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動き出す悪意

 ルイスがフレイと王都デートをしている頃、王都の裏町――そのとある酒場で、新聞を読みながら酒を飲む若者達がいた。


「見ろぉ……ダンジョンマスターが最高難易度ダンジョンより帰還しただとよ」


 そう言ったのは上座に座る一人の金髪の青年だった。


 右腕に《《ハイエナの刺青》》が彫られた青年はそう言うと、新聞を食事や酒で汚れたテーブルの上へ投げた。


 そして彼の仲間達が覗き込む様に新聞を見ると、そこには酒で染みたルイスの姿が描かれていた。


「おいおい、コイツがダンジョンマスター? ただのおっさんじゃねぇか!」


「本当にコイツなの? ダンジョンといい裏ギルド『骸の贄』を壊滅させた男って?」


「覇気もなければ、貫禄もねぇ! 噂は所詮、噂ってことじゃん!」


 彼等はルイスの顔を見て好き勝手に言い始めた。


 それだけ彼等から見たルイスの印象がそれだったのだ。


 覇気もない、ただのおっさん。噂だけが独り歩きしていると彼等はルイスを小馬鹿にする様に笑って肉や酒を頬張った。


 そんな彼等を他の客たちがバレない様に見ていた。


「おい……アイツ等って確か――」


「あぁ……『骸の贄』の傘下だった連中だ。確か名前は『ハイエナのアラシ』一味だ」


「……そんな連中がなんで白昼堂々といるんだ。確か傘下含め、『骸の贄』残党は騎士団やギルドに壊滅させられた筈だろ?」


 男達の言う通り、『骸の贄』壊滅後――その関係者達も騎士団やギルドの活躍もあり、壊滅か捕縛されたのだ。


 だが金髪の青年――ハイエナのアラシの様に、それを免れた連中もいるのが確かだった。


「連中は『骸の贄』がダメージを負ってすぐに姿を消したんだ。そして王都からも暫く姿を消していた筈だ。だから難を逃れて、こうやって王都に戻って来たんだろ」 


「そして、連中が目を付けたのがダンジョンマスター……ルイス・ムーリミットか」


「だがダンジョンマスターは五大ギルドとも抗争をし、そのまま壊滅させたイカレた奴だって話もあるし、しかもベヒーモスを従えてる筈だろ?」


 そんな奴に手を出してどうなるのか。

 少なくとも客の男達は自身の立場ならルイスに手を出したくない、そう思っていた。


 だが、アラシ達は違った。


「そんなことは関係ねぇ! 重要なのは最高難易度ダンジョンの《《希少素材》》を奴が持っているってことだ!」


「その言い方ってことは……やるのか?」


 仲間達が笑みを浮かべると、アラシはそれ以上に歪んだ笑みを浮かべた。


「あぁ……なんせ俺達はハイエナだからな! 欲しいものがあれば骨すら奪い尽くす!――準備しろ! ダンジョンマスターから全てを奪うぞ!」


「よっしゃー!!」


 アラシの言葉に一斉に立ち上がるハイエナ一味。

 

 それを見てアラシも笑みを浮かべて、新聞に載っているルイスの顔写真にナイフを突き立てた。


「最高難易度ダンジョンのお宝……! どれ程のもんか確かめさせてもらおうか!」


 そう言ってアラシも立ち上がり、ハイエナのギルド紋が刻まれたマントを羽織った時だった。


 彼等に近付く、一人のフードの男がいた。


 男はフードから漏れる口をニヤニヤさせながら彼等に近付いていき、やがて彼等の前に立った。


「あぁ? なんだテメェ?」


「《《ラッキー》》!――この男を知っているんだね君達? ボクにも教えて欲しいねぇ」


 男はそう言って自分の持っている新聞をアラシ達へと見せた。


 それは彼等が汚した新聞と同じで、ルイスの顔写真が載っているものだった。


 しかし、突然の男の登場に彼等も最初に呆気に囚われていたが、すぐに殺気を放ち始めた。


 それを感じて周りの客や店主達も息を呑み、すぐに避難できる様に立ち上がった時だった。


「おい――!」


 アラシが動いた。

 腕を伸ばし、フードの男の首を掴むと、その掴んだ腕に力を入れ始めた。


「おい……オレを誰だと思ってんだ? ハイエナのアラシ様だぞ?」


「ハイエナ? 残念ながら君には興味ないんだがねぇ? 骨でもあげようか? ワンワンって……あっ、これじゃ犬か!」


――ブチッ!


 男の小馬鹿にする様な言葉の直後、アラシの中で何かがキレた。

 そして血走った目をかっ開き、男をテーブルに叩きつけ様とした時だった。


「――石化の魔眼(メドゥサ)


 男はそう言ってアラシの腕を掴んだ瞬間、腕が光を発した。

 

 するとアラシは掴んだ右腕に違和感を覚え、思わず放そうとしたが、それは叶わなかった。


 何故なら、彼の掴んだ腕は《《石化》》し、石となっていたからだ。


「なっ! テメェ……! なにを……俺の腕に何をしやが――」


「言ったろ? 君には興味がないんだよ……石化の魔眼」


 男がそう言った瞬間、再び右腕が光った。

 

 するとアラシの腕が、身体が、徐々に石に呑まれていき、最後は声を出す間もなくアラシは全身が石化してしまった。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「アラシ!! テメェ――」


 石化したアラシを前に仲間達は叫ぶ者、または男に向かって行く者達に分かれた。


 しかし向かって来る者達を前に男はフードを取った。

――瞬間、誰もが目を大きく開いた。


 何故ならば、男の顔をには《《五つの瞳》》があったからだ。

 両目、額、両頬に系五つの禍々しい瞳があったのだ。


「なっ! 化け物――」


疾風の魔眼(ガルダ)


 向かって行く者達の動きが僅か一瞬だ。

 一瞬止まった瞬間、男はそうボソッと唱えると、額の翡翠色の瞳が輝いた。


 そして男の目の前に突風が吹いたと誰もが思った時、それは風の刃となった。


 風の刃は向かって来る者達を纏めて両断し、男に向かって行った者達は出血しながらその場に倒れた。


 生き残ったのは頭を下げて、しゃがんだ者達か離れていた客や店主のみだった。


 アラシの石像も風が吹いた瞬間に砕け散り、完全に死亡した。


 しかし男は目の前でアラシ達を殺害したにも関わらず、顔色一つ変えずに新聞を読み始めた。


「アンラッキー……話を聞きたかっただけだったのに。ダンジョンマスター……あのアルコルにいた金色の魔眼持ちはどこかなぁ?」


 男はそう言って新聞を読み続けると、ある文章に目が入った。


「……王都の表通りに拠点を置いている、か。その辺りを探してみようかなぁ」


 男はそう言って酒場から何事もなかったかのように出て行ってしまった。


 しかし、男が出て行って暫く経っても周りの者達は動けなかった。


 そんな中で、一人の客が震えた声で思いだしたかの様に呟いた。


「ま……まさか……顔に五つ、両手に二つの魔眼を持つ男……!」


 客の男には聞き覚えがあった。

 さっきの男と同じ特徴を持つ、ある種の都市伝説クラスの存在に。


 噂でしか聞いたことが無い。存在すらまず疑われていた存在。

 その男の正体。それこそが―― 


「ま、《《魔眼狩り》》……!」


 アラシ達の死体の中、静寂に包まれた酒場に男の声をは静かに消えて行くのだった。

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