冒険者+5:おっさんと虹鉱石(4)
――アスラサソリ(変異体)レベル<68>
なんてこった。
本来なら触肢も尾も、二本ずつしかないアスラサソリがこんな姿になるとは。
間違いなく変異体だ。マナの影響を受けて変異したんだ。
触肢6、尾が3。これは手こずるぞ。
「クロノ! 触肢もそうだが尾に気を付けろ! 毒もそうだがリーチが長いぞ!」
「えぇ! 分かってますよ! 師匠こそ毒に気を付けて! レベル差があっても毒を無効にできる訳じゃないんですから!」
「それこそ分かってるさ!」
人生で何回ドクリスと戦って来てると思っているんだ。
両腕のガントレットに毒消し草は仕込んでる。
エミックも万が一の時は任せろと、口をパカパカさせているよ。
『――!!』
私とクロノが情報共有していると、アスラサソリが先に動いた。
六本の触肢を前に向け、尾の針も私達に向けながら突っ込んで来たぞ。
「行くぞクロノ!」
「えぇ!」
そう言うと私は自身から見て左へ、クロノは右へと跳んだ。
だがサソリの目は8個ある。
アスラサソリも例外じゃない。すぐに動きを変えてきた。
左右3本ずつの触肢を私とクロノへ向け、そのハサミを開閉させながら迫ってきた。
「まずは触肢を止めろ!――魔剣ガイア・翠の樹縛!」
「すぐに尾が来ますよ師匠!――黒絵・蛇!!」
私はガイアを使って木々を生み出し、そのまま触肢3本を縛り上げた。
クロノも見る限り、黒の蛇を生み出し、同じ様に縛り上げていた。
『――!!』
だがすぐに威嚇音と共に、3本の尾が降ってくる。
針の先からは露骨に液体――毒液が垂れているぞ。
かすり傷でも致命傷だ。
「私が止める! グラビウス――深淵重力壁!」
私は両腕を尾の前に出し、尾と私達の間に強力な重力壁を生み出した。
すると重力壁とぶつかった尾は、そのまま関節が折れる音と共に真下へ折れた。
そしてアスラサソリの下半身も同時に沈んだ時、クロノが動いた。
「行きますよ師匠! 第三スキル<黒具現>――黒竜の腕!」
クロノが叫ぶと、私はアスラサソリの真下――影から巨大な魔力を感じ取った。
――デカイの来る!
私は直感的に感じ取ると、すぐに後ろへ跳んで距離をとった。
その直後だった。
アスラサソリの真下から、アスラサソリを持ち上げる様に、巨大な黒竜の腕が現れた。
それは現れると、そのままアスラサソリを持ち上げ、そのまま地面へと叩きつけてひっくり返した。
そして見せる。アスラサソリの弱点――防御の弱い腹部。
「やるぞクロノ!!」
「既に動いてますよ!!」
私とクロノが高く跳んだのは同時だった。
そのまま私達は、ひっくり返ったアスラサソリの真上に来ると、片足を伸ばした。
そして重力の意思のまま落下しながら、その足に魔力を込めた。
「ニブルヘイム――氷断脚!!」
「黒の支配者――黒斬脚!!」
落下の勢いのまま、私達は重い一撃をアスラサソリの腹部へと叩きこんだ。
『――!!』
サソリは鳴き声がない。
その為、足や触肢を動かし、音を出して苦しみを表現していた。
同時に、宙へ舞い散る氷の欠片と黒の余波。
そして口から体液を吐き出すアスラサソリ。
『――!!』
だが流石は変異体だ。
それだけではトドメとならず、もがき始めて態勢を直し始めた。
それを見て、私達はすぐにそれぞれ後ろへ跳んだ。
それと同時にアスラサソリは身体を戻すと、触肢を開いて私達の拘束を解いてしまった。
「流石はボス魔物の変異体だ! 弱点に一撃入れた程度じゃ倒せないか……!」
「しかし効いていない訳じゃない筈です! もう一回、大きな攻撃を加えればきっと!」
『――!!!!』
だがそれは至難の業だぞクロノ。
見てみろ、このアスラサソリの暴れよう。
身体の全てを使って、警戒音が今まで以上になっているぞ。
「クロノ! 戦いを急ぐぞ!」
これ以上、洞窟内で下手に暴れられたら堪ったものじゃない。
崩落はしないだろうが、早めに決着を付けなければ。
「分かりました!!」
クロノの返事を聞き、私は両腕のガントレットブレードに魔力を纏わせながら走り出した。
そして脚の数本でも斬って、バランスを崩してやろうと双剣を振り上げ、そのまま下ろした。
――時だった。私の攻撃は脚には当たらず、2本の触肢によって受け止められてしまった。
「なにぃ……!? なら、いっそのこと触肢を!」
私は魔力を更に込めてブレードを引きながら、触肢を斬ろうとした。
――だが硬い! こいつ、思った以上に甲殻が固いぞ!
