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<15万PV達成>おっさん冒険者+レベル5  作者: 四季山 紅葉
第九章:エルフの国ユグドラシル
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冒険者+5:世界樹の魔人

 あれから私達は走り続けた。

 

 そして道中で出てくる魔物やゴーレムを撃退しながら、やがて世界樹の根の辺りに辿り着いた。


 長距離を走るの流石に堪えたが、事態が事態だ。

 私達は必死に走った結果、根に着いてたが周囲の光景に、私は息を呑んだ。


「これは……まるで焼け野原だ」


 木々、世界樹の根に囲まれた広い空間。

 そこに出た私達だったが、周囲には倒れたエルフ族達で溢れていた。


 まさか、精鋭のエルフ族がここまで倒されるとは。

 私はすぐに、ここに元凶がいると確信し、力量の瞳を開眼する。


 そして周囲を見回していた時だった。


「ふぅ~ん。お前がノア達を倒したダンジョンマスターか。思ったより、おっさんだね」


 突然、私達の耳に幼い少年の様な声が聞こえてきた。

 

「上です!」


 ルナリアの声に私達は一斉に上を見た。

 すると、そこには古代文字のローブを身に纏い、背中に羽の様なシルエットを出しながら浮かぶ者がいた。


「古代文字のローブ……始高天か!」


「始高天を知っていて、その顔……やっぱり間違いないみたいだ。はじめまして、ダンジョンマスター。そして、さようならだね。薄汚いエルフ族諸共、消してやるよ」


 少年らしき者はそう言うと、翠色の剣を天へと翳した。

 その瞬間、地面から木の蔓が生き物の様に飛び出し、私達を襲った。


「散開しろ!」


 私の言葉に一斉に跳んで散るが、周囲の蔓は辺りを包み込んで、ある種のフィールドとなっていた。

 そして偶然だが、私とレイが一緒の場所に逃げていた。


「レイ! 大丈夫か!?」


「うん……それより師匠、アイツの剣――恐らく魔剣」


 だろうな。レイの言葉に私は納得した。

 今のは魔法というよりも、明らかに剣の力だ。


 魔剣を見て慣れたのもあって、何となく分かったぞ。

 私はガントレットブレードを構え、あの始高天の者を探した。


「どこに行った! 出てこい!!」


「ここにいるよ」


 私が叫ぶと、その少年らしき小さな者は空でジッとしていた。


「魔剣か……!」


「その通り……大自然の魔剣<ガイア>だ。世界樹のマナがあり、自然に囲まれたこの場所ならば、自由に力が発揮できる」


 そう言って始高天の者はフードを取った。

 そして、その姿に私は目を疑った。


「やっぱり子供……!?――いや、その耳。君はまさか《《ハーフエルフ》》か!」


 フードを脱いだ始高天の者の姿――それは少年の様な幼い顔をしていたが、人よりも長く、エルフ族よりも短い耳を見て私は確信した。 


 あんな特徴的な耳。エルフ族とのハーフであるハーフエルフしかいない。

