石化の魔眼
「アイズ・マンガン……?」
笑みを浮かべながら私を見てくるアイズという青年。
普通の気配じゃない。底が知れない闇というか、重苦しさを感じる。
彼は危険だ。普通の人間じゃない。
そんな彼からフレイちゃんを背に隠し、私は身構えながら彼へ問いかけた。
「金色の瞳……私の『力量の瞳』のことか?」
「そうだよぉ……アルコルで見てたんだ。あそこに来るのは大体が魔眼持ちだし、そこで見たんだよ。アンタの金色の綺麗な魔眼が。それが欲しいんだよぉ僕は!」
「なっ! 君はアルコルにいたのか!?」
いよいよ普通じゃない。
あの死の山――アルコルにいただけでも実力の高さが分かる。
しかも私がアルコルで、落ち着いて力量の瞳を使っていたのはデストロイアの縄張りである山頂。
彼はそこに潜んでいたとでも言うのか。
私や師匠にも気付かれずに。
「そんな話は良いだろ? 僕が欲しいのは君の金色の魔眼だ。さぁ、ちょ~だい!!」
「っ! フレイちゃん! こっちだ!!」
「えっ!――きゃっ!?」
アイズが掌の魔眼を向けた瞬間、力量の瞳を通して見えた魔力の波動が見えた。
禍々しい嫌な魔力だ。
私はすぐにフレイちゃんを抱えて横へ飛ぶと、その後の景色に驚愕した。
何故ならば、私達がいた場所の花や木々が《《石化》》していたからだ。
「なっ! まさか石化の魔眼……!」
「その通りだよ……お気に入りの魔眼なんだ。でも、よく避けれたね? やっぱり視えているみたいだね、その金色の魔眼は!」
コイツ、まさか顔や両手の全ての瞳が魔眼なのか!?
そうなるとマズイ。フレイちゃんを避難させなければ。
「フレイちゃん……下がっているんだ。彼は危険だ」
「は、はい……ルイスさん、気を付けて」
私がガントレットブレードを展開すると、フレイちゃんはそう言って後ろの方に隠れる様に下がってくれた。
安心してくれフレイちゃん。私はこんな所で倒される気はないよ。
さて、まずは相手のレベルを視てみるか。
「……アイズ、レベル<74>か」
やはりかなりの実力者だ。
しかもあの瞳、その全てが魔眼ならば厄介でしかない。
幸運なのは私のレベルも<79>に上がっていることだが、それも魔眼次第ではひっくり返される。
油断できない相手だな。
「いつまでボォ~としてるのさ! さぁ行くよ!!――疾風の魔眼!!」
「右手の魔眼……!」
アイズが右手を前に出すと、その掌の魔眼が光り、強烈な風が周囲の巻き起こった。
そして風は魔力で刃となって、私へと向かって来た。
「風には風を……!」
私は風魔法をブレードに纏わせ、そのまま相手の疾風の刃を叩き斬って粉砕する。
「やるじゃん! でもゼロ距離で石化はどうかな~!!」
「っ! 目の前……!!」
コイツ、速い!
魔眼頼りの遠距離戦だけかと思えば、平然とインファイトも仕掛けてくるとは。
「クソッ!」
アイズが振り上げる左腕――石化の魔眼がある手が私の右側面からくる。
私は咄嗟にガントレットで防ぐと、フラッシュの様に強烈な光が生まれた。
――やられたか!?
私は咄嗟に右腕が石化したと思ったが、光が消えた瞬間に自身の腕を見ると、腕は石化していなかった。
アイズもその様子に一瞬だが驚愕の表情をし、すぐに私から距離を取った。
「チッ! 石化しないってことは……そのガントレットはオリハルコン製か」
「その通りだよ……どうやらオリハルコンまでは石化できないみたいだね」
どうやらオリハルコンまでは石化できない様だね。
当然だ。これでも伝説の鉱物だぞ。
魔法にも強い鉱物だが、まさか魔眼にも強いとは思ってなかったな。
けど、これで石化対策はできそうだ。
「次はこっちから行くよ……!」
「おいおい、調子に乗るなよダンジョンマスター! 石化だけが武器じゃないぞ!――焔の魔眼! 火竜炎葬!!」
「デカイ……!」
今度は額の魔眼が光ったと思えば、目の前に現れたのは巨大な炎の竜だった。
周囲に強烈な熱気が生まれ、地面すら焼いていた。
こんな炎を詠唱も無しで生み出すとは、魔眼恐るべしだ。
「魔眼以外はいらないよ、ダンジョンマスター!」
「焼かれてたまるか! グラビウス・マーキュリー!!」
目の前の火竜に対し、私はグラビウスを展開した。
そして重力魔法と水魔法を纏わせ、私は駆け出すと私へ向かって来る火竜を両断した。
「天水一閃!!」
「チッ! 魔剣の類か!――フッ、良いねぇ! 魔眼と魔剣、どっちが上か勝負と行こうよ!」
アイズは笑って両手を構えていた。
だが、そんな呑気な展開なんて望んでいない。
このまま終わらせてもらう!
