冒険者+5:対決 骸の王
あれから私は十六夜を気遣いながら、何とか甲板へ上っていた。
だがハッキリ言って、この船は大きすぎるし広すぎる。
十六夜は調子は戻った――風に見せてはいるが、やはり本調子じゃない。
当然だ。実の父の亡骸をみつけたんだ。
それ以外にも因縁みたいのもあるし、きっと私が知らないだけで、かなり深い話があるんだろう。
けれど、それでも急がなければ。
エミックがいるとはいえ、エミリア達だけに押し付けるには『骸の王』は、多分面倒な相手だ。
特に、あの再生能力が脅威だ。
だが長年の経験で弱点は想像がついたぞ。
きっと本体に繋がっていた骸の山――あそこに何かある筈だ。
そもそも、核があの身体に無いから再生するんだと思う。
私は甲板に戻れば、すぐに戦闘になると思いながらも、十六夜を支えながら、やがて壮絶な音を鳴らす扉の前までやって来た。
「着いた……この先が甲板だ。十六夜……大丈夫かい?」
「……はい。お見苦しい所を見せましたね」
「何を言っているんだ! お父さんの亡骸を見て、形見を見つけたんだ……見苦しい筈がある訳ないだろ?」
「……ダンジョンマスター様」
十六夜は少し意外そうに、けれど嬉しそうな表情を私に見せてくれた。
こんな職業だから、仲間の死は日常茶飯事な所がある。
だから気持ちは分かるつもりだ。
そして同時に、前を向かなければいけない厳しさも。
「……行けるか?」
「えぇ……参りましょう!」
十六夜は涙で化粧が崩れていたが、それでも力強く頷いた。
それを見て私も頷くと、蹴破るように扉を開け、甲板に出た。
「エミリア! エミック! 無事か!」
「おぉ! 先生! 裏ギルド長さん! 無事だったのかい! こっちは見ての――通りさ!!」
『~~♪』
『ウオォォォン!!』
私が甲板に出ると、そこでは未だにエミリア達が骸の王と戦いを繰り広げていた。
彼女は炎や爆弾を使い、骸の王を攻撃している。
また彼女の船からも、船員達が援護しており、それを食らって骸の王は身体が砕けるが、またすぐに再生していた。
「先生! やっぱりキリがないね! どうする!?」
「エミリア! あの骸の山の方を狙え! きっと身体の方には核がない! 狙うのは元となる骸の山だ!」
私はそう言って爆破するナイフを骸の山へ投げた。
すると骸の王は、間一髪、骨のカトラスでその攻撃を防いで見せた。
「やっぱりな……大事な部分らしい」
「えぇ、分かりやすい相手です……!」
「なんだ……それが分かってたら簡単だったじゃないか! だったら一気にやらせてもらうよ!――第一スキル『個人艦船』! ヒャッホー!」
相手の弱点が分かった途端、エミリアはスキルを発動した。
そして魔力の波を作り、自身の両足に小さな船を出現させると、上空へと上がり、一気に大砲や銃で骸の王を攻撃していく。
「身体はあたしがやるさ! だから先生達は本体を!」
「分かった! 気を付けろよエミリア!――さぁ行こう、十六夜! アイツを倒して、お父さんのご遺体を連れて帰ろう!」
「!……はい! お願い致します、ダンジョンマスター――いえ、《《ルイス様》》!」
私の言葉に、十六夜は満面の笑みを浮かべてくれた。
初めて見る気がするな。挑発する様な笑顔じゃなく、彼女の人間としての笑顔を見るのは。
だが、彼女からは覇気を感じる。
ならば、もう大丈夫だ。
「良し――行くぞ!」
私の言葉と同時に、私と十六夜は一気に走る。
その先にいるのは骸の王の本体――骸の山。
その狙いに奴も気付いたのだろう。
エミリアの相手で忙しいから、奴は骸兵を召喚して骸の山を守らせ始める。
だがその程度では、私達は止まらないぞ。
「エミリア! 暗器を――!」
「えぇ! 分かりました!」
私の言葉に彼女は全て察してくれた様だ。
私の真上に、自身の暗器を大量に投げてくれた。
「よし! 第三スキル『道具合成』――爆裂石!」
道具袋から強力な爆発をする石を出し、私は上空へと投げて暗器と合成した。
そして合成した直後、十六夜は私の肩に足を乗せ、一気に身体を捻りながら跳んだ。
そのまま暗器を空中で全て掴むと、彼女は骸兵達へ一斉に放った。
そして暗器は骸兵に刺さった瞬間、爆発して木端微塵となる。
だが彼女の攻撃は終わらず、余った暗器で骸の山へも投擲すると、骸の山は大きく爆発する。
――すると、その中から核――汚れたマナの結晶が姿を見せる。
「あれだ! あれが本体だ!――ならば! グラビウス――魔法刃・冥王!」
私はガントレットブレードへ、重力魔法と闇魔法を纏わせ、一気に核へと走った。
無論、相手も馬鹿じゃない。核を隠そうと骸が群がっていくが、もう遅い。
私は金色の瞳――力量の瞳を開眼し、その場所を完全に捉えた。
――捉えた。絶対に外さない!
私は両足に魔力を込め、一気に加速して前方へ跳んだ。
そして一気に両腕のブレードを振り落とす。
「閻魔・獄門刃!!」
ブレードを振り落とし、核へ叩き込んだ瞬間、核は木端微塵に砕け散った。
それと同時に、周囲の嫌な空気が消え、骸の王の身体が徐々に崩壊を始める。
『ウオォ……ォォ……ォン……!』
最後は文字通り、消えそうな声と共に骸の王は消えていった。
「良し! これで安全は確保できたぞ!」
「みたいだね! けど……本当に財宝はあるのかい? 海賊の勘だけど、どうも宝の匂いがしないんだよ」
エミリアはそう言いながら降りてくると、辺りを見ながらそう言った。
確かに宝――ではないな。けど、大切なものがある。
「実は連れて行ってあげる人がいるんだ。そうだろ、十六夜?」
「っ! はい……はい! お願い致します!」
安心したのか、再び彼女は涙を流し始めた。
それを見てエミリアは不思議そうだったが、私が事情を説明すると、十六夜以上にエミリアは泣いて納得してくれた。
さて、ご遺体を運んで終わりかな。
――ってこら! エミック! 十六夜のお尻を舐めるな!? 泣いている女性に付け込むの最低だぞ!




