冒険者+5:おっさんと虹鉱石
なんだ彼は?
『漆黒狩りの剣』なんて冒険者、聞いた事がないぞ。
見たところリーダーの大剣使いの男と、後は盗賊っぽい二人組か。
冒険者パーティというより、盗賊団か何かの間違いだろ。
「申し訳ございませんが、当ギルドではギルド長公認冒険者にしか依頼を出さない決まりです。――どうかお引き取りを」
流石はクロノのギルドだ。
受付嬢の子も、こんな連中相手に一切怯んでないぞ。
他の冒険者達もいつでも動けるようにしている。
きっと手を出すなら、向こうから。その状況を冷静に見ているんだな。
「うるせぇ!! 俺を誰だと思ってる!! 危険度4ダンジョンを制覇したゴルブ様だぞ!! 良いから《《虹鉱石》》の情報を教えろ!!」
ゴルブと名乗った青年は、そう言って受付のデスクを殴りつけた。
だが、待て。コイツ、何て言った?
「虹鉱石だって……!」
一定のマナを浴び、虹色に変異した特殊な鉱石じゃないか。
その価値は下手な宝石や金以上だぞ。
それを何で、コイツ等が知っているんだ?
あれはいつ、どこで誕生するかも分からない鉱石の筈だが。
「何もお話しする事はございません! お帰りを!」
「こ、このアマァ……! 俺様を誰だと思ってやがる!!」
まずい! こいつ大剣に手をかけたぞ。
これ以上は黙ってられない。
他の冒険者達も武器に手を掛けてるし、血を流させる訳にはいかないか。
私は咄嗟に青年の空いてる左腕を掴んだ。
「そこまでだ! それは一線を越えるぞ!」
「あぁ!! なんだよテメェは! まさかここの冒険者か!」
「いや違う。だがギルド長とは知り合いの、ただのおっさん冒険者さ。――話を戻すが、大剣から手を放せ。それ以上は血を見るぞ!」
クロノの冒険者達も、弓を持って残りの二人に狙いを定めてる。
彼が大剣を抜けば、一斉に開戦だったな。
「うるせぇ!! おっさんは引っ込んで――いや待て、ここのギルド長と知り合いって言ったか? ならテメェが話を通せ。そうすれば大剣から手を放してやるよ」
「断る。このクロノのギルドは、オリハルコン級の最上位のギルドだ。大剣を持っていきがる子供が受けられる依頼はない」
「んだと……! それじゃ話を変えようか。――決闘だ! 決闘でテメェはぶっ殺せば虹鉱石の情報を教えろ!!」
やはり目的は虹鉱石の情報か。
つまり依頼云々は建前。しかしそうなると、虹鉱石が誕生しているのか?
私は受付嬢の子に顔を向けると、受付嬢の子は静かに頷いて立ち上がった。
「分かりました……もしルイス様に勝てれば虹鉱石の情報を教えましょう。しかし、勝てればの話ですが」
そう言って受付嬢の子は受付から退避するが、やれやれ、おっさんに無理を言うな皆。
目の前の男も笑ってるよ。既に勝った気でいるようだね。
レベルは<33>か。これならスキルは発動しないが、それで十分だ。
「ラッキー!! じゃあ遠慮なく死ねやぁ!!」
「っ!」
大剣の振り上げ、そして大振り。
この程度なら身体を逸らすだけで良い。
私はゴルブが大剣を振り落とすタイミングで身体を逸らし、彼の首へ向けてガントレットブレードを出した。
そして大剣が床を破壊したタイミングで、ブレードの刃の先端――そこが彼の首にギリギリ当たった所で止まった。
「なっ……あっ……馬鹿な……!」
「動くなよ。下手に動けば首が斬れるぞ」
私がそう言うと、ゴルブの額から冷や汗が滝の様に流れ始めた。
彼の子分である盗賊二人も、一瞬動こうとした。
だが、黒の園の冒険者達が弓を向けている事に気付いて、動きを止めている。
良し。頼むから何もするなよ。
これ以上は本当に無駄な戦いだからね。
「質問する。……虹鉱石の情報をどこで知った? そして、何故このギルドに聞きに来た?」
「あ、あぁ……虹鉱石の情報は、そこら辺のギルドで聞いた。そして《《牽制》》しろと言われて、ここに来たんだ。更に情報を聞き出せば報酬を出すと言われて……!」
成程な。それで納得したよ。
希少な素材が発生すると、こうやってギルド間で牽制が始まるんだよ。
けどつまり、それは『虹鉱石』が本当に発生したって事か?
全く、少しは自分達で調べろっての。
「最後に一つ……ここから出て行け。そうしなきゃ血を流す事になるぞ?」
「わ、分かった!! 分かったから頼む! 助けてくれ!!」
ゴルブは冷や汗ダラダラで叫んでいる。
これ以上は無意味か。相手のギルド名も分からない以上、複数が動いている様だしね。
私はガントレットブレードを、そっと戻した。
「くっ! くそ!! 覚えてろよ!!」
そう言ってゴルブ達は大剣を持って、出て行った。
やれやれだな。捨て台詞を吐く余裕はあった様だ。
だがこれでゴルブ達は出て行ったし、ゆっくりと話を聞ける。
私は受付嬢の子の方を向くと、彼女も察した様だ。
ゆっくりと頷いていた。
「その様子からして、情報は本当みたいだね」
「はい……確かに『虹鉱石』が発生しました。実はその事でルイス様にも――」
「そこから先は私が話そう」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのはクロノだった。
ギルドの様子を見て、特に何も言わないのは予想していたからだろう。
「クロノ……って事はもしかして?」
「はい。金やダイヤモンド以上と言われた幻の鉱石『虹鉱石』が誕生しました。その依頼を師匠にお願いしたいんです」
「……『虹鉱石』とは、やれやれだよ。師匠使いが荒い弟子だな」
私は思わず笑ってしまった。
場所によるが、難易度の低いダンジョンで誕生していたら、凄い争奪戦だぞ。
それはクロノも分かっている筈だが、彼も笑ってるよ。
「そう言われると思って……今回は私も同行しますよ、師匠」
「っ! クロノも来るのか? って事は、つまり高難易度のダンジョンか!?」
クロノは黙って頷く。
そうなると、またハイエナの冒険者とかが来そうだな。
しかし、そうなるとクロノが来てくれるのはありがたい。
やはり弟子の中で私の思考も読めるのはクロノしかいないからね。
「それで……どこのダンジョンだい?」
「場所は危険度7――『乱淵魔窟・土竜の口』です」
そう言って笑うクロノを見て、私も笑うしかなかった。
いやきっと、私もクロノも嬉しいのだろう。
再び、共にダンジョンに潜れる事が。




