冒険者+5:おっさん、下着ドロボーを発見する
まさか十六夜まで、下着ドロボーの毒牙に掛かっていたとは。
「まさか裏ギルドの長まで被害が……最早、これは国家転覆と同じ所業。そう言っても過言ではありません!」
いや過言だろ。下着ドロボーで破滅する国なら、逆に滅んだ方が良いだろ。
「しかし、どうしたものか……十六夜までやられるとは、本当にスキルの可能性が高いな。しかも隠密能力も高い下着ドロボーだ」
「この数日、俺も王都を見ていましたが、奴を捉える事はできなかった。しかし師匠ならば、もしかしたら……」
「類は友を呼ぶ」
「誰が友だ誰が。下着ドロボーの友人はいない」
レイの冗談に付き合ってる場合じゃない。
しかし小太郎でも逃す相手とは、かなりのやり手。
もしかしたら危険人物かも知れない。
追い詰めた結果、刃物で攻撃してくる可能性もあるな。
「何か特徴はないのか? 外見に特徴があれば……」
「特徴はあります!」
おぉエリアが握り拳をしながら声を上げたぞ。
余程の執念だ。これなら、犯人の姿を確実に覚えている筈だ。
「犯人は顔と上半身は黒装束でしたが、下はパンツ一枚の男です! それだけはハッキリ分かります」
「……そんな馬鹿な」
なんで上だけ隠しているんだ。そんなドロボーいる訳ないだろ。
私は頭が痛くなってきたが、エリア達は必死だった。
「本当なんです信じてください!!」
「本当にそんなふざけた姿の奴に盗まれたんです!!」
うむ、他の騎士も言っているって事は本当みたいだ。
しかし、そうなると余程の変態だぞ。
けど、もしかしたら……。
「そんな変態か……なら、意外と私達に近付いて来るかもしれないぞ?」
「ど、どういう事ですか?」
不思議そうに聞いてくるエリアに私は、あることを言ってみた。
「私達は7日以上は王都から離れていた。そんな中、外見だけは確かに良いレイとミアが帰って来たんだ。間違いなく奴は狙うだろ」
なにせ副団長のエリアと、裏ギルドの長の十六夜の下着を盗むぐらいだ。
王国魔導士のレイと、オリハルコン級ギルド長であるミアを恐れる筈がない。
「た、確かにそうです! 御二人はまだ盗まれていない以上、確実に来る筈です!!」
「だが問題なのは、いくらなんでも弟子を囮にするのがなぁ……」
師として間違いなく一線を越える気がする。
まぁ命じゃなく尊厳を奪われる可能性はあるが。
「別にいいよ。レイは《《問題ない》》から」
「レイ!? 良いのか? 場合によったら奪われて、凄い事されるかも知れないぞ!?」
「大丈夫。手を打つから」
何やらレイには秘策がある様だな。
それなら弟子を信じて、このふざけた事件を終わらせよう。
「そうか……なら信じるぞ。丁度、日も沈んで来たし、間違いなく奴は現れるだろう」
「いえ、師匠。奴は昼間だろうが関係なく行動を起こします。だから油断はしない方が――」
小太郎がそこまで言った時だ。
何やら外が騒がしくなってきたと思った瞬間、突如大きな声が響いた。
「出たぞ!!! 下着ドロボーだ!!」
「なに!? まだ夕方だぞ!」
「奴は関係ありません!! 女性下着があるならば、時間も場所も選びません!!」
おぉ、エリアの目が燃えている。
そりゃそうか。年頃の女性が下着盗まれているんだ。しかも穿いた状態のままで。
そりゃ怒りも凄まじい筈だ。
「良し! なら話は早い! 行くぞ!!」
私は扉を蹴破る勢いで外に出た。
その後ろからエリア達騎士達と、レイと小太郎も付いてくる。
そして声のする方に行くと、時計台の周辺に人だかりが見えた。
絶対にあそこだ。皆揃って上を向いて叫んでいるぞ。
「ここか!」
私達が時計台に辿り着くと、そこは地獄絵図だった。
「降りて来い!! この野郎!!」
「下着返せ!!」
「俺の彼女の下着をよくも!!」
「こっちは娘の下着だ! 許さん!!!」
おぉ、事態は想像を超えるレベルで凄まじかったようだ。
理由はともかく、下着の為に男女関係なく時計台へ叫んでいるぞ。
「いましたルイス殿! 奴です!!」
「なに!?」
私達はエリアの言葉を聞き、彼女の指差す場所を見上げた。
すると時計塔の針の上で佇む、一人の人影がいた。
その声からして男は、私達を見降ろしながら大いに笑っていた。
「アッハッハッハ!! 哀れだな愚民共!! 下着も守れない愚かな者達よ!――聞け!! 我が名はパンツマスタ―!! 王都中の下着を奪いし生きる伝説だ!!」
うわぁ、本当にいたよ。
しかもエリアから聞いた通り、黒装束と頭巾で顔と上半身は隠しているが、下半身はパンツ一枚だ。
隠す場所が違うだろ馬鹿野郎。
何がパンツマスターだ。あんな変態、とっとと捕まえてこっちは休みたいんだ。
始高天や魔物達に比べれば、あんな奴――
「そして見よ!! これが新たな戦利品!! オリハルコン級ギルドの長――ミア・ナックルヘッドの下着よ!!」
そう言って奴は、紐下着をこれ見よがしに天へ翳した。
おいおい、ミア……お前もか。




