冒険者+5:おっさんと虹鉱石(3)
「やっちまえ!!」
カースの号令で、生き残りの冒険者達が一斉に私達へ向かって来る。
奴も集団に紛れてボーガンを構えているが、そうはいかない。
「させるか!」
私はポケットからナイフを取り出し、カースへ目掛けて投げた。
ナイフはそのまま奴の肩に刺さった瞬間、カースは膝を付いた。
「ぐあぁっ!? な、なんだ……身体が、し、痺れてぇ……!」
「甘かったな。特別製のナイフさ」
第三スキル『道具合成』――で、ナイフと麻痺性の毒草を合成したんだ。
「なっ! カース!?――ちくしょう! うおぉぉ!! 第一スキル『魔力解放・武』だ!!」
「第二スキル! 魔狼牙!!」
「喰らえや! 第一スキル『魔法蛇狩』!!」
「なっ! これは凄いな……!」
私は思わず、驚きの声を漏らしてしまう。
これだけの冒険者がいれば当然だが、流石に光景が圧巻だったからだ。
一人目は斧に巨大な魔力刃を纏わせ、両腕から魔力が噴き出している。
他の二人も魔力で作った狼と蛇。それを私達へと放ってきた。
「クロノ!」
「えぇ! あの二人は私が!――第二スキル『黒絵・鮫』」
クロノは私の考えを察してくれた。
そして両手とスキルで作った巨大な鮫が、洞窟の影から飛び出した。
「なっ! 鮫だと!?」
「デ、デカイ……!?」
彼等はクロノの出した鮫に驚いていた。
そして、そのまま鮫は大きく口を開け、彼等が放った狼と蛇を粉砕しながら二人も呑み込んだ。
「うあぁぁぁ!!?」
「ああぁぁぁ!!」
彼等は衝撃で吹き飛び、そのまま壁に叩きつけられた。
そして糸が切れた様に倒れたのを見て、私も走りだす。
今が好機。一気にあのデカブツを倒すぞ。
「一人で来るか! 舐めるな!!」
「本気さ!!」
斧を振り落とす男へ対し、私は両腕のガントレットブレードをクロス状にして受け止めた。
「なっ! 俺の強化した攻撃を、貴様如きが受け止めただと……!!」
「大きいの見た目だけだな! スキルで強化しても、中身は空っぽの様に軽い一撃だぞ!――風よ! 鳥よ! 螺旋となりて現界せよ! イーグル・スパイラル!!」
「うおっ……おおぉぉぉぉぉ!!?」
受け止めたまま私は詠唱し、そのまま螺旋となった風の鷲が現れた。
そして男をそのまま呑み込み、その巨体ごと上空へと飛び、壁へと叩きつける。
「ガハッ! そ、そんな……!」
その言葉を最後に男は落ちてきて、地面へと叩きつけられながら動きを止めた。
その光景を見て、周囲の者達がざわめき始めた。
「そ、そんな! あの三人は比較的強い冒険者だったんだぞ!?」
「それを一瞬で……!」
「ど、どうする!?」
ようやく力の差を理解したか。
力量の瞳で見る限り、彼等のレベルは32~40だ。
平均的な冒険者よりは強い。
だが、このダンジョンに挑むには力不足だ。
このまま臆して去ってくれると良いんだが。
私がそう思っていると、不意に何かが飛んでくるのに気付いた。
それは矢だった。炎を纏った矢だ。
私はそれをガントレットで弾いた。そして矢の方向を見てみる。
すると、そこには身体を震わせながら、片手でボーガンを持つカースの姿があった。
「ひ、怯むな!! 目の前だぞ!! 虹鉱石は目の前だ!! 欠片でも金貨10枚かそれ以上だぞ! あと少しなんだ!!」
「そ、そうだ! 虹鉱石は目の前だ!」
「ここを突破すれば……! 金貨10枚!」
「いやそれ以上だ!」
全く呆れて何も言えないよ。
まだあるかどうかも私達ですら分からないのに。
まぁそれで気分を高める彼等も彼等だがな。
「馬鹿ですね、この連中は」
「まぁね……もしかして、運が良ければ。そんな感情は時に人を愚へ導くんだ」
きっと彼等はこの先に虹鉱石がなかったら、普通に仲間割れをするだろうな。
「虹鉱石は俺等のものだ!!」
「囲め! 囲め!」
そんな事を思っている間に、彼等は私とクロノを取り囲んだ。
人数がいるんだ。今の内に数名が先に行けばいいものを。
「クロノ……終わらせるぞ」
「えぇ、任せてください師匠!」
互いに背中を合わせ、頷き合う私達。
私は両腕のガントレットブレードを構え、クロノはブレスレットから闇を出した。
その闇は、やがて私と同じ様にブレード状となる。
そしてクロノも構えた時だった。
カースの声が周囲に響いた。
「やっちまえ!!」
その言葉を発端に一斉に私達に向かって来る冒険者達。
だが恐怖はない。私の背中を守るのは一番弟子のクロノだぞ。
安心して戦えるというものだ。
「うおぉぉ!!」
向かって来る敵の武器を私はブレード弾く。
そして生まれた隙へ、強烈な回し蹴りを放つ。
『~~♪』
エミックも暇なのだろう。
私の側面にやってきた敵を闇の腕でぶっ飛ばしている。
「おぉぉぉ!! 黒の支配者!」
そして後ろからはクロノの声がよく聞こえる。
同時に敵の叫び声も。派手にやっている様だな。
「この野郎!!」
「遅いぞ!――激流脚!!」
目の前で、無防備に両腕で武器を持ち上げる男。
その腹へ私は水と風の魔法を足へと纏わせた蹴りを放ち、そのまま周囲を激流で巻き込みながら蹴り飛ばした。
「ぐはっ!」
「うげっ!」
「ぐはっ!?」
「なっ! くそ!! 第二スキル属性付与!――水の矢!」
仲間が次々とやられていくのを見て、カースも麻痺しながら私に向かって矢を放ってきた。
だが、そんな弱弱しい態勢で撃った矢なんて怖くもない。
私は先程と同じく、片腕で弾いて見せた。
「なっ!」
「もう諦めろ! 君たちの負けだ!」
「ふざけんな! 貰ったぜ!!」
「虹鉱石は貰った!!」
側面から他の冒険者達が槍と剣を持ちながら迫ってきた。
だが私はそちらを見る事もせず、両手だけをそれぞれへ向けた。
「グラビウス!」
「うぎゃ!!?」
ただの重力魔法だけで男達は地面へと沈む。
そして、その男達を倒すと周囲が静かになったのに気付く。
私は振り返ると、そこで丁度クロノが最後の敵を倒した所だった。
自身のマント。その黒から飛び出す腕で敵を叩き潰していた。
これで相手はカースを残して全滅だ。
「そ、そんな……あれだけの人数を……!」
「もう良いだろ。身体を休めたらダンジョンから去るんだ!」
「お前達では所詮、外のハイエナにやられるのが関の山だろ?」
「うっ……ぐぅぅ……! だからって諦めきれるか!!」
私とクロノの言葉にカースも、最初は諦めそうにしていた。
だが、やはり目の前にある可能性が高いと思ったのだろう。
私達へボーガンを向けてきた。
それを見て私達は仕方ないと身構えた時だった。
――何やら上から音が聞こえてきた。
まるで硬い何かすり合わせ様な、まるで硬い足で足音を出している様な、そんな音が。
私はすぐに上を向くと同時に、クロノへ叫んだ。
「クロノ! 上だ!!」
「っ! あれは!?」
『――――!!』
洞窟の上。その壁に張り付いていたのは巨大なサソリだった。
鳴き声を発せないからか、身体を使って威嚇の様に音を出していた。
だが驚くのは、その巨体だけじゃない。
触肢は六本、尾は三本――そうだ間違いない。
「アスラサソリか!! レベルは<68>だと!?」
「まさか! こいつがボス魔物!?」
『――――!!』
私とクロノが驚いた声を出した時だった。
アスラサソリは壁から飛び降りると、そのままカースを踏み潰した。
「ギャアァァァァァ――」
カースの断末魔が一瞬聞こえたが、それはアスラサソリの着地の轟音にかき消されてしまった。
『――――!』
だがそれだけで、アスラサソリの怒りは収まらなかった。
周囲に倒れている冒険者を薙ぎ払い、まるで鬱憤を晴らす様に執拗に攻撃していた。
それを見て、私はやはりかと気付いた。
「あの異常な怒り……やはり、先程の広い空間で暴れたのは奴だ!」
「あの怒り様……恐らく、自然に収まる事はないでしょうね」
私もクロノも、諦めた様に溜息を吐いた。
そして身構えた時だ。アスラサソリがこちらを見た。
『――――!!』
触肢を鳴らし、脚音も鳴らして威嚇してくる。
どうやら次の獲物は私達の様だな。
「構えろクロノ! 来るぞ!」
「えぇ!」
『――――!!』
私達が覚悟を決めた瞬間、アスラサソリは 六本の触肢を掲げながら私達へ迫って来るのだった。
 




