冒険者+5:世界樹の迷宮
私達はあれかクロノの用意した馬車に乗り、私達4人と、ルナリア達エルフ族と共にエルフ族の国・ユグドラシルへと向かっていた。
最低でも四日掛かると言われている場所だが、多少の強行軍でなんとか三日目にはユグドラシル領内に入る事が出来た。
ただ、その間の私はと言うと。
「師匠……師匠! ユグドラシル領内に入りましたよ」
「……ん? あぁ……うぅ~ん、そうか」
クロノに起こされて、私は馬車内で伸びをした。
殆どこんな感じだった。疲れからか、凄く眠くて熟睡していたよ。
そんな私へクロノが心配そうに声を掛けてくる。
「大丈夫ですか? やはりお疲れなのでは?」
「……まぁ、流石にちょっとな。ここ最近で無理をし過ぎたかな」
ツンドラマウンテン以降もそうだったが、そもそも今年に入って色々とあり過ぎた。
平凡な冒険者ライフだったが、エリアが来て『ドクリスの森』に入ったのを皮切りに。
王都に来て、裏ギルドと戦って、始高天と出会って戦って。
そして高危険度ダンジョンへ入ってと、無理をし過ぎた。
今回の依頼が終わったら、流石にどこかで休んだ方が良さそうだ。
私は身体に地味な重さを感じていると、ルナリアが申し訳なさそうな表情をしていた。
「申し訳ございません……ルイス殿を巻き込んでしまって」
「いやいや、それについては大丈夫だよ。世界樹の一大事だ。――それに始高天が相手なら、私も無視はできない」
もう私の中で、始高天=碌でもない連中の式が出来上がっていた。
ノアも強かったし、ディオ達は死刑囚の元騎士団とか、色んな肩書もあった。
そんな連中で、しかもレベルが<60>を平然と超える者達ばかり。
完全にヤバイ。最高危険度の犯罪集団と言っても過言じゃない。
「始高天の構成員は、普通にレベル<60>以上の猛者ばかりだ。そんな連中が集団でいる。――そして世界樹で何かをしている。ならば止めるしかない」
「世界樹は世界の要……それに手を出すなら、きっと碌でもないことする気」
魔法のエキスパートであるレイも、今回は嫌な予感をしている様だな。
マイペースな彼女ですら、今回は目が険しい。
「まっ! オレとセンセイがいるなら余裕だろ! とっとと救って、土産買って帰ろうぜ!」
「ミア! お前はそうやって楽観的に! 師匠の話を聞いていたろ! 相手を見くびるな!」
「ハッ! 最近はかませ犬のイメージのある、お前に言われたくねぇよクロノ!」
「なっ!……そ、そんなイメージが。だ、だが払拭してやる! 私は師匠の一番弟子だぞ!」
またミアとクロノが喧嘩しているよ。
全く、元気だな本当に。
それにクロノは別に弱くないけどな。
レベルだって上がって、既に70の領域に入っているし。
相性と時の運。
後は絡め手に対しての対処さえ完璧なら、完全に私も安心できるんだがな。
そんな事を思っていると、不意にマナが綺麗で清々しくなるのを私は感じた。
まるで大自然にいる様にいる様な、優しい空気と魔力。
私はルナリアを見ると、彼女も頷いた。
「間もなくです。世界樹も既に見えています……ですが――」
彼女は窓の外から世界樹の方を見ているようだが、その表情は暗い。
何事なのかと、私も窓から見て見ると思わず言葉を失いそうになった。
「なっ! 世界樹が……世界樹から煙が!?」
私が見たのは、世界樹から煙が上がっている光景だった。
間違いなく戦闘が起きている。あの世界の要――世界樹でだ。
「――急ごう」
それを見た瞬間、私の眠気は消え去った。
そして気付けば、戦闘の雰囲気を纏っていた。
どうやら本能が告げている様だ。
世界樹で、とんでもないことが起こっていると。
♦♦♦♦
あれから少し馬車を走らせ、私達はダンジョン『神話領域・世界樹の迷宮』に最も近い場所へ降りた。
そこはエルフ族の街――<マナリーフの街>だ。
嘗ては人族は滅多に立ち寄れず、エルフを除けばドワーフやオーク達もいる街だ。
しかし近年では人族の商人も多く出入りして、かなり活気に満ちていると聞いている。
――だが、私の目の前に広がっているのは、そんな活気とは正反対の光景だった。
「ぐぅぅ……あぁ……!」
「ぐっ……ちくしょう……!」
「い、いたいぃ……!」
まるで戦場だった。
所かしこに横にされ、治療されているエルフ族の戦士達。
街にも微かに焦げ跡がある。
こんな所でも戦闘をしたというのか。
「どうなっているんだ……あのエルフ族の方々が、こんな!」
「……現実です。既に王宮からもエルフの聖騎士達が出ていますが、例の魔人一人相手に、私達は劣勢に――いえ滅亡の危機に瀕しています」
私の言葉にルナリアは悔しそうに言った。
そして、その光景を見たクロノ達も黙っていられなかった様だ。
「あのエルフ族がこんな……敵は、あの道化師よりも強いのは間違いない」
「ハッ! 気に入らねぇな……街を襲うのはそうだが、怪我の仕方で分かるぜ。その魔人、敵を弄る事を目的にしてやがるな」
「ここからでも魔力を感じる……きっと敵は強い」
弟子達の言葉に私も頷いた。
ラウンの時とは違う感じがしてるし、エルフ族も見た感じ《《怪我人だけが》》多く見える。
殺すよりも苦しめたい。
そんな相手の考えが嫌でも分かる。
中にはエルフ族でも非戦闘員の姿も混ざっている。
この無差別。最早、恨みの領域だ。
「ルナリア殿……私達はこれからどう動けば?」
「ルナリアで良いですよ。――本当ならば、女王様へ謁見してからですが、女王様も宮殿で世界樹を魔法で守って余裕がないんです。だから、このままダンジョンへ向かいます」
あのエルフ族では、絶対の女王が簡単に世界樹へ通すとは。
一体、相手はどんな奴なんだ。
私は力量の瞳を開眼させ、世界樹の方を見た。
すると確かに強い存在がいた。
――しかし何だこれは。レベルが60~75を行ったり来たり。遊んでいるのか、まさか?
私は周囲のエルフ族を見ながら、敵が嫌な奴だと既に分かった。
このレベルの変動も、明らかにふざけた感じがする。
きっと嬲り殺す為にわざとだな。
「良し、じゃあ行こう!」
私の言葉に皆が頷き、ルナリアがダンジョンの入口へ案内してくれた。
そして、そこで私達を待っていたのは巨大な木々の森。
まるで私達は小人になったかと錯覚しそうになる、大自然だった。
 




