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<15万PV達成>おっさん冒険者+レベル5  作者: 四季山 紅葉
第八章:玲瓏呪域・死霊廻船
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冒険者+5:十六夜の目的

 私は、十六夜と共に幽霊船の中を落下している。

 だがこのまま床に激突なんて御免だ。


 私は床が見えた所で、グラビウスの力を解放した。


「グラビウス――!」


 私の声と共に、地面に重力の領域が生まれる。

 そこに入った瞬間、私達の身体はゆっくりと落下し、やがて無事に着地した。


 そして私はすぐに十六夜の無事を確認する。


「無事かい?」


「え、えぇ……申し訳ありません。ダンジョンマスター様は、色んな魔法が使えるのですね」


 十六夜は乱れた服を、恥ずかしそうに整えながら頷いてくれた。

 あまり女性の身体を見るのは失礼だが、確かに怪我らしいものはなかった。


「これらは戦利品さ。だが随分と助けられているよ。――しかし随分と落ちたが、急がねばな。きっとエミリアとエミックがまだ戦っている筈だ」


 それを証明するかのように時折だが船が揺れ、激しい音が上から聞こえてきていた。

 

 エミックもいるから大丈夫だと思うが、急ぐに越したことはない。

 私は十六夜にも急ぐように伝えようと、身支度を整えた彼女の方を向いた。


 すると、彼女は何かを探すようにキョロキョロと船内を見ていた。

 

――そう言えば船に入ってから、口数が更に少ない気がしたが、目的の宝石を探しているのか?


「宝石を探しているのかい?」


「えっ……えぇ。ですが、そう簡単に見つかりませんね」


「どんな宝石なんだい? 噂だけとはいえ、どんな物かは分かってる筈だ。教えてくれれば、私も探すのを手伝え――」


「――知らないのです。どんな物かなんて」


「えっ!?」


 私は驚くしかなかった。

 いや普通は多少の噂でも、どんな物かぐらいは分かる筈だ。


 だが彼女が嘘を言っている様に見えないし、表情も深刻そうに何とも言えない悲しそうな顔をしている。


 何より、なんだろう。あの顔は。

 寂しそうな、けれどどこか怒りがあるような。


 少なくとも、何かを企んでいる顔じゃない。

 まぁ騙されたら、その時はその時だ。


「なら仕方ない……ただ探すのは後だ。早く上に戻らないと」


「えぇ、それは賛成です。どの道、こんなにゴーストが多くいると落ち着いて探せませんから」


 十六夜も私に賛成してくれるようだ。

 それなら安心して動ける。依頼人との意思疎通、これは大事だからね。


 私はそう思いながら、近くに上り階段を見つけた。

 

「あそこから行けそうだな……」


 私はそう思って階段を上り、その扉を開けた。

――瞬間、衣服を纏った人骨が扉の向こうから転がってきて、私は驚いた。


「うわっ!――ってなんだゴーストじゃない。ただの人骨か」


 それはただの人骨だった。でも本当に驚いたよ。

 全く心臓に悪い。そう思いながら、私は骸を少しどかした時だった。


――骸の手から、光輝く宝石の欠片が出てきたんだ。


「それは……!」


「なんだ、宝石……の欠片か?」


 それは、宝石と言うには情けない石っころの様な欠片だった。

 恐らくはルビーだと思うが、小さい欠片である以上、それすらも分からないな。


「……どうやら目的の宝石じゃなさそうだ。それでも拾っておこ――」


「――あぁ……! 《《それです》》。恐らくは……!」


「えっ!?」 


 うそだろ。こんなちっぽけな宝石の欠片が目的の品とは。

 だが、あまりに割に合っていないと思うが。


 それにそうなると疑問が増えたぞ。

 この骸の正体だ。


「この骸は何なんだ……?」


 私はそう言いながら何か、骸の身分が分かるものがないか探したが、やはり衣服はボロボロだ。


 それでも何かないかと、私は骸を思い切ってひっくり返してみた。

 すると、その背中には大きく<月と桜>のギルド紋らしき物が描かれていた。


「なんだこの模様……月と桜?」


「あぁ! それは……『魔天の桜月(まてんのさくらづき)』のギルド紋!」


 十六夜の叫びの様な声。その内容に私は驚いた。

 その名は確か、彼女のギルドの名前だからだ。


「どういう事だ……何故、君の所のギルド員が?」


 何か繋がりがあるとしか思えない。

 彼女が探し物をしていたダンジョンに、都合よく彼女のギルドの者がいるとは普通はない。


 だが、私の言葉が聞こえていないのか、十六夜はゆっくりと骸の下に歩いて来て、やがて膝を付いた。


 そして、その骸の手を掴むと静かに言った。


「……《《お父さん》》」


「……えぇ!?」


 私は言葉を呑み込むことも出来ず、思わず言葉が出てしまった。

 普通に驚いた。こんな事って、っていうか良く分かるな。


「何故……そんな事が?」


「……昔話をしましょう。嘗て、一人娘を持った男がいました。その男は俗に言う、裏ギルドに属していました――」


 そこから彼女は語り部の様に話していった。


 男は裏ギルドで出世した事。しかし最中、男の娘が病気になった事。

 そして治療の為に、ギルドのお金に手を付け、それがバレてしまった事。


 娘の治療は終わり、病は消えた。

 だがケジメを付ける為、男は上からの命令で幽霊船のお宝を探しに行くように命令された事。


 その手に、男の御守りである<宝石の欠片>を持ったまま。


「……そして時が経ち、男の娘はギルドが宝目当てではなく、男をケジメとして殺す為にダンジョン船に向かわせた事を知りました」


 そこから更に十六夜は語った。

 その娘は仇――否、気付けば動いていたと言った。


 元のギルド長、幹部、関係者を暗殺、謀殺し、気付けば長になっていたと。


「それが……君なのかい? そんなの辛すぎる」


「……独り言です。ただの愚か者の……愚か者の……小娘の……」


 私が気付いた時には、十六夜の瞳から涙が流れていた。

 そして彼女の父の形見――小さな宝石の欠片を握ったまま、泣き続けている。


 そんな彼女を見て、私も何かしてやりたいが、私は36歳のおっさんだ。 

 気の利いた言葉は言えない。だからハンカチと、丈夫な道具袋を渡してあげた。


「今の私にはこれぐらいしか出来ないが……受け取ってくれ」


「……申し訳……ございません……!」


 彼女は謝りながら、ハンカチと道具袋を受け取ってくれた。

 けれど感情のせいで、思うように動けない様だ。


 ハンカチだけ握り締めながら、涙を拭くも、道具袋は落としてしまっていた。


 そんな彼女を見て、私は咄嗟に宝石の欠片を受け取って道具袋に入れてあげた。

 そして再び、彼女へ渡して、十六夜もそれを受け取った。 


「馬鹿な人……分かってた筈なのに……!」 


「父親なら……当然だよ。大切な娘の為ならば、駄目だと分かっていてもやってしまうんだろう。――私には家庭はないが、もしいたら同じ事をするかもしれない」


 私は感情移入しながら、気付けばそう言っていた。

 娘がいたら――同じ立場なら、私も同じ事をしてでも救いたいと思う。


 そう思っていると、船が再び大きく揺れた。

 そして爆発音も聞こえ、船上で壮絶な戦いが起こっていると分かった。


「まずい、急がないと……! 立てるか?」


「……はい」

 

 私は彼女の肩を抱きながら、何とか一緒に立った。

 そして可能な限り、急いで上へと戻っていった。

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