 そうなると分かったぞ。この惨劇の理由も。


「復讐か、全ては……嘗て、ハーフエルフはエルフ族にとって人間や魔物以上に迫害されていたと聞く。近年では無くなったと聞いたが、君は経験した子なんだな」


「知った風に言うな。それに僕は少なくとも、お前の5倍は生きているぞ。歳は150を超えた筈だ。知った風に同情するな、若造!」


 そう言って彼は高速で私達へ向かって来ると、魔剣ガイアを振り上げた。


「くっ! 下がれレイ!――グラビウス・マーズ!!」


「グラビウス!? それはグアラの魔剣か……!」


 真っ赤に染まった私のガントレットブレードと、彼の魔剣がぶつかりあい火花が散る。


 それにしても、こんな小さな身体でなんて力だ。

 少しでも気を抜いたら持っていかれる。


 見た目は子供だが、子供として見る訳にはいかない様だ。


「紅蓮脚・火葬炎舞!!」


 私は一瞬の隙をついて少年の態勢を崩すと、両足に炎を纏わせて連続の回転蹴りを繰り出した。


 そして数撃当てた後、最後に力を入れて蹴りを放った。 

 だが最後の方は手応えが薄い。空中に浮いているし、そのまま後ろに飛んだな。


「クソッ! 避けられたか!」


「師匠さがって……風魔法・イーグルラッシュ!!」


 そこはレイが魔法で追撃してくれた。

 イーグルの姿を模した風の魔法を幾つも出現させ、彼のローブを切り裂いていく。


「チッ! 鬱陶しいねぇ!!」


 そう言ってローブを捨てた彼の姿に、私とレイは驚いた。

 何故ならば、彼の身体の一部は昆虫の様な羽や手足が生えていたからだ。


「その身体……あの道化師と同じか!」


「ラウンの事だね。けれど、アイツと僕を一緒にしない方がいい。アイツはヘタレだから、死んだ魔物と融合した下位の魔人でしかない。――けれど、僕は違う!」


 そう叫んで彼の左腕から巨大な虫の頭部が現れた。

 それは、上下に長い角があって一見はヘラクレスオオカブトだ。


 だが、ただのヘラクレスじゃない。

 呪紋が刻まれて、悪魔の様な牙などもある。


「師匠、あの魔物って確か……!」


 レイも気付いたようだ。

 そうだ。あの魔物の正体は――


「まさか『デーモン・ヘラクレス』か。レベルは確か<75>の危険度9の魔物……!」


「へぇ、流石はダンジョンマスターだね。正解だよ……なら僕も名乗ってあげるよ。――僕はドーワだ。<ドーワ・ファンタジア> 始高天の魔人さ!!」


『グオォォン!!!』


 そう言った時だった。

 ドーワ目掛けて、先程離ればなれになったベヒーが突っ込んで来た。


「お前……ノアの実験体か。――邪魔だよ!!」


 そう叫んで、奴は左腕のヘラクレスの頭部を使ってベヒーを挟むと、そのまま持ち上げた。

 おいおい嘘だろ。あのベヒーの巨体を持ち上げるなんて、どんな力しているんだ。


「ほら返すよ!!」


 奴はそう叫びながらベヒーを投げて来やがった。

 うおっ、すまんベヒー。受け止められん。


 私とレイは苦渋の選択でベヒーから逃げる様に回避し、ベヒーは地面に叩きつけられた。

 

