表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<15万PV達成>おっさん冒険者+レベル5  作者: 四季山 紅葉
第八章:玲瓏呪域・死霊廻船
68/148

冒険者+5:ダンジョン探索終了

 骸の王を撃破した私達は、その後、ゆっくりと船内の探索を始めた。

 ボス魔物を倒した事で、ゴースト達が大人しくなったのも大きい。 


 だが、やはり宝らしい物はなかった。

 良くて私達よりも先に入ったであろう骸――の持つ錆びた装備ぐらいだ。


 残念ながら、そんな物に興味はない。

 私は墓荒らしじゃないからね。


――だから、事前通りに十六夜のお父さんの亡骸だけを回収した。


 エミリアも、彼女の仲間も埋葬する様に慎重、丁寧に運んでくれて私も、そして十六夜も感謝していたよ。


 そしてエミリアの船内に戻ると、念の為に置かれていた棺へ十六夜と共に納めた。


 これでようやく眠りにつける筈だ。

 ゴースト達の相手は騒がしくて、大変そうだからね。


 こうして私達の幽霊船探索は終わった。

 財宝――は無かったが、少なくとも依頼主の目的は見付かった。


「さぁ、この幽霊船を海へ帰すよ」


 私の言葉に十六夜とエミリア達が頷き、それを確認した後に私は笛を吹いた。

 今度は悲しみを表現する様な曲だ。


 これが船を帰す為の曲。

 それを吹いていると、幽霊船――ダンジョン名:玲瓏呪域・死霊廻船は、ゆっくりと動き出す。


 そして再び、汚れたマナに溢れた海へと消えていった。


♦♦♦♦


 その日の夜は海の上――エミリアの船で宴会だった。

 どうやら、ダンジョン攻略や依頼を終えたら、宴をするのが彼女達の決まりの様だ。


 肉、魚や野菜。足の速い果実も大量に出して、皆で食事や酒を大いに食べて飲んだ。

 

 十六夜は少し圧倒されていたが、見ている限りではしっかりと食事を取れているようだ。


――やはり強いな。きっと、そうじゃないと生き残れなかったからだろうけど、それでも彼女は強い。


 私はそう思いながら、一旦立ち上がった。ちょっと疲れたんだ。

 そして騒がしい会場を後にし、外に出て夜風に当たる事にした。


「ふぅ……宴会が疲れるようになるなんて、やっぱり歳だな」

 

 夜風に当たりながら、月に照らされた海を眺め、私はそんな事を言った時だった。

 後ろからクスクスと、小さな笑い声が聞こえてきた。


「フフッ……まだ、その様な年齢ではないでしょうに。貴方様は、まだまだ現役です」


「十六夜! もう、良いのかい? 食事や……お父さんの事」


「……えぇ、どちらも、もう十分です」


 そう言って彼女は私の隣に立ち、一緒に海を眺め始める。

 元々、彼女は美しい。だから月明かりに照らされると随分と絵になる。


 私もつい見惚れてしまったぐらいだ。


「見惚れていましたか?」


「えっ!? お、おいおい……勘弁してくれ」


 突然、私へ振り向き、十六夜は子供の様に楽しそうな笑みを浮かべた。

 まるで掌の上だな。ちょっと恥ずかしい。


「フフッ……冗談です。――今回は本当にありがとうございました。貴方様達のお陰で、父を見つける事ができました。運良く見つかっても、それは宝石の欠片だけだと思ってましたが……まさか父も見つかるなんて」


「君が何で私に依頼したのか、今なら分かる。確かに、あのダンジョンに付いて行く物好きは私や弟子ぐらいだ。それと腕が立ち、君の信頼を得られた者。――どうやら、私はお眼鏡に叶った様だね」


