冒険者+5:エルフの国へ
あの気まずい感じ雰囲気から脱し、私は彼女達を拠点内へと招いた。
「あぁ、好きに座ってくれ。すぐに飲み物を……お茶と果実水、どっちが良い?」
「果実水で」
代表するかのようにルナリアだけが答えた。
他のエルフは警戒しているのだろうか、話してくれない。
――いや、なんだ。少し疲れている?
よくよく見れば、ルナリア達は少し汚れている。
まるで戦いの後だ。私が全員分出した果実水も皆、しっかりと喉を鳴らして飲んでるよ。
「……何があったんだ。魔物かい?」
「……いえ、それよりも質の悪い奴が現れたんです」
「ダンジョンにかい? それならすぐに知り合い達に声を掛けよう」
私は椅子に腰を下ろしたが、ルナリアの言葉にすぐに立ち上がった。
しかし、ルナリアはそんな私を止めた。
「いえ! 違うんです! いえ、ダンジョンではあるんですが。――現れたのはエルフの国・ユグドラシル。そして世界樹のあるダンジョン――『神話領域・世界樹の迷宮』です」
「それはまた……大物ダンジョンの名が出てきたね。私ですら1回しか行っていないし、その時も序盤辺りしか許されなかった」
あれは8年前ぐらいだったかな。
特殊なマナのある薬草がいるからって、何とかドワーフの伝手を頼って行ったんだ。
何せエルフのお膝元。
そして世界樹という世界のマナを生み出す母なる存在だ。
人は疎か、近場のエルフですら入る事を中々に許されないと聞く。
だが妙だな。エルフ族は精鋭は多いと聞くが。
「エルフ族で対峙できなかったのかい? エルフ族は精鋭が多く、レベルも<40>以上は普通にいると聞くが?」
「……恥ずかしながら、勝てなかったのです」
「それは驚きだ」
「こっちもベヒーモスがいる事に驚きです」
『グオォォン!』
ルナリアの言葉に、エルフ族達はうんうんと頷いていた。
そして窓の方を見ると、機嫌よく尻尾を振るベヒーの姿がいた。
「あれでも懐っこいし、賢いんだ。今だとご近所さんのマスコットだよ」
「……そうですか。それで話を戻しますが、相手は普通ではなかった」
そう言ってルナリアは思い出す様に話し始め、私も黙って聞いた。
話を折ったのは君だろ、そう言えば絶対に拗れると思ったから。
「現れたのは10日前でした。世界樹のマナに僅かな乱れを感じ、その様子を見に行った時に奴と出会ったのです。奴は自身を――<魔人>だと名乗っていました」
「魔人……!?」
その言葉に私の脳裏に、あの道化――ラウンの言葉が思い出された。
『これを飲んで相性次第ではボクちんみたいに適合体――<魔人>になれるんだ!』
奴は確かにそう言っていた。
そうなるとまさか、世界樹を汚す犯人は――
「まさか……その魔人は身体の一部が魔物の肉体で、あと古代文字のローブを纏っていなかったかい?」
「っ! はい! その通りです! 犯人に心当たりがあるのですか!?」
「……あぁ、残念ながらね」
それで私は確信した。犯人は始高天のメンバーだ。
「犯人は始高天と呼ばれる者達だ。創世を目的にした、異常な強さを持った者達で、ついこの間も魔人を名乗る始高天メンバーと戦ったよ」
しかしまた魔人――魔物と合わさった奴との戦いか。
ラウンの場合は、合成元の魔物の弱点を知っていたからだったが、今回もそうだという保証はない。
だがルナリアは、私の言葉を聞くやテーブルを強く叩いてお願いしてきた。
「ならばお願い致します! 我等エルフ族を……世界樹を助けて頂きたい!」
ルナリアはそう言って頭を下げると、後ろにいたエルフ族も私に頭を下げてきた。
その光景に私も思わず息を呑んだ。
あのプライドの高いエルフ族が、まさか人族に対して頭を下げるなんて。
――私が思ったよりも事態は深刻なのかもしれない。
そう思ったら疲れたと言っている場合ではなかった。
私は立ち上がり、彼女達へ声を掛けた。
「頭をあげて下さい。その依頼、受けましょう。世界樹に異変が起きたならば、私達――人族も無関係ではない」
「ありがたい……実は人族で頼れる者がいなかったのです。ですが、ダンジョンマスターと呼ばれ、エルフ族の仇敵を倒した貴殿ならばと思い。今回は来たのです」
「どんな理由でも断りはしませんよ。ですが、私だけじゃ心許ないので、あと数人呼びたいのですが?」
「構いません。実は既に女王様からも許可は得ております」
どうやら事態は緊迫しているようだ。
嘗て会ったエルフ族の女王様は、かなり厳しい方だった筈だ。
そんな方が既に許可を出している以上、私も全力で挑まねば。
「今回、連れて行くのは三人です」
私は彼女達へそう言うと、すぐに鳩を飛ばして準備を始めた。
今回、場所が場所だ。きっと激戦になるぞ。
♦♦♦♦
――急な話だから、最低でも1日以上は準備が掛かると思っていたがな。
私は鳩を飛ばした後、数時間後に既に私の拠点の前に集まった三人を見て、逆に呆れてしまった。
「おいおい、頼んだのは私だが、こんな簡単に来て大丈夫なのか? 最低でも一週間以上か帰れないぞ?」
私は目の前の三人――クロノ・ミア・レイの弟子三人にそう言うが、彼等は寧ろ笑っていた。
「アハハ……今更ですよ師匠。それに、再び師匠と旅に出られるのです。お供しますよ」
「よっしゃ!! エルフ族だろうが始高天だろうが、ぶっとばしてやるぜ!」
「国際問題不可避」
既に旅準備もし終えて集結してくれるとは、我が弟子ながらありがたい。
最初はエリアも候補だったが、今回だけはマズイ気がして、今のベストメンバーを選んだ。
弟子の中でも最上位で、私や各々が連携を取れる者達。
それがこの三人だ。
「ルナリア殿、思った以上に早く出発できそうですが、どうでしょう? 可能ならば、すぐにでも行けますが?」
「ありがたい! しかし急な遠出だったので馬車が……」
「それはこちらで用意しましょう。黒の園専用の遠出用の馬車です。すぐに出せますよ」
「すまないクロノ。そういう訳です。すぐに行きましょう。――ここからエルフ族の里にはどれぐらいで?」
「最低でも四日は……」
どうやら時間との勝負の様だな。
私はそれに頷き、クロノ達の方を見ると、彼等も頷いてくれた。
「良し……ならすぐに行くぞ!」
私の言葉に皆、力強く頷いてくれた。
『~~♪』
『グオォォン!!!』
――えっ、エミックはともかくベヒーも来るのかい?
こうしてルナリア達と共に、私・クロノ・ミア・レイ。
そしてエミックと、もう留守番は嫌だとベヒーも行く事が決まった。
そんな感じで私達は、夕暮れ前に王都を発った。
目的地はエルフ族の国――ユグドラシルだ。
 