「魔剣ガイア! ニブルヘイム!」
「魔眼石化・疾風!」
私達は互いにインファイトを展開した。
私が刃で腕を斬ろうとすれば、アイズは風や石化で刃や蔓・氷を防ぐ。
そして逆に私に腕を向ければ、私はガントレットブレードで咄嗟に防いだ。
そんな高速な接近戦を繰り返す中、咄嗟に私は右腕を蹴り上げた時だった。
「そこで蹴るのか……石化の魔眼!」
アイズは狙っていたかの様にバランスを崩した私へ石化の魔眼を向けたが、そんなのは予想の範囲内だ。
私は滑る様にわざと転倒し、腕のそれを回避した。
だが、それを見ていたアイズが笑っていたことに私は気付くのに遅れた。
「あ~らら、回避して良かったの? 《《あの女の子》》……どうなるかな!」
「っ! しまっ――フレイちゃん逃げろ!!」
気付くのに遅れた!
奴の腕の方向――その先にいたのはフレイちゃんだった。
『――!?』
「エミック!!」
エミックもそれに気づいてフレイちゃんを守る様に飛び出した。
だが間に合わない。エミックは石化せず、そのまま落下してしまった。
そしてフレイちゃんは――
「――あっ」
彼女の声が聞こえた。
今にも消えそうな声だった。
「《《フレイ》》!!!」
気付けば私は叫んでいた。
そして駆け出していた。今まさに石化し始めている彼女の下へ。
「ルイス……さん……ごめんなさい……」
「フレイちゃん! 大丈夫だ! しっかり!!」
身体が、顔や腕が徐々に石化していく彼女を私は抱えた。
だが石化が収まる様子はない。どうすれば良いのかも分からない。
「フレイちゃん! すまない……私のミスだ……!」
「謝らない……で……私が……迷惑を……今日、本当に……楽しかった……で――」
「フレイちゃん!? あぁ……! アアァァァ!!!」
私の手の中でフレイちゃんは石像になってしまった。
ただ私は後悔から叫ぶしか出来ず、彼女が割れない様に抱えるしかなかった。
だからだ。私にアイズが右手を向けていたことに気付けなかった。
「あ~らら、可哀想に。それじゃ、魔眼も~ら――」
「師匠!!」
その時だった。屋根の上から小太郎の声が聞こえてきた。
私は咄嗟に小太郎がいる屋根を見ると、彼はクナイをアイズへと投げ、クナイはアイズの腕に刺さった。
「グッ! 新手か……! この! よくも僕に傷を――!」
アイズは刺さった腕を庇い、小太郎を睨んで魔眼を使おうとしていた。
『――!!』
だが、それよりも先にエミックが戦闘態勢へと入り、闇のツメでアイズへ振り下ろした。
「ああっ! クソ邪魔だな!!」
アイズはエミックの攻撃を躱し、魔眼の発動を止めて更に後方へと下がった。
私も追撃したかったが、フレイちゃんをこのままにする訳にはいかなかった。
そんな時だ。遠くからガシャガシャと音を鳴らしながら近付いて来る集団がいた。
「何事だ!!」
「ルイス殿!!」
それはエリア達騎士団だった。
きっと小太郎が呼んでくれたのだろう。
しかし、それを見てアイズはフードを被りなおしていた。
「この数の相手は嫌だな……今回は退くよ。――でもすぐに会いに来るよダンジョンマスター! 君の金色の魔眼、どうしても欲しくなったからさ! どの道、その女の子を助ける為には、僕とまた会う必要があるからね! だから覚悟しておきなよ!」
「なっ! 待てよお前!! フレイちゃんを元に戻せ!!」
私は腹の底から叫んだが、アイズは霞の様に消えてしまった。
それを見て小太郎が逃がさない様に飛び出していったが、今となっては手遅れだ。
何故なら、フレイちゃんは石化してしまったからだ。
私のせいで。