間違いなく斬れている。だが少しずつだ。
――それと何より、すぐには抜けないぞこれ!?
「っ! 師匠!!」
「えっ――うおっ!」
クロノの声で私は気付いた。
残った3本目の触肢が私目掛けて迫って来ていた。
「まずい! あぁ、くそ! ガントレットブレードが!!」
しまった! 本当に勝負を焦った! 抜けない!!
クロノも触肢に邪魔されて来れそうにないぞ。
「油断した!!」
思わず私は、そんな情けない事を叫んでしまった。
――時だった。
『――』
私の腰にくっ付いているエミックが動いた。
見えてないが分かる。エミックが口を開けた事に。
そして目の前に迫る触肢が、エミックの闇の拳によって砕かれた。
「うおぉぉ!! 助かった! すまんエミック!」
『~~~♪』
エミックは私からの言葉に、闇の指でチッチッチッと、格好つけていた。
だが私は何も言えない。マジで死んでた可能性があったぞ。
しかも触肢を一つ壊した事で驚いたアスラサソリが、触肢を開き、私は解放までされた。
――帰ったら餌は奮発だな。
「これ以上、恥はかけないな! グラビウス――マーズ!!」
私は本気で勝負急ぐことにした。
双剣に重力魔法と炎を纏わせ、マグマの様な刀身となる。
それを今度こそ、全力で触肢へ振り落とす。
アスラサソリも、再度掴もうとしたが今度はさっきの様な一撃じゃないぞ!
私は怯まず、そのまま振り下ろした。
そして溶断の如く、今度は一気に二刀両断した。
『――!!』
これで右側の触肢は全滅だ。あとはクロノ側の触肢と――
「師匠! 上です!!」
「おおっと! こいつがあったな!」
この厄介な三本の尾だ。
だが突破口は見えているぞ。
「ニブルヘイム!」
私は刀身をニブルヘイムへ変えると、そのままブレードを振るった。
すると刀身から氷の斬撃が飛んでいき、そのまま尾に直撃する。
そして尾は完全に凍り付き、アスラサソリの動きに怯みが生まれたのを私は見逃さなかった。
「クロノ! 今だ!!」
「えぇ! これで最後です! 黒竜の腕!!」
私の声を聞き、再びクロノがアスラサソリの真下に巨大な竜の腕を出現させた。
そして一気にひっくり返したタイミングで、私も跳んだ。
「グラビウス――マーズ!!」
「これもついでです!」
私が両腕のブレードを掲げると、そこへクロノが私のブレードへ黒を付与してくれた。
そして一気に燃え上がる黒炎の双剣。
それをアスラサソリの腹部へと叩きつけた。
「黒・炎魔流星剣!!」
『――――!!!!』
それは間違いなく手応えのある一撃だった。
アスラサソリも、もがく様にジタバタする。
だが徐々にその動きが遅くなり、やがてその動きを止めた。
そして私はアスラサソリから降りると、クロノの傍に向かった。
「ハァッ……無事かぁクロノォ……!」
「私は無事ですが師匠こそ大丈夫ですか!?」
「ごめん、結構疲れた……少し休憩だ」
そう言って私は、ようやく腰を下ろす事が出来た。
心配してくれるクロノ。口を開けながら笑っているエミック。
だがもう少しの筈だ。
あるかどうかは分からないが、変異体がいた以上可能性はある。
「……さぁ、虹鉱石とご対面だ」
私はそう言って立ち上がると、先へと続く道の方を見るのだった。
 