「人を見る目……それは真っ先に鍛えましたからね。汚いだけの人間、利用できる人間、裏切る人間。そんな者が多くいましたが、貴方様は真っ白に眩しかった」


 不思議な事を言うなぁ。

 36歳にもなったら、自分の好きな事も中々出来ない。


 そんな時間に縛られたおっさんに、そんな事を言ってくれるなんてね。


「それに、貴方様は……この父の形見だけではなく、父も回収する様に言ってくれた。その当然の様な行動で、貴方様の優しさが伝わった」


「冒険者になるとね、遺体も残らない、見つからない事も増える。だから尚更……見つかったなら、連れ戻してあげたかった。私の我儘さ」


「その我儘に私は救われた……ありがとうございます」


 彼女はそう言って頭を下げた。

 そして頭を上げると、ゆっくりと私に近付いて来る。


 なんだろう。何か言いたいのかな?


「一緒に月でも見るかい?」


「……」


 彼女は黙ったままだ。

 私も、もっとマシな言葉がないのかと少し情けなかった。


 私がそんなことを思っていると、十六夜は不意に背中に回って、そのまま抱き着いてきた。


「えっ……えっと、どうしたんだい?」


 この状態は結構危ない思うよ。

 若い女性の――色々がおっさんの背中に当たっている。それは危ない。


 私は石の様に身体が固くなってしまうが、何とか止めようと彼女へ何か言おうとした。


 だがそれよりも先に十六夜の方が口を開いた。


「本来、私がこんな事をすれば……並みの男は、私を押し倒し、服を剥ぎ取って襲い掛かったでしょう。――けれど、貴方様にはそんな雰囲気は感じない。ただただ安心する」


「それは男だからではなく獣だからさ。自身を制御できない……ダンジョンで真っ先死ぬタイプだよ。さて十六夜、そろそろ止め――」


「――《《お慕いしております》》」


「……えっ」


――えっ。今なんて? 聞き違い……するほど難聴ではない。間違いなく聞いたぞ。


「冗談……で言っていい事じゃないよ」


「本当に、冗談で言うと思いますか? 裏ギルドの一角『魔天の桜月(まてんのさくらづき)』ギルド長。――<夜天の女王(アンダークイーン)>と呼ばれた女の言葉。決して冗談は言いません」


 何てことだ。しかし、なんでそうなった。

 俺だって今一彼女の事を良く知らないぞ。


 断るか。いや断る程じゃない。多少の好意はある筈だ。

 じゃあ受けるか。いや受ける程の関係性じゃない。


「えっと……その……なんて言えば良いか……!」


 私は何とか言葉を考えた。何故か、脳裏でフレイちゃんが笑っているのが怖い。

 

 どうしたものか。私は必死で考えていると、やがて十六夜は勝手に離れてくれた。


「答えは、いつでも待っております。ただ、もし断るなら……一つお願いがございます」


「えっと……なんだい?」


「その時はせめて……同じ棺に入れて欲しい。それだけです」


「……」


 彼女はそう言って宴会へと戻っていった。

 私も、十六夜の最後の言葉を聞いて、半端な返事は駄目だと自覚した。


――こうして幽霊船の攻略は終了した。最後に、色々とあったけどな。


♦♦♦♦


 次の日、同じ船着き場で、私と十六夜はエミリアと別れた。 

 彼女に十六夜は報酬を払うと言ったが、エミリアはそれを断った。


「楽しかったから良いさ! その代わり、カジノに行った時にサービスしてくれ!」


 そう言ってエミリアは海へと去っていった。

 私と十六夜に、これでもかと手を振りながら。


 その後、私達は馬車に乗って王都へと戻ると、彼女の部下達が待っていてくれた。

 そして十六夜は、そのまま部下と共に去っていった。部下と共に、私へ一礼しながら。


――因みにだが、私も報酬は断った。


「君から時間を貰ったんだ。なのに、それ以上に要求するのは贅沢さ」


 そう言うと十六夜は最初は分かってなかったが、最後は理解したのだろう。

 顔を真っ赤にして、小走りで去ってしまう。


『~~♪』


 そんな私達を見て、エミックだけが笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