冒険者+5:おっさん樹海へ突入
ダンジョンに入ってすぐに分かった。
危険な匂い――毒虫や植物の匂いだ。
勿論、それ以外の正常な匂いもあるが、半数以上の匂いは毒で間違いない。
私はすぐにマスクを二人分取り出し、その呼吸器の中に毒消し草を入れた。
そしてマスクを付けながら、もう一つをエリアへ渡した。
「エリア、これを付けろ。やはり毒の匂いがキツイ……何かあったのかも知れん」
「何か……って事は、やはりディオ達が?」
エリアはマスクを付けながらそう言うが、私にだって確信はない。
「まだ分からない。ただこれだけ毒の匂いが強いって事は、毒を持つ魔物達が派手に動いてる可能性がある。気を付けて行こう。ここは方向感覚も狂いやすい」
「分かりました。私も用心します……何かあれば、互いに教え合いましょう」
「あぁ……何もないと良いが」
ダンジョンがいつもと違い顔を見せる時、そんな時は碌な事がない。
異変が起こっていると知らせているからだ。
気のせいで済むこともあるが、始高天も目的にしている高難易度ダンジョンだ。
多少なりとも何かあると思った方が良い。
私は内心で警戒を高めながら、エリアと共にダンジョンの中へと入って行った。
♦♦♦♦
そして暫くしたら、その洗礼を受ける事になったよ。
私は空から羽の音が近くなるを感じ、素早く顔を上げた。
「上だエリア! ポイズンイーグルだ!」
「ポイズンイーグル!?」
「嘴とツメに毒のあるイーグルだ! 気を付けろ!」
大の大人ぐらいはある巨大なイーグルが四羽。
その嘴と爪からは毒が流れていて、奴等は私とエリア目掛けて急降下してきた。
だが舐めるな。空中戦の敵にはもう慣れたよ。
「グラビウス――アースプライド!!」
『グエェ!?』
目の前に巨大な重力場を私は放ち、ポイズンイーグルの群れは一斉に地面へ落ちてくる。
空を飛んでいる連中は地面に落とすに限るな。
「今だエリア!」
「はい! 魔法刃・光――」
私の合図でエリアが駆ける。
そして間合いに入った瞬間、私はグラビウスを解除。
そこで黄昏の異名を持つ、エリアの光剣が光った。
「横薙ぎ・残光の太刀!」
エリアが横振りで剣を振った瞬間、確かに私は見た。
光に愛されているとすら思わせる、彼女の太刀筋を。
残光が残る綺麗な太刀筋の跡には、身体が綺麗に一閃されたポイズンイーグルの死骸だけが残った。
前まではドクリスの森でも苦戦していたのに。
今では迷いなく動くとは、やはり彼女は大したものだ。
あれだけの動きでマスクを付けているのに、汗一つ流していない。
その実力、成長。流石は騎士団副団長だ。
「流石だなエリア……綺麗な太刀筋だった」
「いえ、ルイス殿が全ての魔物を落としてくれたからです。空中の魔物は厄介ですから……」
全く、笑顔で謙遜が言えるとは大したものだ。
でも安心した。このダンジョンの気に呑まれていない様で。
こんな息苦しい、毒の樹海だ。
普通ならばストレスでおかしくなるだろうが、彼女は冷静を保っている。
その精神は私も見習いたいものだ。
「どうしましたか、ルイス殿? 何やらぼぉ~としてる様ですが?」
「いや、ドクリスの森の時に比べて成長したなって……あの時は擬態する魔物相手に四苦八苦していたからね」
「うふふ、なんか懐かしいですね。まだ数か月も経っていないのに」
「あぁ、私もそう思うよ。あの時はアレン君もいたが、彼も今では熱心に訓練しているし、大したものだ」
アレン君はドクリスの森以降、訓練は人一倍しているし、私のダンジョンの講義も真剣に聞いてくれて嬉しいものがある。
「アレンもドクリスの森は良い刺激になった様です。他の騎士達よりも訓練に励んでいますし、まだ仮決定ですが今度小隊を任せるって話も出てるんです」
「おぉ、昇給だね。きっと喜ぶよ」
彼、褒められるとすっごく喜んで、その分動くタイプだからね。
きっと言えば、もっと頑張るんだろうな。
「……さて、そろそろ行こうか」
「はい。――っ! 上です!」
先へ行こうと思ったが、その瞬間エリアは声を出しながら私の隣へ戻った。
そして私も見上げると、そこには大きな蝶が三匹もいた。
羽ばたく度に毒鱗粉を撒く、この蝶――パープルバタフライ。
毒性は微毒とはいえ油断はできないが、私は少し安心した。
「大丈夫だ。パープルバタフライなら、これで何とかなる!」
エリアへそう言って、自身の道具袋を焦る。
この連中は単純だ。戦わずして突破できる方法があるんだ。
「良し、これさえあれば……!」
「それは……《《リンゴ》》?」
エリアが意外そうにしているが、私がリンゴを翳すとパープルバタフライ達は嬉しそうに羽をバタバタしている。
そして道の脇にリンゴを転がすと、パープルバタフライ達はリンゴに群がっていった。
「連中は果物が好きなんだ。だから、リンゴとかあれば戦わずに済む」
出会う魔物全てと戦ってたらきりがないからね。
こうやって、色々と知恵を使うのも冒険者さ。
「な、成程……冒険者の知恵ですね!」
エリアは感心した様で、嬉しそうな笑顔を浮かべている。
なんか弟子達を思い出すなぁ。こうやって、知らない事を覚える時は嬉しそうにしてたっけ。
「……さぁ先を急ごう。リンゴもそんなに無いから、催促されたら大変だ」
「うふふ、そうですね」
私とエリアはそう言って、笑いながら先を進んで行くのだった。
 




