表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/148

冒険者+5:おっさんと虹鉱石(1)

 叫び声の木霊が消えた。そして静寂が訪れた。

 だが洞窟内からの殺気は消えないし、血の匂いもまだある。


 しかも、それを嗅いで興奮した魔物の声だって聞こえてくる。

 これは本当に辛いダンジョン攻略になりそうだな。


「師匠、虹鉱石は最奥にあるんでしょうか?」


「大体はその筈なんだが……虹鉱石は、ダンジョンでマナが一番濃い最奥付近で出来る事が多い。だがそうなると、このダンジョンは大変だぞ」


 そう言って少し進むと、このダンジョンのギミックが姿を見せた。

 

 目の前に君臨する巨大な三つの穴――分かれ道だ。


「この土竜の口は洞窟系・迷路状のダンジョンだ。こんな枝分かれした道がこれからも出てくる。そんな状況に最奥に行くのは至難の業だな」


「何てことだ。こんなの万が一、魔物の巣などに入ったら面倒ですよ?」


「だから慎重に行かねばな……風魔法・風透視」


 私は三つの穴へ風を流した。

 そうすることで風の流れを術者が感じ取り、どれが正しいかが分かる。


「……左の道は風が止まった、行き止まりだ。真ん中は深いが同じく行き止まり、しかも何かいる感じだ。きっと魔物の巣だな」


「そうなると、正解は右の道ですか」


「あぁ、その様だ。全く、神経を削るよこれ」


 私は肩を落とし、これがまだ序盤だと思うと億劫に感じてしまった。

 そんな私の肩をクロノが叩いてくれる。


「まぁ、そう言わず……皆、師匠を信頼しているんですから」


「そうは言うが、私だってそろそろ40だぞ。いい加減、後任育成に力を入れるべきだと思うがな」


 40過ぎても同じ扱いなら、私だって怒る自信があるぞ。

 

 けどなぁ弟子達も心配だ。

 クロノだって暗殺ギルドに狙われてたし、ミア達もどこか抜けてるし。


 やれやれだよ。本当にやれやれだよ。気が休めないって感じだ。


「まっ、この話は終わりだ。先に進もう……入口付近に<ヒカリゴケ>でも塗っておくか」

  

 私はエミックを軽く叩くと、エミックは口からヒカリゴケを吐き出した。

 

 それを受け取り、私は入口へ塗ると、その部分が発光する。

 これで帰り道は大丈夫だろう。


 まぁ妨害される可能性もあるが、その時はその時だ。


「長くなりそうですね」


「全くだよ。いい加減、ギルド長は自分で依頼を受けて欲しいものだ」


 そんな風に愚痴りながら私とクロノは、正解と思われる右の道を進んで行くのだった。


♦♦♦♦ 


 右の道を行くと視界が段々と暗くなってきた。

 

 だから松明を付け、私とクロノは互いを見失わない様、身体のどこかにヒカリゴケを付けた。


 これで万が一があっても見失わない筈だ。

 それに先に来た冒険者の物だろう。たまに松明が設置されていてありがたい。


「やはり随分と深いダンジョンだ。こりゃ長くなるな」


「はい。昔、師匠と取りに行ったダンジョンの方が楽でしたよ」


 そりゃそうだ。もう8年前ぐらい前かな?

 あの時は危険度5のダンジョンだったし、私も二十代だったからね。


 そりゃ危険度と身体の動きが違うさ。


「懐かしい話だな……ところでクロノ?」


「……はい、分かっています」


 私の言葉にクロノが頷くのを確認し、私は松明を床に刺した。

 

 ずっと感じていたんだよ。気配や視線を。

 それがここに来て殺気に変わったから、嫌でも気付くさ。


「気を付けろ、クロノ――上だ!!」


 私が叫ぶと同時に、一斉に上を見た。

 すると目の前に写ったのは黒装束の者達だった。


 手に暗器を持っている。恐らく隠密――いやまさか暗殺ギルドか!?


