冒険者+5:おっさん対峙する
何てことだ。ミアまで下着を奪われるとは。
早すぎる。きっと分かれてすぐに奪われたに違いない。
それに複雑だ。弟子の下着を見せられる師の気持ちになれ、あの変態め。
「フハハハハハ!! どうだ見たか! 騎士団副団長! そしてオリハルコン級ギルドまでも、我以下よ!」
そう言って奴は近くの建物の屋根まで降りて来た。
いや、降りてくるのか。自信があり過ぎだろ。
「ぐぬぬ……おのれぇ!!」
おぉ、エリア達の怒りのボルテージが上がってるよ。
そりゃそうだ。変態から我以下めと、最大級の挑発だろうな。
だが私も流石に黙っていられないな。
エリア達もそうだし、私の家族同然の弟子の下着まで奪ったんだ。
流石に怒りが沸くというものだ。
私は足に魔力を込め、屋根へと跳んだ。
「そこまでだ! 下着ドロボー!」
「むっ! 何奴!?」
こっちの台詞だ!? お前こそ何奴だろ!
「……ルイス・ムーリミット。周りはダンジョンマスターって呼んでくれるよ」
「おぉ! 貴様が《《あの》》ダンジョンマスターか!! 成程、そうかそうか。――それで我になに用だ!!」
「……皆の下着を返せ。そして罰を受けろ!」
「断る!!」
こいつ、間もなく断言したぞ。
おい、力強くミアの下着を握るな。見てて気まずい。
「これは我が命を賭けて獲った戦利品よ! 返してほしくば、我を越えよ!!」
「変態が格好つけるな!!」
全く、アホくさい。とっとと終わらせる。
私は奴へ駆けて行き、足に重力魔法を纏わせた。
「グラビウス――」
「むっ! 来るか!――変質殺法!」
奴め、真っ正面から受けて立つ気か。
だったら、そのまま倒すまでだ。
「――重脚流転!」
「――絡み叉蹴!」
私と奴の足技がぶつかった。
良し、そのまま重力にやられて足を捻じって――
「――甘いのぉ若いの!」
そう言って奴は笑った瞬間、足を私の足へ絡めてきた。
うわっ、なんか嫌だ! 凄い気持ち悪いぞ。
「とりゃ!」
だがそんな事を言っている場合じゃなかった。
絡められた瞬間、私は足だけで身体を回転させられた。
嘘だろ。足だけで。しかも重力魔法の流れを読まれたのか!?
そうじゃなきゃ、あれを食らって無事な筈がない。
ツンドラオロチの頭部ですら倒したんだぞ。
「とりゃ!」
奴は更に宙で回転する私へ拳を振るい、私は吹き飛ばされた。
だが何とか受け身を取り、無事に着地する。
「ルイス殿!」
「師匠が押し負けた!?」
下からエリアと小太郎の驚く声が聞こえてくる。
恥ずかしいところを見せたな。
――けど、それどころじゃない。驚いたよ。この変態のレベルに。
私が力量の瞳を開眼し、奴の姿を見た。
そして見えたレベル――<71>だ。
「馬鹿な……普段のグランよりも上なのか!」
「ほう、それが噂の金色の瞳か! だが男の金色に興味はない! 我が好きなのはボンキュッボンの美女のゴールデンビキニよ!」
聞いてもいない情報と、目の前の光景に頭が痛くなる。
どうやら侮ったツケを払った様だな、私は。
「……第一スキル『+Level5』」
私は嫌だが、目の前の奴を対象としてスキルを発動した。
これで私のレベルは<76>だ。この70の領域での5レベル差は大きいぞ。
私は魔力を放出させ、周囲に魔力の強風を生み出した。
「ぬおっ! これは……流石はダンジョンマスターか!」
「お褒めに感謝しよう……けど、終わらせるよ。――天空の魔鳥、蛇滅の性、汝は風となり、我が前に具現せよ」
「っ! それはまずい――変質殺法・奥義!」
何をしようが遅い。最上位の風魔法を受けてみろ!
「ガルダ・ストライク!!」
私はパンツマスターへ巨大な魔鳥を模した、風の魔法を放った。
これを喰らえば、ひとたまりもあるまい。
強風と共に吹き飛べ!
「甘いぞ! 奥義・パンツ隠れ!!」
「えぇっ!!?」
パンツの竜巻の中に消えた!? そして大量のパンツと共に奴の姿も消えた!?
