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<15万PV達成>おっさん冒険者+レベル5  作者: 四季山 紅葉
第九章:エルフの国ユグドラシル
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冒険者+5:神話領域・世界樹の迷宮

 小人になった様な気分だ。

 それだけ周囲の木々は大きく、明らかに常識のスケールを超えていた。


「でっけぇ……!」


『グオォォン!』


 ミアが思わず口に出し、ベヒーは嬉しそうに鳴いている。

 私だって始めてきた時は、二人と同じく驚き、ワクワクしたものだ。  


 この大自然。人間界では絶対に見れないな。

 それだけ綺麗で純度の高いマナが多い証拠で、エルフの薬草や野菜の質は高くて有名だ。


 しかし今はそんな話じゃない。

 離れた場所では煙が上がって、エルフ族と思われる叫び声や攻撃音が聞こえてくる。


「急いだ方が良さそうだ」


「はい。私達が案内しますので、どうか付いて来て下さい」


 ルナリアの言葉に私達は頷いた。

 そして彼女達の後ろを走りながら時折、木々の同じ光景で迷っている様な錯覚に襲われながらも、なんとか付いて行く。


 そんな時だった。

 私達の耳に、場違いな羽音が聞こえてきた。


「これは、虫の羽音か?」


「しかも大きい個体ですよ」


「そんな……そんな魔物、このダンジョンにいません」


 ルナリアはそう言うが、この音は間違いなく羽音だ。

 しかも近付いて来ているぞ。すぐ傍――否。


「上だ!!」

 

 私は音の場所に気付き、上を向いた。

 するとそこには、巨大な蜂型魔物が飛んでいた。


「なっ! おいあれって!?」


「デュエル・ビー……危険度7以上の森にいる魔物」


 ミアとレイが指を差してそう言うと同時に、私達は身構えた。

 ルナリア達も弓を構えるが、その表情は落ち着いていない。 


「そんな……この様な魔物。世界樹には……!」


「連れて来たんだろうな……その元凶が」


 私はルナリア達を落ち着かせる為に、そう言った。

 だが、そうなると厄介な話でもある。


 デュエル・ビーは、蜂なのに集団行動しない珍しい蜂だ。

 レベルだって<50>はある。


 そうなると敵は、簡単にこんな魔物を使役する高い技術力もあるって事だ。


「厄介だな……」


 私がそう言った瞬間だった。

 私達が空のデュエル・ビーに意識を向けていたが、突如、目の前の側面から巨大な巨人――ゴーレムが現れた。


「なっ! これはウッド・ゴーレムか!」


「しかも完成度高い……敵は魔法の練度も高いと思う」


 クロノが叫び、レイが冷静に敵を判断していた。

 魔法使いの練度は、ゴーレムを作らせれば分かると聞く。


 私ですら感心する洗礼された人型ゴーレムだ。

 しかも材料は周辺の木々だろう。


 世界樹のマナを吸っている木材からのゴーレムだからこそ、奴からは凄い魔力を感じるぞ。


 レベルは見た限りでは<66>か。

 私達より二回り以上大きくて、このレベルでは脅威だ。


 だが、今回は私達だけじゃないぞ。


「ベヒー!!」


『グオォォン!!』


 私の言葉にベヒーは反応し、察したのだろう。

 ベヒーはウッドゴーレムへ突撃し、ウッドゴーレムも真っ正面から迎え撃つ様に両腕でベヒーを受け止めた。


『グオォォン!!』


『オォォォォォン!!』


 両者の声が周囲へ木霊する。

 これはモンスタースタジアムよりも大迫力だぞ。


 そんな事を私が思っていると、クロノが私へ必死に声を掛けてきた。


「師匠! 前です前!!」


「えっ?――あっ、そうだデュエル・ビー!?」

 