「クロノ! こいつ等――」


「分かっています! 師匠は下がってください! ここは私が――」


 クロノはそう言うと魔力を解き放った。


「第一スキル<黒の支配者(ブラックマスター)>!――黒の巣!」


 クロノが手を翳した瞬間、周囲の闇が伸び、まるで蜘蛛の巣の様な形状を作り上げた。


 クロノは闇――いや黒さえあれば何でも出来るスキルを持っている。

 洞窟内は黒だらけ、間違いなく彼の独壇場だろう。


 その黒から作り上げた蜘蛛の巣に、襲撃者達は肉体を拘束される。

 だが手足が動かずとも、口から針を吹き出してきた。


「おっと――グラビウス!」


 私は目の前に重力場を作り、針を全て落とした。

 それを見てクロノは襲撃者達の口も塞ぎ、最後は思いっきり縛り上げ、最後は気絶させた。


「驚いたな……まさか暗殺ギルドか?」


「恐らく。隠密ギルドにしては殺意が高い。まさか、こんな所にまで雇う連中がいるとは」


 私達は縛られた彼等を見上げながら、そんな会話をした。


 きっと商売敵を消す様、依頼した連中がいたんだろうな。

 全く、いよいよ面倒になったぞ。


 だが仕方ない。虹鉱石は莫大な金が動く。

 どんな手を使っても手に入れたい奴等がいる筈だ。


 私達は慎重に連中を縛り上げると、急いでその場を跡にした。


♦♦♦♦


「グラビウス――球体重域(アースボール)!!」


『ギャギャ!?』

 

 先に進んだ私達を待っていたのは、今度は魔物達だった。

 レベル40――ダーク・バット。コウモリ魔物の上位種だ。


 そんな連中を空中で、重力の球を生成して一か所に集めて圧縮した。

 そして最後は潰して絶命させると、その場はようやく静かになった。


「これで終わりか……?」


「えぇ、流石ですね師匠」


 クロノの方も終わった様だ。

 四方八方から伸びた黒いトゲに、串刺しにされたダークバットの姿が見える。


 まずは良かった。

 私だって今はクロノのレベル67に合わせているから、レベル<72>になっている。


 だからそうそう負ける事はない筈だ。

 しかしそう思うと、クロノもレベルが随分と上がったな。


「随分と強くなったんじゃないのか、クロノ?」


「えぇ、裏ギルドと暗殺ギルドの事もありましたから、鍛えなおしたんです。実を言うと、今回のも修行のつもりですよ」


「成程な……大したものだ」


 今思えばクロノ達だって若い。

 それだけ伸びしろがある筈だし、このまま行けばレベル<70>も超えるだろう。


「さて……先に進むか。この先を進めば、少し広い空間に出る筈だ」


 その空間に出たら少し休憩しよう。

 休める内に休まないとな。


 私達は更に先に進み、事前に風透視で確認した広い空間まで出てきた。

 だが、私達は鼻が慣れて麻痺していたんだ。


――そう血の匂いに対して。


「なっ! これは……!」


「何があったんだ……!」


 広い空間に出た私達を出迎えたのは、文字通り――死体の山だった。


 冒険者、魔物、関係ない死体の山だ。

 壁も天井にも血の痕跡が残っているし、周囲に切り裂いた様な跡がある。


「うっ! 凄い匂いだ……!」


 クロノがマントで顔を覆う。

 私もそうしたいが、まずは確認しなければ。


「百……いや魔物も含めれば、死体は二百以上はあるぞ」


 死体に近付いて調べてみると皆、切り裂かれたり、両断されたり、貫かれた痕跡が目立った。


「殺害方法は複数だが、多分やったのは1体だ」


「まさか……そうなると師匠、やはりこのダンジョンには」


 クロノの言葉に私も頷くしかなかった。


「あぁ間違いない。いるぞ……ボス魔物が」


 全く、人の敵は多すぎるよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