――マズイか。
「くっそ!」
私は急遽ガルダ・ストライクの軌道を空へと変え、そのまま空中で魔法を爆発し、巨大な雲の穴が開いた。
だがそれどころじゃない。奴はどこへ行った!?
「エリア! 小太郎! レイ! 奴はどこに消えた!?」
「いえ、分かりません!?」
「俺が見逃したのか……!」
「消えた……!」
馬鹿な、力量の瞳を使っている私は疎か、エリア達ですら見失ったのか。
だが逃げたとは考えにくい。きっとどこかに――いた!
「逃げろ! エリア!! お前達の後ろにいるぞ!!」
「えっ!?」
私の言葉にエリア達は一斉に背後を向いた。
そこには顔と上半身だけを隠すパンツマスターの姿があった。
「遅い!!」
そして奴はエリア達が身構える前に腕を振るい、再び屋根へと、私の前へと戻って来た。
だが驚くのは奴の腕にある下着だ。――まさか。
「い、いやぁぁぁ……!!」
一斉に崩れるエリア達、騎士。
まさか奴め、またやったのか!
「フハハハハハ!! やはり下着は取れたてに限るわ!」
「最低にも程があるだろ! っていうか、どうやった!?」
明らかに鎧姿の騎士もいた筈だ。なのに、どうやって。
「教えてやろう!! これが我が第一スキル『栄光を掴む腕』よ! 対象とした者から、何でも一つだけ奪える技だ。無論、誓約もある……それは一つと決めたら金輪際、その者からは同じ物しか奪えんのだ」
「そんな馬鹿な……!」
こいつ、そんな凄いスキルを下着ドロボーの為だけに使っているのか!?
「例え周囲の理解を得られずとも、我は自分の生き方に嘘をつきたくない!」
「下着ドロボーが最もらしい事を……!」
まるで私が思っている事が筒抜けの様で、少し恥ずかしくなる。
だが許さん! エリア達の心を傷付けた変態め!
「お前は私が止めるぞ!!――魔剣ニブルヘイム・ガイア!」
私は両腕のブレードをそれぞれ魔剣へと変えた。
そして身構え、徐々に奴へ迫った。
――時、奴は笑った。
「フハハハハハ!! 残念ながら貴様の相手は飽きた。次の獲物を狙わせてもらおう!――そこの娘!!」
「レイのこと?」
なんだって!? まずい、奴はレイを狙っている。
「させるか! ニブルヘイム!!」
私は屋根の上を氷結させたが、既に奴はいなかった。
「フハハハハハ!! 遅いぞダンジョンマスター!――さぁ『栄光を掴む腕』!!」
「逃げろレイ!!」
私は叫んだが、レイはその場から動かない。
駄目だ意識が間に合っていないのか!?
そして私の叫びも虚しく、レイと奴はすれ違いった。
そしてレイの後ろへ立ち、堂々と手をあげた。
やられた。今度はレイの下着が――ってあれ?
「なんだ……?」
「ま、まさか……」
私や周りが興味深く奴を見ていると、奴の手には《《何も握られていないかった》》。
そして奴はショックを受けた様に膝を付いた。
「ま、まさか……そんな……貴様はまさか!?」
驚愕するパンツマスターがレイを見るの見て、私もまさかと嫌なを予感を抱いた。
そしてレイは奴へと振り返ると、勝ち誇った顔を見せる。
「賢い私はかんがえた……穿いても盗まれるなら、最初から《《穿かなければ良い》》と」
「――えっ?」
周囲と私の声が一致した。
まさか、レイ。まさかまさかお前……!
私が言葉を失っていると、レイは私の方を見た。
「師匠、ポケット見てみて」
「はっ? ポケット……?」
私はもう考える事を止め、言われるままにブレードを引っ込め、ポケットに手を入れた。
すると、何やら布の様な違う様な、何かが入っていた。
そして取り出すと、それは小さな《《レースの下着》》だった。
「えっ?」
また周囲と私の言葉が重なった。
だが、ここまで来たら馬鹿でも分かる。
そう、レイは下着を穿いていなかったんだ。
「いつからだ……レイ」
「騎士団本部のとき」
私は頭が痛くなるのを感じながら、どうしたものかと考えた時だった。
それより先に奴が動いた。
「ありえん……ありえん……! 下着を穿かない美人な少女がいるものか!! いて堪るか!!――寄越せ、我にその下着を寄越せ!! ダンジョンマスター!!」
なんでだよ! なんでそんな展開になるんだ!?
奴はそう叫びながら右腕に忍者刀、左にかぎ爪を装備し、私へ斬りかかってきた。
 