 しまった。大迫力に目を奪われて忘れていた。

 私はクロノの言葉を聞いて、すぐに上空を見た。


 そこではまさに今、デュエル・ビーが私達へお尻の針を向けているところだった。


「させません! 撃て!!」


 ルナリアの言葉にエルフ族達が矢を放つが、デュエル・ビーはその巨体に似合わない速度で左右に避けている。


 そして攻撃が止んだ瞬間、奴は針から毒を拡散して私達へ放ってきた。


「そうはさせるか! グラビウス――大地の掟(プライド・ガイア)!!」


 私は前方に重力場を作り、毒が私達へ届く前に地面へと落とした。

 そして、そのまま重力場にデュエル・ビーを巻き込ませ、奴は必死に抗うが、動きは確かに止まった。


「今だ! やれ!――グラビウス解除!」


 私はクロノ達に攻撃を頼み、タイミングを合わせて魔法を解除。

 そこへクロノ達が一斉に攻撃を放った。


「黒絵――黒熊!」


「獣王脚!!」


 クロノが黒い巨大な熊を出現させ、デュエル・ビーを抑えた。

 そこへミアが強烈な蹴りを放ち、衝撃でデュエル・ビーは地面へ叩きつけられる。


 その瞬間を狙い、ルナリアとレイが追撃した。


「エルフの矢――宿り木!」


「赤き眠り、紅蓮の咆哮、今ここに解き放て――火竜(ヒドラ)!」


 ルナリアが放ったのは一本の矢。

 その矢が当たった瞬間、デュエル・ビーの身体から蔓が伸びて拘束する。


 そこへレイの放った火炎魔法が、デュエル・ビーを包み込んだ時だった。

 私達の背後からベヒーの咆哮が聞こえてきた。


『グオォォン!!!』


 ベヒーは未だにウッドゴーレムと押し合いを繰り広げていたが、エミックが私の腰から降りて、ベヒーの尻を一発引っ叩いた。


 その光景は気合を入れろよと、喝を入れているようで、ベヒーもその一撃を受けた瞬間、目つきが変わった。


『グオォォン!!!』


「おぉぉ!!」


 そこから私達も声を出してしまう程に見事なものだった。

 ベヒーは角で上手くウッドゴーレムを捉えると、そのまま転ばす様に吹き飛ばした。


 そしてウッドゴーレムは、そのまま燃え上がるデュエル・ビーとぶつかり、共に炎上し、その動きを止めた。

 

 その光景を見て、私は安心して呼吸を整えた。


「ふぅ……流石に、この面子なら楽が出来たな。私一人だったら苦戦していた」


「流石に一緒に来てまで、師匠一人に押し付ける気はありませんよ」


「そうだぜ。今回はセンセイに楽させてやるからよ」


「みんなでレイに楽させてぇ~」


 やれやれレイはともかく、いつの間にか弟子達は成長していた様だ。

 立派になったと思ったけど、まさかまだまだ上に行っているとはね。


「みんな、良くやってくれたさ。ベヒーもありがとう」


『グオォォン』


 私はベヒーを撫でて上げると、ベヒーは嬉しそうな声をあげる。


 そして、そんな私達をエルフ族の人達は驚いた顔で見ていた。


「あれ程の魔物とゴーレムを一瞬で……」


「本当に人族なのですか?」


「これ、失礼ですよ。しかし、驚きました。あの時よりも腕を上げたのですね」


 ルナリアは驚いた様子で、そう言うと、彼女の言葉に私も頷いた。


「色々とありましてね。中々、楽が出来ないんですよ」


 あの後からだな。まさか始高天なんて連中と戦う事になったのは。

――過労死するんじゃないのか、私は。


「突然死だけは勘弁してほしいかな……」


「大丈夫、師匠……その時は師匠の財産、もらってあげる」


 とんでもない言葉もあるものだ。

 レイ、お前だけだよ。多分、今後が心配なのは。


「しかし、流石は世界樹のお膝元……マナが豊富で疲れがないな」


「それは感じました。初めて来たダンジョンですが、迷う事もないですし、魔力もすぐに回復して助かります」


 私とクロノがそんな話をすると、クロノの言葉にルナリアが反応した。


「それは私達エルフ族が案内しているからですよ? 案内人がいなければ、世界樹の迷宮の名の通り、そのまま遭難するのが普通なのです」


「たまにですが、不法侵入者の亡骸も見る程ですからね」


 あぁ、確か8年前もそんな事を言われたな。

 その処理もエルフ族がしていたり、不法侵入者の大半が人族だから迷惑だとか。


 確かに人身売買は無くなったとはいえ、そんな事ばかりならエルフ族からの印象も悪い筈だ。


 ルナリアは大丈夫だが、後ろの数名は未だに私達へ懐疑的な目線を向けているからね。


 彼女達の信頼の為、早く解決してあげないと。


「……アハハ。さて、行こうか」


 私がそう言って話を終わらせると、再び私達は世界樹へと走り始めた。


 そして同時に強くなってくる力に、私の表情は険しくなる。


――近付いているな。この事件の元凶に。


 凄い威圧感だ。もしかしたらノア以来かもしれないぞ。

 私は無意識に息を呑みながら、世界樹から目を離せなかった。

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