 そして急いで私はベヒーの下へ駆け寄る。


「ベヒー!? すまん、大丈夫か!」


『グオォォ~ン……』


 よし、大丈夫そうだ。だが目を回していて戦闘には参加できそうにない。

 しかしなんて奴だ。こちらもレベルを調べないと。


「……第一スキル『+Level5』!――<84>!? ってことは、アイツのレベルは<79>か! ノアに匹敵するなんて」


「良く分かったね。相手のレベルを知るスキルか……けど、魔人のレベルと人のレベル。同じ力と思わない方が良いよ!」


 そう言うと、奴の肩や背中からカブトムシの手足の様な、かぎ爪の様な手足が生えて来た。


 そして肉体も強靭な殻の様に、黒く染まり始めた。

 まずい。あの威圧感、レベルが+5になってどうにかなるレベルなのか。


 いや迷うな。こうなれば先手必勝だ。

 私はそう思った時だった。


「師匠!」


 聞き覚えのある声に私は見上げると、側面の根の上にクロノが立っていた。

 そしてクロノも敵を把握しており、私は頷いた。


「クロノか!――仕掛けるぞ!!」


「はい!!」


 私とクロノは根を蹴りながら宙へと跳び、同時に左右から迫ってドーワを挟むように蹴りを放った。


「凍破・絶氷脚!!」


「絶・黒葬脚ぜつこくそうきゃく


 同時に放った氷と黒の脚技は、間違いなくドーワへ直撃した。

 だが彼はヘラクレスの頭部と、漆黒に染まった腕で受け、私達にも僅かな痛みが走る。


「なっ! 硬い……!」


――5レベル差でこれか。レベルは上でも、防御力は向こうが上かもしれない。


「ぐっ! 人の硬さではない!?」


 私は足に痛みが入る程の硬さを感じたが、クロノも表情を歪めている。

 そして受け切った後、ドーワは叫ぶと同時に魔力を解放した。


「うざい!!」


「うわっ!!」


「師匠!?」


 同時に吹き飛ばされた私達だが、クロノは漆黒の服から黒い翼を生み出して私を受け止めてくれた。


 本当にイケメンだなクロノは。

 私が女だったら惚れていた自信があるぞ。


 そして、それと入れ替わる様に飛び出す影がいた。


「ミアか!?」


「アッハッハッハ! オレに任せなセンセイ!!――奥義・獣躙拳!!」


 ミアはとんでもない魔力を込め、渾身の一撃となって右拳をドーワへと放つ。

 

 だが同時に、ドーワも左腕のデーモンヘラクレスの頭部に魔力を込め、ミアの攻撃を真っ正面から受けていた。


「グランドホーン!!」


 真っ正面から両者の攻撃がぶつかった瞬間、強烈な衝撃波が周囲を襲った。


「ぐっ! なんて威力だ……!」


「加減なしだな、アイツは本当に……!?」 


 私達も必死に受け身を取って、すぐにミア達の方を見ると、ミアの一撃でドーワの装甲に亀裂が入った。


 だが、ドーワは止まらない。


「うぅ……オオォォォォォ!!!」


「うおっ!!? こ、こいつ……!?――がっ!!」


 僅かな差でミアは吹き飛ばされた。 

 だが根にぶつかる寸前で、彼女は両足で受け身を取って難を逃れていた。


「ミア!」


「オレは大丈夫だセンセイ! けど、アイツ強いぜ!!」


 分かってるさ。ラウンと同じ魔人とは思えないぞ。

 魔物と合体した人間――魔人か。なんて奴だ。


 そんな事を思っていると、今度はレイの方から強い魔力を感じた。


「レイ!?」


 私達が振り向くと、雷を呼び寄せたかの如く、彼女の周りに金色の雷が出現し辺りに落雷していた。


 まずい。きっと最上級の魔法を使う気だ。

 私はとりあえずクロノ達と下がった。


「師匠、みんな下がって。――天の嘆き、雷の咆哮、今ここに具現せよ――戯怒竜(ぎどら)!!」


 レイが詠唱を終えた瞬間、周囲が吹き飛ぶと思う程の雷が放たれた。

 

 そして、その雷は三つ首の竜となってドーワへ食らい付く。


「グゥゥゥ!!!――ガイア! 天地蹂躙!!」


 雷の竜に噛み付かれながら、ドーワがガイアを天へ翳した。

 すると。地面や周辺の根から、更に木々がトゲの様に生えて雷の竜を貫き消滅させる。


「むぅ……惜しい」


 レイは悔しそうに頬を膨らませているが仕方ない。


「あの魔剣が厄介だな……!」


 この環境と魔剣ガイアの相性が凄まじい。

 それと魔人の力。デーモンヘラクレスと合体とは恐れ入ったよ。


「僕は負けない……!! エルフ族は許さない……! お前もだ!! ダンジョンマスター!!」


 そう言って右腕にガイアを、左腕にデーモンヘラクレスの頭部を持ったドーワは叫ぶと同時に周囲のマナを集めだす。


 そして瞬時に、ミアに砕かれた肉体が再生するの見て私は息を呑んだ。

 あれは執念だな、最早。


「ダンジョンマスター!!」


「クロノ、皆と離れろ。全く、+Level5だけで、どこまで無理をさせる気だ」


 まさかノア以外で、こんなに苦労するとは。

 全く、おっさんに無理をさせるなよ。


「いでよウッドゴーレム!!」


 ドーワが叫び、ガイアを掲げた。

 すると周囲からウッドゴーレムが現れたのを見て、私は肩を落とすだけだった。


 もうあれだ。笑うしかないな。

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