冒険者+5:海へ
「さて……準備は、こんなもので良いか。久し振りの海のダンジョンだ」
あの騒動から三日後、私は今、王都の拠点でダンジョン攻略の準備をしていた。
十六夜からの依頼――危険度9:玲瓏呪域・死霊廻船への同行だ。
当然ながらベヒーは連れいけないから、クロノ達に世話を頼んだ。
だから今回もエミックと共に出発だ。
少し寂しそうな瞳で見てくるベヒーだが、流石に海上は駄目だ。
今回はそこまで遠出じゃないが、場所が場所なんだ。
あとゴースト系の魔物もいるだろうし、エルフ族のせいすい等、聖なる道具も忘れない様にしないと。
危険度9のダンジョンだ。念には念を入れないとな。
必要な物はスキルで合成したし、エミックにしまってもらった。
これで準備は完了だ。
「よし、行くか……!」
私はそう呟いて拠点の扉を開けると、そこには二人の女性が待っていてくれた。
「お待ちしておりました。ダンジョンマスター様」
一人は当然、十六夜だ。
彼女は相変わらず露出の多い和服姿だ。
だが今回は旅だからと、道具入れを始め、所々に装備の収納する袋を装備していた。
そんな彼女へ私は信頼構築の為、手を差し出した。
「宜しく頼むよ十六夜」
「こちらこそ、宜しくお願い致します」
そう言って十六夜は優しい笑みで私と握手をするが、私自身、本音を言えば少し彼女が苦手だ。
どうも本心を隠している感が強くて、今一信用できないから怖いな。
まぁ裏ギルドとはいえ、そこまで悪い人間でもないと思うが。
「おや先生。あたしには挨拶はなしかい?」
「そんな訳ないだろ。今回はありがとう。頼むよ、エミリア」
そして、もう一人――私の弟子。
プラチナ級ギルド『蒼海の水龍』女海賊ギルド船長――エミリア・シードランだ。
海のダンジョンと聞いて、真っ先に頼もうと決めていたぐらい、それだけ彼女は海に強い。
「しかし先生も相変わらずだね。無茶な依頼ばっかりだ」
私もそう思うよ。
レベル5上がるだけのスキルで、よくここまでやって来たものだ。
「すまない。だが海に関しては頼れるのがエミリアだけなんだ……頼めないか?」
「断るなら最初から来てないさ! 任せな! あたしだって、先生と危険度10ダンジョンに潜って生き残ってんだ。危険度9の幽霊船なんて余裕だよ!」
エミリアはそういって満面の笑みを見せてくれる。
本当に頼りになるよ。
「では、そろそろ……馬車はこちらで用意させて頂いておりますので」
「分かった。じゃあ行こうか」
私はそう言って彼女らと共に、十六夜の用意した馬車に乗って海へと向かうのだった。
♦♦♦♦
馬車に乗って海へ向かう道中、私は十六夜へ気になる事を聞いてみた。
「十六夜……同行者として聞きたい。今回のダンジョンへの目的は何なんだい? あそこは特に、これといった素材はない筈だ」
「……目的は素材ではございません。宝……《《宝石》》です。とある筋から、そのダンジョンに宝があると聞きましたので」
「おいおい宝って……確かに聞くけどね。でも確証もない話だし、幾らなんでもそんな理由で危険度9のダンジョンに行くのは自殺行為さ」
エミリアの言葉に、私も頷いた。
確かにこの手のダンジョンには宝があると聞くが、所詮は噂程度の話だ。
何より、彼女の立場としてもおかしい。
「それに君は裏ギルドの長の一人じゃないか。私に依頼だけならともかく、君が同行する理由はないと思うが?」
「それでも……私じゃないと駄目なのです。私じゃないと……!」
そう言う十六夜の表情には覚悟が宿っていた。
こうなった人間は聞かないなと、私はエミリアの方を見ると彼女も同じ様な考えなのか頷いていた。
――しかし宝石か。どうも理由が弱いなぁ。
冒険者として感覚がズレている自覚もある。
だがそれにしても弱い。
色々と集中するしかないか。
私だって何回も行ったダンジョンじゃないし、だから念入りに準備もしてきた。
あとの不安材料は、やはり十六夜――彼女だな。
悪いことを考えているとも思えないが、取り敢えずは気を配るか。
私は警戒――とまでは言わないが、彼女に意識を向けながら海へと向かうのだった。
♦♦♦♦
王都から半日、海へ辿り着いた私達。
そこは港町ではなく、海で活動する者達が船を一時的に置く場所だ。
そして、そこからはエミリアが仕切ってくれた。
「さぁこっちだよ、お二人さん! あたしの所の海賊船なら幽霊船だろうが追いつくよ」
事前にここに待機する様に動いてくれたと、エミリアからは事前に聞いている。
船があるのは本当に助かるよ。
人によっては、場所を聞いたら嫌だと言って出してくれない人もいるからね。
「さぁこれだよ! これがあたしのエミリア・リヴァイア号だ!」
「おぉ……凄いな! まさかガリオン船か!?」
そこにあったのは巨大な船だった。
帆には彼女のギルドのマークが刻まれていて、それ以外も箔が付くためか豪華な装飾が多い。
「これは大したものですね」
これには流石の十六夜も驚いた様子だ。
実際、これだけの船を動かせる人員もいるって事だからね。
エミリア――最低限の物だけ持って私の下を去ったのに、数年でこれとは本当に誇りだよ。
「ふふん! 凄いだろ! さぁ速く乗りな! 乗組員にも紹介しないと」
既に話は通していたのだろう。
船からこちらを見下ろしながら手を振っている人達がいる。
「元気な人達が多いな」
「あぁ、あたしの自慢の仲間さ。まぁ話は事前に通してるから、すぐに出発できるよ」
「本当に助かるよエミリア……それにこんな船まで。本当に自慢の弟子だよ」
「や、やめてくれよ先生!? 恥ずかしいって……この船だって先生からの仕送りのお陰で手に入ったんだ。こっちこそ本当に助かってるよ」
そう言ってエミリアは、顔を赤くして照れた表情を見せた。
昔からそうだったな。照れ屋だったエミリアが、今はこんな一大ギルドを作るなんて感傷深いよ。
それに仕送りって多分、私が送っていたダンジョンや魔物の素材だな。
それが助けになったなら私だって嬉しいさ。
「本当に立派になって……」
「も、もうそう言うのは良いからさ! 良いから乗ってくれよ! とっとと出航するよ!」
照れたエミリアに押される様に私達は彼女の船へ入ると、彼女の仲間たちに歓迎された。
そして、彼女の指揮の下、私達は目的のダンジョンの海域へと向かうのだった。




