冒険者+5:おっさん 対 狂神のディオ
私とディオの攻防は突如として始まった。
ニブルヘイムで受け止め、そこへ私は冷気の魔力を込めた。
そうすることでディオの魔剣ブラッドイーターの、血液を固める事が出来る。
「コイツ!? ブラッドイーターの血を凍結させて――!」
「血を封じさせてもらう!――重脚流転!」
重力魔法を纏った回転蹴りを喰らえ。
私は強烈な蹴りを凍結したブラッドイーターへ放つと、ブラッドイーターはそのまま砕け散った。
「良し! これで――!」
「終わったと思ったか? 甘い!!――ブラッドイーター!!」
砕け散ったブラッドイーターを掲げるディオ。
すると砕け散り、凍結した血液の破片が浮かび上がり、ブラッドイーターへ呑み込まれた。
そしてあっという間に刀身は元通りに。そんなのありか。
なんて魔剣だ。砕こうが固めようが、元通りになるなんて。
「嫌な魔剣だな……!」
「褒めんなよ……ダンジョンマスター!!」
ディオがブラッドイーターを振ると、血液の斬撃が向かってきた。
私は咄嗟にニブルヘイムを振るい、凍らせながら砕いた。
だが結果は同じだ。固めて砕いた血液は、すぐにブラッドイーターに吸い込まれてしまう。
「残念だったな! おらぁ! ブラッディダンス!!」
「今度は鞭状に!?」
変幻自在の血の魔剣か。
それをディオは滅茶苦茶に振り回しながらも、確実に私を捉えている。
「おらぁ! おらぁ!」
「クソッ!」
私はガントレットブレードを振り回し、レベル差のゴリ押しで攻撃を弾く。
だが恐ろしい。奴め、滅茶苦茶に振っている様で確実に急所を狙っているぞ。
心臓、喉、首。そこが無理だと分かると脇腹、あばら骨の隙間を狙って肺を。
こいつ、人の急所について詳しすぎる。
なんて恐ろしい奴だ。このままブレードだけで防ぐのは危険だ。
「魔剣ガイア!――魔法樹・魔獣壁!」
ガイアの力を使い、私を守る様に周りから木々が生えてきた。
そして木々はベヒーの頭部を模した形となり、私を守る盾となった。
「チッ! ドーワの魔剣の力か!」
ディオは厄介そうに叫びながらもブラッドイーターを振るっている。
だが魔獣壁は、その攻撃を何度受けてもビクともしない。
流石は植物と大地の魔剣だ。
血液程度じゃ突破できまい。
「ルイス殿!」
そんな時だ。エリアが私達の状況に気付いたのは。
「おのれディオ!!」
「悪いな後輩! 今回は引っ込んでろ!! 出でよブラッドゴーレム!!」
ディオはそう叫び、ブラッドイーターを掲げた。
そして一瞬光った瞬間、ドラゴン・マンティスの流れる血液が人型となってエリアに襲い掛かった。
「なっ! ゴーレムだと!?」
「エリア! こっちは良い! 自分の身を守れ!」
残念ながら成長したエリアでも、ディオの相手は無理だ。
私は叫びながらディオの方を見ると、奴は突きの構えを取っていた。
「テメェもいつまで引き籠ってるつもりだ!!――獄王剣・閃血槍!!」
「なっ!?――魔獣壁!!」
ブラッドイーターの剣先が、まるで巨大な槍の様に!?
