ノア復活
何が起きたか、一瞬分からなかった。
ただ騎士団本部から光の柱が生えたのは分かった。
そして、すぐに正体も分かった。
光が消えた時、そこに彼等がいたから。
「ノア!!」
「やはりいましたか、ダンジョンマスター」
私が彼へ叫んだ瞬間、ノアは目の前に一瞬にして現れた。
何てことだ。左右にはディオとグリムもいるじゃないか。
私は身構えて、すぐに『+Level5』をノアを対象にして発動させる。
これで私はレベルを彼よりも上回った。
今は魔剣もある。あの時以上に戦える筈だ。
だが私と違い、ノアは初めて出会った時と同じく小さく微笑んでいた。
「流石に貴方と今、再戦する気はありませんよ。――それよりもフドシ。よくやってくれましたね。何やら、騒々しいですが」
「フッ、手段は我の好きにすると言ったろ。これで約束は果たしたぞ、ノアよ」
「えぇ、私も約束は果たしましょう。貴方は自由だ。好きにしなさい」
そう言ってノアと変態は互いに頷きあっているが、まさか本当に始高天の策だったとは。
私も驚き過ぎて、今一冷静になれていない。
だが身体は――本能は戦いに備えろと言っている。
私は身構えた。まだ半端な気持ちだが、それでも必死に。
それを見据えたのか、ノアはまた私へ視線を向けた。
「言ったでしょう。貴方と戦う気はありません。今はそれよりも――来い! アストライア!!」
「あっ――!」
私は止めようとしたが遅かった。
ノアが腕を掲げた瞬間、その腕が光った。
そして、光が晴れた時には聖槍剣――アストライアが握られていた。
「うそ……封印していたはず!」
レイも驚愕した表情を見せていた。
まさか、一瞬で奪われるとは彼女も思ってなかったんだ。
あのレイの魔法技術すらも上回るのか、ノアとその聖槍剣は。
「逃さん!! 光翔波!!」
「闇遁・抹消斬!!」
「最上位魔法――薇尾蘭手!!」
私より先に動いたのはエリア達だった。
光・闇の斬撃。そして魔法を使った触手攻撃をノアへ放ったが、それじゃ駄目だ。
なんせ、彼のスキルは――!
「相変わらず、貴方の弟子は礼儀がなっていない様ですね。しかし無意味。――私のスキル<守護領域>は、私のレベル以下の攻撃を全て防ぐ。無駄な足掻きです」
そうだ。そのスキルがあるせいで、レベル80以下の攻撃は無効化される。
やはり私が行くしかない!
「ノア!!」
私は魔剣ニブルヘイムとガイアを解放し、彼へと迫った。
その時、ディオとグリムが前に出ようとしていたが、それをノアが止めた。
それだけ余裕という事か。そりゃそうだろうな。
「ノア!! 牢に戻れ!!」
「断りますよ、ダンジョンマスター!! アストライアよ!!」
私のブレードとノアのアストライアがぶつかった。
周囲に凄い魔力の衝撃波が発生したが、やはりアストライアは強力だ。
態勢が悪いのもあって、私は押されてしまった。
だが受け身をとって再び屋根の上に着地する。
「それは魔剣ガイアですね。つまりドーワは貴方に敗れたのですか。魔人を下すとは。――しかし、私はずっと考えていた。今、アストライアの力のみならば、貴方を押せた。だが!」
そう言ってノアは、今度は接近してアストライアを振り上げ、そのまま下ろしてきた。
させるかと、私は両ブレードでそれを弾いた。
そのままノアは吹き飛んだが、その表情は笑っていた。
何を考えているんだ。私は思わず息を呑んだ。
「やはり……純粋な力だと私ですら負ける。やはりレベルか。個人のレベルに反応しているのですか。ねぇダンジョンマスター?」
「好きに解釈していろ! お前を逃がす訳にはいかない!」
ここで逃がせば、次は何をするか分からない。
ただ絶対に碌な事じゃない筈だ。
「戦う気はこれ以上はありませんよ。――フドシ!」
「――プッ!」
――イタッ! あの変態野郎、口から針を吹きやがった。
毒ならマズイ。すぐに針を抜かねば。
「大丈夫ですよ、毒はありません。しかし、それは貰う! 《《貴方の血液を》》!!」
「イッ!?」
私の腕に刺さった針は、腕を翳すノアの腕に収まっていた。
ノアめ、私が針を抜くよりも先に針を回収したか。
しかし目的はなんだ。
「貴方は興味深いんですよダンジョンマスター! 創世の鍵として、貴方の血は貰う!!――さぁ! もうここに用はない!! 空間移動!!」
ノア達が光に包まれた。マズイ、絶対に止めるぞ!
「ニブルヘイム――魔氷雪!!」
私がブレードを振るい、吹雪の様に氷柱がノア達を襲う。
しかし、アストライアが光ると氷柱は目の前で消滅してしまった。
くそっ。厄介過ぎるぞ。あの聖槍剣!!
相変わらず何て魔力だ。こっちも魔剣なんだぞ。
「さらばです。ルイス・ムーリミット……次に貴方と会う時があるならば、その時は決着です」
「待てノア! 目的なんだ!! お前は何をしたいんだ!!」
「創世……それだけです。それ以外の言葉はありません。ではさらばだ」
そう言ってノア達は一瞬だけ光ると、その姿を消してしまった。
何てことだ。ノア達が脱走した。
けれど自覚がまだ出来ていない。
くだらない下着ドロボーが、まさか始高天だったとは。
「まずい……ノアやディオ達を逃してしまった!」
エリアも驚愕した表情で天を見上げている。
ただ手に、下着が握られているから今一緊張感がない。
そう下着。下着だ。
すべては下着ドロボーに踊らされた。
「ありえない……下着ドロボーは囮だったのか!」
「フハハハハハ!! 人を外見だけで判断するなと言う事だ!」
この変態め。捕まってる癖に良く喋る。
――って待てよ。
「……おい。なんでお前はいるんだ? 始高天のならノアと一緒に逃げるだろ」
「いや既に我は始高天ではない。因みに魔人でもないぞ。さっきノアも話していたろ。我はこれで自由だと。我はもう始高天ではない」
そうかそうか。つまり――
「絶対逃がすな!! この変態が全てだ!!」
――おおぉぉぉ!!
私が叫ぶと同時に、木々に拘束されている変態――フドシにエリアを始め、色んな人々が群がっていった。
「ギャアァァァァ!! 止めろぉ!! 下着は……返さん!!」
違う! 下着は良い!
ノアの目的と居場所を教えろ!!
こうして私の騒がしい一日は、ノアの脱走。
――そして下着ドロボーの元始高天の捕縛という決着で終わったのだった。
 




