
これで万が一があっても対応するギルドだと思い、周囲も警戒するだろう。
「では師匠、中へどうぞ。お茶か珈琲を出しますよ」
「そうか……じゃあ頂こうかな」
流石に長時間、馬車に乗っているのも疲れるよ。
少し休んで行こう。
私はそう思って、クロノと共にギルドの中へ入って行った。
♦♦♦♦
私とクロノが中に入ると、中にいたギルドメンバー達も私達に気付いた様だ。
一斉に仕事や休みの手を止め、立ち上がって近付いてきた。
「ギルド長!!」
「おぉ! ギルド長達のお帰りだ!」
「ギルド長! ルイスさんもよくご無事で!」
おぉ、これは随分と心配させた様だ。
私とクロノは周囲の様子に互いに顔を見合わせ、苦笑してしまった。
だが無理もない。
今回は人を殺めても手に入れたい代物『虹鉱石』だったからね。
実際、ダンジョン内では冒険者同士の殺し合いがあった。
そう思えば、彼等の心配も無理はない。
そんな事を私が思い出していると、いつもの受付嬢の子もやってきた。
「お帰りなさいませ。クロノギルド長、ルイスさん。どうでしたか『虹鉱石』は?」
「それに関しては問題ないさ」
「あぁ、エミック……『虹鉱石』を出してくれ」
『~~♪』
私がそう言うと、エミックは腰から飛び降りて口を大きく開けた。
すると、中から一気に『虹鉱石』が飛び出してきた。
そして飛び出した途端、ギルド内が幻想的な光で満ちた。
それ程まで『虹鉱石』の輝きは素晴らしい。
皆、言葉を失いながら光に見惚れている。
同時に『虹鉱石』の存在感にもだ。
「すげぇ……!」
「これが伝説の鉱石――『虹鉱石』か!」
「流石はギルド長と、その師匠だ……!」
そう言われると嬉しいよ。
実際、悪い気はしない。満足してもらえて、ようやく達成感が得られたよ。
私は少し感傷に浸っていると、クロノがパンッパンッと手を叩いた。
「さぁ! 見惚れるのそこまでだ。早く『虹鉱石』を運んでくれ」
「あっ、は、はい!」
クロノの言葉に一斉に運び始めるギルド員達。
依頼主ごとに選別を始めたが、それでも『虹鉱石』は余っている。
「どうするクロノ? やはり余ったな」
「私達個人もいくつか頂きたいですし、後は師匠も持って行って下さい」
持って行って下さいってか。
まぁベヒーの餌代にもなるし、少し貯金もしたかったから丁度良いか。
だがそれでも余りそうだな。
まぁその時はその時か。
「じゃあ取り敢えず、必要分は貰っておこう」
「こちらもそうします。そして余ったら、その時は寄付でも良いかもしれませんね」
あぁ寄付か。確かにそれも良いな。
この数キロの『虹鉱石』だけでも、どれだけの孤児院を救えるか。
そんな会話をしながら私達は必要分の『虹鉱石』を回収し、余った分を寄付しようかと考えた。
――時だった。
「ぐわっ!?」
「ぐっ!!」
それは突然の事だった。
ギルドの扉が吹き飛ばされ、人が二人程、中に飛び込んで来た。
――いや、吹き飛ばされたのか?
そして中に飛び込んで倒れている二人。
それは先程、会話をした門番の二人だった。
痛みに耐えているのか、苦痛の表情を浮かべる二人にクロノはすぐに近付いた。
「どうした!? 何があった!」
「あ、あいつら……が勝手に入ろうと……!」
「止めようとしたら……投げ飛ばされて……!」
「あいつら?」
その言葉を聞いて、門番の指差す場所――入口の方へ私とクロノは顔を向ける。
すると、そこには巨漢の男に守られる様に、一人の女が立っていた。
女は赤髪の長髪に眼鏡を掛けており、こちらを冷静な笑みで見ていた。
「あら……ごめんなさい。話が通じないから、つい強行策に出ちゃったけど。その様子なら大丈夫そうね?」
「っ! 貴様!! 一体何者だ!」
仲間が傷付けられた事でクロノが怒った。
魔力を解放し、他の仲間も身構えている。
まさに一触即発だ。
「君は一体……?」
私も向こうの正体が分からず観察していると、女は私を見て笑みを浮かべた。
そして胸に刻まれているギルド紋らしきマークを、これ見よがしに見せてきた。
「失礼、こういうものよ」
そこに描かれていたギルド紋――それは『金色の船』だった。
って待てよ、金色の船だと!?
「待てクロノ! まだ手を出すな! この連中は《《五大ギルド》》だ!」
「なっ! 五大ギルド……!?」
私の言葉にクロノは驚き、魔力を最低限に抑えてくれた。
他の者達も五大ギルドと聞き、武器を僅かだが下ろしてくれた。
だが何故、この連中がここにいるんだ。
世界最大のマーケットの支配者。
国すら買えると言われる程の財力を持つギルド。
「……目的はなんだ! 五大ギルド永遠の黄金船!!」
私が睨むと、彼女の護衛達が前に出ようとしたが彼女は制止する。
そして恐れずに前に出てきた。
「いえ、少し用があったの。一つは『虹鉱石』を買いに来た。もう一つはダンジョンマスター……あなたよ」
「私だと?」
「えぇ、実は欲しい物があるの。――『オリハルコン』その入手方法を知っているわよね?」
その言葉に私は思わず表情を歪めた。
厄介事しかないさ。まさかオリハルコンとは。
「君は、ギルド長か……!」
「えぇそうよ。お初にね、ダンジョンマスター。私は五大ギルド永遠の黄金船ギルド長――クシル・オールドラッシュよ」
私のそんな顔を見て、彼女――クシルはただ笑みを浮かべるだけだった。




