冒険者+5:おっさん大奮闘
うわぁ、続々とウッドゴーレムまで現れたぞ。
流石にこの数を相手しながら、彼の相手は出来ないよ。
「クロノ……皆、すまないが――」
「分かっています。こいつ等は私達が相手をしますよ」
「まぁしゃあねぇか。とっとと倒せよセンセイ」
「レイは楽な方が良い」
本当に理解ある良い弟子達を持ったものだ。
私は内心で感謝を言いながらも、もう少し楽をさせてくれないかとも思った。
だが焦らず行こう。こんなおっさんを慕ってくれる弟子達に感謝なんだから。
「ルイス殿!!」
そう思っていると、私は頭上から声を掛けられた。
見上げてみると、そこにいたのはルナリア達エルフ族だ。
「おぉ! ルナリア! 無事だったのかい!――すまないが、周囲のゴーレムを頼むよ! ドーワは私が相手をする!」
「えっ!? ひ、一人で……い、いえ、ではお任せします!」
何やら驚いた顔をしているが、心配してくれている。そう思う事にしよう。
「さてエミック。皆を頼むよ?」
『~~♪』
私がそう言うとエミックは腰から降りて、クロノ達とゴーレムへ対峙してくれた。
これで安心できる。
「さぁて、行くか」
私はそうと、足に魔力に込めて高く跳んだ。
そして、そのままドーワへとブレードを振るう。
「早い!?――くっ!」
だがドーワは咄嗟にガイアで受け止めた。
だが5レベル差を侮るなよ。防御力が君なら、攻撃と速さ――そして魔力は私だ。
「グラビウス・マーズ! 魔剣ニブルヘイム!」
私は右腕のブレードに火炎重力刃を、左腕のブレードをニブルヘイムへと変えた。
そして、思うままにドーワへと振り続ける。
「おっさんを舐めるなよ!」
「なっ!? こ、こいつ! 力は僕より上なのか!!」
「力だけじゃないさ!――魔力解放!」
私はそう言って魔力を解放すると、私を中心に魔力の嵐が吹き荒れる。
「この魔力!? ノアを超えている――うわっ!?」
その嵐にドーワは飲まれて吹き飛ばされるが、デーモンヘラクレスの羽を上手く使い、空中で停止した。
そして信じられない者を見るかの様に、私を目を丸くして見てくる。
「ば、馬鹿な……! なんだ、あの魔力!? 通常時のノアを超えているじゃないか! まさか、あんなおっさんが僕よりもレベルが上なのか! この始高天の選ばれし魔人である僕よりも!!」
「年の功を侮るなよ」
三十過ぎたら皆、おっさん。
身体の変化とか凄いからな。甘く見るなよハーフエルフ。
「悪いが、こんな戦い……早く終わらせたいんだ。結構、身体にガタ来てるからね。結構辛いんだよ……特に腰とか節々が」
「な、なにを言っているんだ? 真面目にやれ!!」
うん、どうも気分があれだな。
彼の外見が少年だからか、今一緊張感が私の中で半端だ。
ただ油断はしてないし、言った言葉は全部本音だよ。
本当に辛いんだよ。腰だってジーンとした違和感、痛みもあるし。
「さぁてもう一回行くよ!」
「くっ! 来い!!」
私はそう言って根を蹴りながら、高く跳躍してドーワへ迫った。
だが彼も馬鹿じゃない。
一番力と防御力のあるデーモンヘラクレスの頭部のある左腕で、私の攻撃を受けた。
「嘗めるな! デーモンヘラクレスの防御力! そして僕の第一スキル『魔力加護』による防御力向上スキル! それが合わさった僕という魔人が最強だ!」
「確かに凄い防御力だ!」
何度も斬りかかっても一向に僅かな傷しか付かない。
ガントレットブレードはオリハルコン製で、ブレードには炎と氷も纏っているんだぞ。
なのに燃える素振りも、凍る感じもしない。
きっと彼のスキルだな。状態異常に対して、強くなるのだろう。
だがニブルヘイムは魔剣だ。僅かながらもデーモンヘラクレスの頭部が凍っていくのが分かる。
「くっ! 魔剣か! だな嘗めるなおっさん! 僕は魔人でありハーフエルフ!! 選ばれし存在だ!!」
うおっと、まずいと思ったのか距離を一気に取ったな。
だが遠距離がないと思うな。
「ニブルヘイム――蒼葬氷柱!!」
私は左腕を振るうと、目の前に巨大な氷柱が次々と現れた。
そして、それは真っすぐにドーワ目掛けて飛んでいく。
「氷遊びだね! デーモンヘラクレス!!――グランドホーン・ロストブレイク!!」
「なっ! デーモンヘラクレスの頭部――いや角に大量の魔力が!?」
流石の魔力だ。伊達にレベル<79>じゃないな。
巨大な魔力刃となった角で、氷柱も薙ぎ払われて砕かれたぞ。
――って、そのまま私を挟む気か!?
