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<15万PV達成>おっさん冒険者+レベル5  作者: 四季山 紅葉
第一章:その冒険者+level5
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冒険者+5:依頼を受ける

「これは……王国内から集められた精鋭のみの騎士団。その副団長と言えば<黄昏のエリア>殿では? あなたの神速の剣技は、辺境にも届いておりますよ」


「そんな畏まらないで下さい。今の我々は、ただの依頼人です。下手な特別扱いは無用です」


 あのギルド長相手に、凛とした態度を崩さないとは。

 

 彼女、お飾りじゃないな。

 本当に修羅場を潜っている者の佇まいだ。  


 流石は王国――<アスカル王国>の王に仕える騎士だ。

 場合によっては、生涯で会う事もないまま終わる程の相手だな。


 だからこそ分からない。


 彼女程の騎士が、何故こんな辺境に来ている?


「依頼ならお聞きしますが、何故わざわざ辺境へ? 王都ならば<オリハルコン級>や<プラチナ級>の冒険者ギルドがいるはず。そちらへ頼む方が確実だ」


「貴様等にそこまで説明してやる理由はない。こちらも時間がないのだ。とっとと依頼を聞け!」


 エリア殿の隣に青年騎士が前に出て、そんな事を言う。

 そんな噛みつくようにギルド長へ言うが、それはいけない。


 ギルドを便利屋と思っている様だが、ギルドはそんな都合の良い存在じゃない。

 

「お連れ様はギルドの何たるかを知らないと見える。ギルドは便利屋ではありませんよ? 確かな信頼関係がなければ成り立たない。故に、今の私から言えることは一つ――お引き取りを」


「なっ! 貴様! 我々を王国騎士と知っての態度か!!」


 あぁこれはいけない。

 彼はギルド長の言葉に怒り、今にも剣を抜く――いや手に取ったか。 

 

 大人しくするつもりだったが、そうもいかないな。

 私は素早く彼に近付き、彼の腕を掴んだ。


「そこまでだ。それ以上は一線を越えるよ」


「なっ、なんだお前は! いつの間に……! それに、その《《金色の瞳》》は――」


 あぁ、つい興奮して<第二スキル>が発動のままになってたか。

 今の私は普段の青い瞳から、金色に輝く瞳に変わっているはずだ。


 側にいたエリア殿も私の瞳が気になるのか、瞳を興味深そうに覗いている。


「失礼、魔眼の類だろうか……?」


「そんな大層なものではありません。これが私の第二スキルで『力量の瞳(りきりょうのひとみ)』と呼びます。魔眼のような力はなく、他者のレベルや強さを視るだけの瞳です」


「フム、成程……しかし金色の瞳か。それに朱色の長髪……」


 エリア殿が何か考え込んでいるが、どうしたのだろう。

 私の目と髪を見ている。白髪でも増えたかな?


 だが警戒という訳でもない。

 剣を抜くような気配もなく、敵意はないと思うが。


「ええぇ! いつまで掴んでいる! 邪魔をするなら貴様から――むっ!?」


 騎士が私を振り払おうとしたが、それは叶わない。


 彼自身が剣から手を離さすまで、私も手の力を緩める気はないからだ。


 本来ならば上手くいかないだろう。彼のレベルは<31>だ。


 私とのレベル差は3。

 全力で抗えば外す事ぐらいは出来るだろうが、もう既に私の第一の固有スキルが発動している。

 

――今の私のレベルは<48+5> つまりレベル<53>だ。 


 これが私――ルイス・ムーリミットのスキルだ。


 私の戦闘範囲。

 その中で最も高いレベルに+5された数値が私のレベルとするスキル。


――それが『+level5プラスレベルファイブ』の効果だ。


 まぁ本当は、もっと対象を絞れたりするが、これだけの手練れがいるなら関係ない。


 今は、この中で最も強いエリア殿のレベル+5が私のレベルだ。

  

 私よりもレベルの低い相手だけなら発動しないが、今のレベル差では彼も、どうしようもないはずだ。


「なっ――くっ! くそっ! 馬鹿な! 俺は騎士だ! 選ばれた騎士だぞ!」


「それでも抜こうとするのかい? なら仕方ない……少し力を込めるよ」


 そう言って私は、レベルアップで強化された手に力を込め、彼の腕を強く握り絞める。


「ぐわぁぁぁ!!!」


 肉と骨が軋み、ようやく彼も自身の手から剣を手放した。

 それと同時に私は手を放すが、しまった、やり過ぎたか。


 凄く痛がってるな。

 だが相手が剣を抜いてしまえば一線を越える。


 ギルドと騎士で、ぶつかる可能性がある。


 だが私が、力で解決したのはいけない事だったな。

 何かあったら、私の責任で罪を償わせてもらう。


「くっ……ぐぅ……!! よくも……よくも王国騎士にぃ!」


 あぁ、凄い苦痛の表情で睨んでくる。君も悪いが、やはり大人げなかったか。 ――って、また剣に手を掛けようとして。

 

