五大ギルド登場
あの壮絶な休日から二日後、私はクロノに会う為、『黒の園』に来ていた。
そして執務室で二人で、簡単に話をしていた。
「全く、あんな依頼を受けるなんて……勘弁してくれよ」
「も、申し訳ありません……フレイさんの迫力もそうですが、ミアを始め何人かもやる気だったのに抑えられず」
クロノはそう言って困った表情を浮かべていた。
まぁそこまで責める理由はないさ。
エリアとフレイちゃん。美人二人とデートで来たんだから、男としても最高の時間だった。
「まぁ、困りはしたが嬉しかったのもあるし……この話は良いさ。――ところで、ほら、依頼品の『蒼月華』だ。渡そうと思っていたら、留守だったからな」
「ありがとうございます……おぉ! 流石は師匠ですね。本物の『蒼月華』だ」
今回の目的はこれだ。
唯一、まだ『蒼月華』を渡していなかったクロノに渡す為に来ていた。
「さぁて、これで依頼された『蒼月華』は全て渡したなと。後の余り分はチユさんに渡したり、必要な人に渡すかな」
「アハハ……贅沢な悩みですね。師匠らしい」
「おいおい、どういう意味だ!」
私達はそんな事を言いながら笑い合い、お茶を楽しんだ。
――時であった。
「ギルド長! 大変です! 《《五大ギルド》》の『白帝の聖界天』が!」
勢いよく扉を開けて、クロノのギルドの受付嬢が飛び込んできた。
って、おいおい。五大ギルドの名が出るなんて何事だ。
私とクロノも、思わず立ち上がってしまった。
「落ち着け! どうした! 彼等が来たのか!」
クロノの問いに彼女は震えながら頷いたが、同時に目線を私へ向けていた。
「は、はい! そ、それで……ルイス様に会わせろと――」
「おっと! それ以上は俺達が言うよ。カワイ子ちゃん?」
「きゃっ!」
背後からの声に彼女は飛び上がり、猛ダッシュでクロノの後ろに逃げて来た。
そして私とクロノが身構えながら扉の方を見ると、そこから銀髪の若い男と、彼のガードらしき冒険者達がいた。
また、入った来た彼等の服や身体には<天を駆ける一角獣>の、刺繡や刺青が入っていた。
それこそが五大ギルドと呼ばれる、ギルド界の五つの王の一角――『白帝の聖界天』の証。
「なんで『白帝の聖界天』がここに……!」
「いや下がってろクロノ。どうやら目的は、私の様だ。――何の御用ですか?」
私からの言葉に、先頭に立つ銀髪の男は嫌な笑みを浮かべながら、口を開いた。
「話が早くて助かるぜダンジョンマスターよ……俺の名前はゼン・ホワイトホース。五大ギルドの一つ『白帝の聖界天』のギルド長をしているぜ」
「五大ギルドの長だと! しかし、聞いていたよりも若すぎる!?」
「落ち着けクロノ。あそこのギルドは代変わりしたんだ。ただ不思議と、大々的に知らせてなかったから、知らない冒険者も多い」
私も飲みの席でジャックに教えてもらって知ったぐらいだ。
だが、あの偉大なギルドの新たな長が、こんな貫録もなく、明らかにチンピラみたいな青年とはね。
――五大ギルドも落ちたものだ。
「おいおい! オッサン! 人の言葉を奪うなよ!――全く、俺が言いたかったのによ。まぁ良いぜ。さっきも名乗ったが、俺様はゼン! 先代の息子にして初代の孫だ。まぁ覚えとけよ」
随分と器の小さそうな長だな。
まだ背後のガード達の方が貫録や、威厳があるよ。
きっと歴戦の冒険者なんだろうな。クロノは疎か、私にすら警戒心を出しているよ。
良い腕の冒険者達の様だが、頭が弱くなるとは哀れだな。
「それで、そちらは何故ここに。師匠に何の様ですか?」
相手が相手なだけに、クロノも追い返す事はせずに目的を知ろうとしているな。
確かに、裏ギルドならばともかく、五大ギルドに何かした記憶はない。
一体、私に何の用だ?
私とクロノは構えを解かないで聞いてみると、ゼンと言った青年が指で示したのはデスクの上の『蒼月華』だった。
「そいつだよ。いやな、俺らの所の冒険者達も採取に向かわせたんだが、一人も帰って来なくてよぉ」
「……師匠、雪原やツンドラマウンテンで彼等を見たんですか?」
「いや見てない。いたとしても便乗者やハイエナだ。それ以外は遺体しか見ていない」
「そう! それだよ! それが問題だ!」
何を言っているんだコイツは?
ゼンは、待っていたと言わんばかりに手を叩きだした。
「うちは五大ギルドの最高の冒険者しかいねぇ! なのに戻って来ないのはおかしいだろ! つまりはよぉ、誰かがアイツ等を襲って、蒼月華を《《奪った》》んじゃねぇのかって話だ」
「そう言う事か……」
私はようやく彼等の目的が分かった。
目的は『蒼月華』だ。実際、冒険者を送ったかも知れないが、戻って来ていない以上は『蒼月華』を確保できていない。
ならば権力のある連中がする事は一つか。
「難癖を言って、私から『蒼月華』を奪う気か」
「貴様! なんてことを! 師匠がそんな事をするか!」
「うわぁ!」
クロノが怒りでスキルを発動して臨戦態勢を取った瞬間、ゼンは情けない声を出して腰を付いた。
そんな彼を守ろうと、後ろのガード達も武器を構えて前に出て来た。
そうされると、こちらも対応せねばな。
私も無言でガントレットのブレードを展開し、いつでも動ける様に更に身構えた。
「くっ! お前等! 俺が誰か分かってねぇのか! 《《五大ギルド》》だぞ! 五大ギルドに手を出せばどうなるか分かってんのか!!」
腰が抜けたままで良く言えるものだ。
「知っているよ。今のギルドという形を作り、世に冒険者としての信用を作った偉大な存在。そんな絶対の五大ギルドに刃を向ければ、ギルドとしても、冒険者としても、その世界で村八分になるのもね」
「だったら……どうなるか分かってんだろうなぁ!」
ゼンは何とか立ち上がると、ガードから剣を奪って私へ振り上げて来た。
なんて呆れた男だ。反撃する気にもなれないぞ。
私はただ片手を上げるだけで、ゼンの攻撃をブレードで受けた。
「なっ! このおやじぃ……どこに力が――」
「これは助言だよ。君には長の器がない」
私はそう言ってブレードを魔剣ニブルヘイムへと変化させると、その刀身から相手の剣、そしてゼンの腕を氷漬けにした。
「うっうわぁぁぁぁぁ!! お、俺の腕が!」
「早く溶かせば大丈夫だよ。――それと先代達に伝えろ。私は《《今も変わってない》》よと」
「うっ! 親父達の知り合い……!――チッ! 早く行くぞ! 早く溶かせ!」
そう言ってゼンは部屋から出て行った。
ガード達も、私が先代達と顔見知りと悟ってか、ガードの職務を放棄してゼンを連れて黒の園から出て行った。
「師匠……大丈夫ですか?」
「何かあれば、すぐに私を売れクロノ。他の者達にも、そう伝えろ」
私は嫌な予感がし、クロノへ万が一の時の事を伝えて、その場を後にした。
きっとまた何かして来る筈だ。念の為、備えをしなければ。
そう思いながら、私は今日はもう拠点へ戻る事にするのだった。