「死ね! ダンジョンマスター!!」
「おっと!!?」
私は挟まれる直前、必死にブレードで受け止めたが、凄い力だ。
少しで気を緩めたら、あっという間に両断されるぞ、こんなの。
「全く……これだけの力を持ちながら、何でこんなことをする! 始高天の指示だからか! それともエルフ族への復讐か!」
「両方さ! 新たな世界の創世……そしてハーフエルフを迫害した歴史を消すかの様に、奴等の行動がムカつくんだよ!!」
確かに近年、エルフ族は数が減っているのもあって他種族交流が盛んだ。
8年前までだと人族に嫌悪感すらあったのに、その話を聞いた時は私だって驚いたものさ。
「君の心の傷は分からない! エルフ族の傲慢さだって悪かったのも分かる!――だが始高天は止めろ! 何をするか分かっているのか!?」
「分かっているさ! 新たな世界の創世! 腐った今の世を消し去るんだ!!」
ドーワはそう叫ぶと、私を側面への木々の根へと投げ飛ばした。
私は咄嗟に風魔法で受け身を取ったが、やはり話だけで解決はしないか。
「君の怒りは分かるつもりだ……だけど、私は君を止めるよ」
「偉そうに語るな若造! 僕は150年は生きているんだぞ! 嘗めるな!!」
嘗めてないさ。けど周りに敵だけだと疲れるぞ。
私はそう思いながら、上手くいかないものだと溜息を吐いた。
そして再びブレードを構えて、跳躍してドーワへ迫った。
だが彼も同じ様にデーモンヘラクレスの頭部を構えた。
「学習能力が無い! まさに人族だな!!――デーモンヘラクレス!!」
さっき同じ様に彼は角に魔力刃を構成し、巨大化した頭部で私を挟んできたが、今度はそうはいかないぞ。
「悪食!!」
ガントレットブレードから出てきたのは牙だ。
魔力の口を形成し、私を挟む角へと噛みついた。
「それはグリムの魔鎌か!?」
今更気付いても遅いぞ。
君の魔力、確かに貰った。
私は魔力刃が消えた事で角によじ登り、一気に頭部の上を走った。
そしてブレードを収納し、ガントレットだけに貰った魔力と私の魔力を込めると巨大な炎と氷がガントレット包み込んだ。
「なっ! こいつ!? 僕の魔力を……!? だが僕の防御力は最強だ――」
知っているさ。蹴りを入れた時、凄く痛かったよ。
けど、私をただのおっさんだと思うな。
――私は+Level5のおっさんなんだぞ。
私は空中へ跳び、彼の腹部目掛けて拳を構えた。
彼も肉体に装甲を纏い、残った魔力で防御力を固めて、再びガイアを振ろうとしたが遅い。
そんな半端な攻撃よりも、私の攻撃の方が早いぞ。
「死ぬなよ!!――双極流星!!」
私は炎と氷の嵐を纏った両拳を、彼の腹部へと叩きこんだ。
――瞬間、彼の身体の装甲が砕け、デーモンヘラクレスの肉体にも亀裂が入った。
ドーワも白目となって、口から大量の息と僅かな血を吐いた。
そして最後は奥の大樹に、磔の様になって叩きつけられた。
「ガハッ!! ぼ、僕が……始高天の……魔人である……僕……が……!」
そう言って彼は魔剣・ガイアを手から離し、ガイアは転がる様に落ちて最後は墓標の様に突き刺さった。
そして、ようやく彼が動きを止めたと同時に、周囲の根やウッドゴーレム達は消えていった。
「良し……今回も何とかなった様だ。――ハァァァ疲れたよぉぉ」
ようやく終わったよ。
本当に今回も強かった。両足痛い、古傷痛む。休ませてくれぇ。
私は心の中でそう叫びながら、その場で大の字に倒れてしまった。
 