私は迎撃しようと魔獣壁から出て、操りながらディオへそのまま突っ込ませた。
そして互いの攻撃がぶつかり合う。
血の矛と、木魔獣の頭部。それは互いに砕け散った事で勝負がつく。
「……チッ! 魔剣を物にしてんなダンジョンマスター。それに悔しいが、見る限りレベルもお前の方が上の様だな」
ディオはそう言いながらブラッドイーターを修復していく。
私も周囲の魔力を地面へと戻すが、厄介な相手だな。
5レベル差で楽に勝てる相手じゃない。
ゴリ押しすれば勝てると思うが、それをさせない技量が奴にある。
こうなれば多少の負傷は仕方ない。
一気に勝負を決めるしかない。
「グラビウス――マーズ! ニブルヘイム――エンケラドゥス!」
ここから一気に勝負に出るぞ。
私はガイアを引っ込め、ブレードに重力・炎魔法を。
もう片方はニブルヘイムのまま、けれど更に冷気を強めたブレードにした。
それを見てディオは驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべながらブラッドイーターを構えた。
「良いなぁ……やるじゃねぇかダンジョンマスター! グラン以上だぜアンタ! ならこっちも行くぜ!!――獄王剣・戦血の剣!!」
奴が叫ぶとブラッドイーターに血が集まり、それはやがて刃の長い剣となった。
「長刀か……!」
「おうよ……! アンタの魔剣二刀流には劣るが、これぐらいしないと楽しめねぇ!!」
「来い!!」
ディオは叫びながら突っ込んで来た。
上等だと、私も前へと足を進ませ、そのまま私達はぶつかり合った。
真紅の血の魔剣。そして私の重力と氷の魔剣がぶつかり合う。
そして互いの魔力が強い魔力反応を起こし、周囲に余波が起こる。
「キャッ!」
それを受けてエリアは悲鳴をあげながら膝を付いている。
だがブラッドゴーレムは耐えきれず砕け散った。
これ程の魔力の余波だ。
私の身体だって悲鳴をあげてるし、ディオの身体も皮膚が切れて出血している。
「最高だ!! 最高だぜダンジョンマスター!!」
「どこまで戦闘狂なんだ! いやもう狂ってるだけだ!!」
「狂って何が悪い!! 好きに生きてこその人生だ!! この世は、刃を持たない者には明日はねぇ!!」
少し共感できるな。好きに生きてこその人生は賛成だ。
だが、それは他者を傷付けない事が最前提の筈だ。
「共感は一部出来る!! だが、それでも私は始高天を認めない!!――マーズ・タルシス!!」
私は重力・炎の魔力を強め、巨大な衝撃波を生み出し、ディオへとぶつけた。
「う、うおぉぉ!!――ガハッ!」
ディオは衝撃波を受けて血を吐き、同時にブラッドイーターが砕ける。
――勝機!
私は目の前が、ゆっくりと流れている様に見えた。
その中で見えた確かなディオの隙――逃さない。
「エンケラドゥス――雪氷剣!!」
今だ出せる魔力を全て込め、私はディオ目掛けて氷の斬撃を放つ。
その斬撃はディオに直撃し、そのまま彼は吹き飛びながら、後ろの岩壁へと叩きつけられた。
「ガハッ!!! こ、この俺が……二度までも……!」
そう言ってディオは地面に倒れた。
終わった。今回も何とかなったぞ。
私はどっと疲れるのを感じながら、その場で膝を付いた時だ。
「ルイス殿!!」
エリアが傍に来て、私に薬草水を飲ませてくれた。
あぁ苦い。けど効いてる感も凄い。
「ありがとう……エリア」
「大丈夫ですか……?」
「何とかね……」
全く、始高天の連中はタフで困る。疲れて仕方ない。
それに手応えはあったが、きっとディオも生きているだろうと直感で分かる。
「きっとディオは生きている……捕まえよう」
「はい……!」
そう言って私は立ち上がり、エリアと共にディオの下へ歩いて行く。
――その時だった。
「まだ……だ……ま……だ……終わらねぇ!!!」
なっ! ディオの奴、まだ意識があるのか!
しかもなんだこの魔力。まるでドーワ達の様な。
私とエリアは、魔力を吐き出す様に噴出させるディオの姿に驚きながらも、再度身構えた。
そして魔力が収まった時、そこにいたのはディオであり、別ものでもあった。
巨大な黒い翼。コウモリの様な牙と両足。右腕はブラッドイーターと同化している。
そして異様となった赤い瞳で、ディオは私達を見ていた。
「これが俺の魔人化だ……! さぁ続きをしようぜ! ダンジョンマスター!!!」
「くっ! 魔人化か! エリア! 油断するなよ……!」
「分かっています……! 決して油断はしません。っていうか出来ません!」
私とエリアは冷や汗を流しながら武器を構え、魔力を解放する。
そしてディオも空に浮かび、同化したブラッドイーターを天へ掲げる。
「さぁ! もう一回やろうぜ!!」
そう叫びながらディオは私達へ向かってきた。