 ギルド長も絶対に気付いている。

 あの悪い顔。きっとそれを理由にして依頼を断る気だ。


「許さん!!」


「――そこまでにしろ。それ以上は私が許さん」


「っ!」


――瞬間、エリア殿の言葉で周囲の空気が変わった。

 眼つきも鋭く、氷の様だ。

 

 重く、凄まじい威圧感。

 咄嗟にフレイちゃんを、私の背後へ庇ってよかった。

 

 冒険者仲間達も汗を隠せてないし、ギルド長ですら眼つきが変わってる。

 

 他の騎士達からも、息を呑む音が聞こえたが、一番可哀想なのは最初に仕掛けた彼だ。


「……あっ……あぁ……」


 彼女の威圧を、真っ正面から受けたからだ。

 彼は滝の様に汗を流し、その場から動けない様だ


「部下の無礼、大変失礼しました。謝罪致しますので、どうかお話を聞いて頂きたい」


 そう言ってエリア殿の表情が笑みへと変わり、威圧感も消える。

 

 そして問題を起こした彼も、ようやく立ち上がったが、恐怖からか何も言えなくなっていた。


 やはり王国騎士だ。身内になんと厳しいのだろう。

 だが助かった。これで本題が聞ける筈だ。


「まっ、副団長様からの直接の謝罪を無下にはできません。依頼内容だけでもお聞きしましょう」


「感謝するギルド長殿。――単刀直入に言いましょう。ある《《薬草》》が欲しいのです。この地域でしか採れない希少な薬草だと聞きました」


「それは……!」


 彼女の依頼内容にギルド内がざわついた。 

 

 私だってそんな気分になる。

 彼女が言っている依頼品は、それだけの物だ。


 この辺境で、そんなピンポイントな薬草。

 それは一つしかない。


「採取難易度7――霊草『(みどり)の夢』か」


「やはり……知っているのですか!」


 彼女が喰い付いたように反応している。

 それだけ必要な物なのだろう。


 実際、目的が翠の夢ならこの辺境――<グリーンスノー>に来たのは正解だ。

 

 『翠の夢』は間違いなく、この辺境エリアのダンジョンに存在する。

――採れるかどうかは別として。


「霊薬にもなると言われた伝説の薬草『翠の夢』――それは、確かにこの辺境にあるダンジョンに存在する。嘗て、このギルドでも採取した事もある」


「ならば!」


「――しかし! それは念入りに、万全に準備してようやく取りに行けるものなんだ」


「アンタ等もルイスの話を聞いたろ! 翠の夢は10段階の採取難易度の中で難易度7! 辺境ダンジョンだからと安易に行けば死ぬだけだ!」


 私の言葉に続くように、冒険者仲間からも言葉が続く。

 

 だがこれが常識だ。意地悪とかじゃない。

 あのダンジョンに迂闊に入るなと、真っ先に教えるぐらいに危険度が高いんだ。

 

「そのダンジョン魔物のレベル・アベレージは『28』です。ボスクラスになればそれ以上、嘗てはレベル『50』の魔物が確認された事もある。しかもダンジョンの環境も植物型魔物の巣であり、油断は即、死を意味をすると思った方が良い」


「レベル50の魔物……!」


「馬鹿な……こんな辺境のダンジョンでそんな!」


 私の話に騎士達も、動揺を隠せない様子だ。


 少し辺境と思って甘く見ていたのだろう。


 嘗ては、炎系を得意とした魔術師や、対策した道具等を持って制覇したダンジョンだ。


 唯でさえ地の利がない彼等では間違いなく死ぬ。

 精鋭だろうが、ダンジョンでは関係ないんだよ。


「……そのダンジョンの名は?」


「危険度7――『幻殺樹海(げんさつじゅかい)・ドクリスの森』だ」


「もし……依頼をすれば採って来て頂けるのか?」


「……準備に、最低でも4日はいる」


 ギルド長の言葉に私も静かに頷いた。あくまで最低でだ。

 もし道具がなければもっと掛かる。


 今留守にしている冒険者にも戻って来てもらい、更にメンバーの編成も必要だ。


 まぁ流石にエリア殿達も、甘くは思ってなかった筈だ。

 それぐらいは覚悟――


「それでは遅すぎます!!」


 駄目だったようだ。

 想像以上に、過剰に反応してる。


 あんなに冷静な感じだったのに何故?

 そこまで必要って事は訳ありなのか。


「もう少し早く出来ませんか! 準備だけで4日では……!」


「申し訳ありませんが、これが最短です。ギルドとしても依頼は大事に扱いますが、それ以上にギルド員の命も大事に扱います。死ぬと分かって、仲間を強行させる事はできません!」


 フレイちゃんも、流石に口を挟さまざる得なかった様だ。


 彼女は本当に優しく、正しいギルドの受付嬢だ。

 死ぬと分かっての依頼は絶対にさせないし、不正を感じる依頼にも敏感だ。


「しかし! しかしそれでは……間に合わない。()()()()()……!」


「騎士団長……?」


 今にも泣きそうになる彼女の言葉に私は、ある予感が過った。

 冷静になれば簡単だ。薬草が欲しいって事は、使う人がいるんだ。

 

