冒険者+5:おっさんと虹鉱石(5)
冒険者からの襲撃、アスラサソリとの激闘。
それらを制した私とクロノは、更に奥の方へと進んでいった。
と言っても、先程の場所から本当に少しだけ進んだだけだ。
そこは先程よりは狭いが、それでも広い空間だった。
日も差している。地上に近いのかもしれない。
だが、そんな事よりも私達は唖然としていた。
「師匠……!」
「あぁ、これは凄いな……!」
何故ならば、そこにあったからだ。
日の光に照らされて、フロア全体を虹色に輝かせる――巨大な『虹鉱石』が。
「何てことだ……こんな大きな虹鉱石は見た事がないぞ」
数百キロは優に超えているだろうな。
それ程まで巨大な虹鉱石が、地面から突き出してしていた。
僅かgで金貨10枚が、1㎏で金貨100~1000枚の『虹鉱石』がだ。
時には味覚障害を一瞬で治す秘薬にもなり、加工次第では姿も価値も幾らでも変わる代物が。
「ドワーフ族ですら喉から手が出るだろうな」
「そりゃそうですよ。これは……都市丸ごと買えます」
「あぁ、それだけ無駄遣いをしてもまだ余るだろうな」
一体、金貨何枚分なんだ?
考えるだけで途方もないぞ。
いや全部持っていくのは面倒だし、状況次第か。
取り敢えずは、まず砕いて細かくしなければ。
「クロノ、最後の仕上げだぞ?」
「えぇ、やりますか!」
そう言って私達はハンマーとタガネをエミックから取り出し、細かくする準備を始めた。
だが、いざとなるとその輝きに意識を奪われてしまう。
「凄いな……輝きはまるで、既に加工されたダイヤモンドの様に」
「そして天然の万華鏡の如く、幻想的な輝きを……!」
触るだけで分かる。これは質も良い物だ。
だからこそ慎重に採掘せねば。
「良し……まずは《《火属性》》からだ」
「分かりました」
そう言って私達はタガネに火の魔法を纏わせた。
これが虹鉱石の入手難易度を上げる理由だ。
そう『虹鉱石』は基本魔法となる火・水・風・雷・地。
これらを駆使しなければ採れないんだ。
場所によっては火に弱く、火に強い。
異常に硬いと感じれば、属性を変えなければならないんだ。
「ここは火属性……次は水を……駄目だ風属性だ」
「こちらは地属性……そして水属性……」
まるで馬鹿の一つ覚えの様に、そんな事を呟きながら私とクロノは『虹鉱石』を採取していった。
採取した『虹鉱石』はエミックの口の中へと入れていく。
大きさなんて関係なく、エミックは次々と収納してくれた。
そして何時間、いや数分なのかもしれない。
時間の流れを忘れて私達は没頭した。
まるで『虹鉱石』から暗示を掛けられているかのように。
そして、採取した『虹鉱石』が半分に至った時、私とクロノは自然と腕を止めた。
「……《《こんなもの》》だろう」
「えぇ、もう充分です。派手に使っても使いきれないぐらい採取しました」
『~~♪』
目の前に、まだ半分はある『虹鉱石』を見ながらも、クロノはそう言った。
エミックも二、三百キロ以上収納しているのに余裕で飛び跳ねている。
だが、これで良いのだ。
独占する程、私達は欲深くない。
これで欲張った方だろう。
後は万が一でも突破できた者達の為に残しておこう。
「良し! これで『虹鉱石』採取完了だ!」
「ふぅ……やはりデスクワークだけじゃ得られませんね。この感覚は。自分でダンジョンに潜り、採取する。この気持ちの良さを忘れてましたよ」
クロノは嬉しそうに感傷深そうに言った。
顔を上へ向け、満足そうだ。
「さて……後は戻るだけだが、ハイエナは大丈夫かな?」
「大丈夫でしょう。エミックがいますから、いくらでも隠せます。それに最悪、対処しましょう。先程のアスラサソリに比べれば楽でしょ?」
言ってくれるなクロノは。
こっちはお前程、若くないってのに。
だが仕方ない。実際、避けては通れない道だ。
諦めて行くか。早く帰って風呂入って寝たいからさ。
帰りは基本的には楽だろう。
ヒカリゴケを使ってマーキングしながら来たし、その通りに帰れば大丈夫だろう。
私は重く、痛い腰を上げると、クロノと共に洞窟の中を逆走するのだった。
まぁ大丈夫だろう。
『虹鉱石』は採れたし、アスラサソリも倒した。
これといった問題なんて、もう起こらないだろう。
♦♦♦♦
ルイス達が出口に向かっている頃、土竜の口の入口では、ある事態が起こっていた。
ハイエナを狙っていた冒険者達。
彼等が血まみれとなって、周囲に散乱していたのだ。
そして、その中央に一人の巨漢の男が立っていた。
魔物の毛皮を纏い、纏う雰囲気には闘気しか感じられない。
そんな男の腕には、既にこと切れた冒険者が顔を握られたまま持ち上げられていた。
そんな姿に男は、心底つまらなそうに捨てながら口を開いた。
「フンッ! 弱い! この俺様に掛かってきたと思えば、とんだ雑魚共だ!!」
男はそう言って土竜の口を方を見た。
そして悪態をつく様に鼻で笑った。
「ハッ! だがまぁ良い……疲労した奴を嬲り殺すのつまらん。命拾いしたな、ダンジョンマスターよ。そして天に感謝せよ!――この至高天の一角、バスクの手に掛からぬ事を!」
そう言って男は去って行った。
その場に残されたのは、大勢のハイエナ冒険者の亡骸だけだった。