 背に腹は代えられない程の存在。

 だから彼等は、王都を離れてまで辺境に来たんだな。


「詳しく聞かせて貰えませんか?」


「ルイスさん!?」


「おいルイス! まさか受ける気じゃないだろうな! いくらお前でも――」


「話を聞いてからです。彼女達はまだ話していない事がある。それを聞かず断るだけなら簡単です」


 きっと何かがある。長年冒険者をやっていた勘だけど。 

 でもそうじゃなきゃ、こんな凛とした女の子が泣きそうになるなんて事はない筈だ。

 

 それに私の気持ちが伝わったのだろう。エリア殿は静かに頷いていた。


「実は……我が王国騎士団の団長が、暗殺ギルドから子供を庇い、毒を受けてしまったのです」


「ハァッ!? 暗殺ギルドだと!」


「なんでそんな奴等と……!」


 確かに暗殺ギルドなんて、よっぽどじゃないと出て来ない連中だ。

 ギルド長達が騒ぐのも無理はない。


「詳しくはいえないのですが……その毒は特殊で、解毒もままならず。我々も手を尽くし……何か薬はないかと周囲のギルドに聞き込みしたら……」


「翠の夢の事を聞いたと?」


 私の問いにエリア殿はゆっくりと頷く。


 恐らく、聞き込みをしたギルドの中に、このギルドの出身がいたのだろう。

 でなければ、価値があるといえ有名ではない『翠の夢』を知る者はそうそういない。


「聞いたのなら、それを教えた者も言っていたのではありませんか? その薬草を採るのに危険が伴うと」


「……はい。ですが時間がなかった。これしかないと、もう」


 時間が無く、団長が死んでしまうと思って動かざる得なかったって事か。


 周りの騎士も顔が暗いし、どこか疲労感もある。


 あんな凛々しく、冷静であったエリア殿も、今では年相応の女性じゃないか。

 

 こんな方々が依頼してきて、それを無視するのは私には出来ない。


「ですが、これを言っていたギルドは皆揃って言っていました。その地には<ダンジョンマスター>と呼ばれる人がいると。その人を頼りなさい……そう言われたのです」


 あぁ、そういうことか。その言葉で私は全てを察した。

 

――<ダンジョンマスター>

 

 それは私が自身で名乗った事はないが、周囲が、他者が、弟子と名乗る者達が私に対していう称号だ。


 でもそれは私が沢山のダンジョンに潜っての経験と、入念な準備をして制覇率を上げているからだ。


 実際は何度も死に掛けてるし、ダンジョンに絶対はないんだ。


 でもそうか、彼女達は私を頼って来たのか。

 私が教えた子達も、未だに私をそう思ってくれているのか。


「お願いします! どうか団長を助けて下さい! そのダンジョンマスターという方に会わせてください!!」


「……副団長さん。ダンジョンマスターに会う、その願いなら既に叶ってますよ」


「はい……こちらの冒険者ルイス・ムーリミットが、貴女の探す<ダンジョンマスター>と呼ばれる冒険者です」


「ハァッ!? こんなただのおっさんが!?」


 ギルド長とフレイちゃんの言葉を聞き、騎士の一人が驚きながらそんな事を口にした。


 だが実際、私はただのおじさんだ。

 三十後半で腰や肩にも、ガタがき始めた冒険者だ。


 だからフレイちゃん、そんなに圧掛けないで良いんだ。

 怒ってくれるのは嬉しいが、事実も受け入れないと。


「貴殿が……? 確かに金色の瞳と朱髪を持つ、歴戦の覇気を纏う冒険者を探せと言われていたが」


 誰だ、エリア殿のそんな事を言ったのは。


 力量の瞳を使えば確かに金色だ。

 でもそのせいで、おじさんの子供の頃のあだ名はフクロウだよ。


 何より歴戦の覇気ってなんだ。

 こっちは加齢臭が出ない様に食生活とか悩んでるのに、そんなものないよ。


 しかし、縋る様に私を見ているエリア殿をこれ以上、不安がらせる理由がない。

 何より、話が本当なら時間も勿体ない。


「ダンジョンマスター……私自身で名乗った事はありませんが、私が助けた方や教え子達は私をそう呼んでいます。――はじめまして、私はルイス・ムーリミット。ただの冒険者です。あなたの依頼を受けましょう」


 そう言って手を差し伸べると、彼女も私の手を掴んでくれた。


 それを見てギルド長はしょうがないと溜息を吐き、フレイちゃんも頬を膨らませていたが納得してくれている様だ。


 仲間達も頭を抱えながら、準備の為に腰を上げ、仲間への連絡や準備を始めてくれた。

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― 新着の感想 ―
おっさんが主人公というのも良いですね。 でもルイスやや鈍感ですね。 フレイちゃんが可哀想。 だけどやるときはやるタイプみたいですね。 面白かったので、ブクマさせて頂きました。
2話まで読んだけど、1話づつに詰め込みすぎな気がします。発想は面白そうなのに、2話で会話だけでも10人近い登場人物、さらに設定、能力、性格、背景、事件、と色々詰めてるので、もうお腹一杯で逆に言うと、ほ…
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