束の間の休息
「行きましょう! ルイスさん!」
「フレイちゃん!? ちょっと待ってくれ!」
『~~♪』
あの後、私達は家を出て王都の街中を歩いていた。
フレイちゃんは外出用の服装に着替え、一目みただけで気合が入った姿なのが分かる。
それだけ私との外出を楽しみにしてくれるのは嬉しいが、少しプレッシャーだ。
彼女を楽しませてあげられるだろうか?
冒険者一筋のおっさん。そんな私が彼女を満足させられるか、そこが心配だよ。
相棒のエミックはただ笑うだけだし、どうやら助けてくれる気はないようだ。
「全く、お前は……」
『~~♪』
「ルイスさ~ん! こっちですよ!」
私がエミックに溜息を吐いていると、ちょっとした人混みの中、フレイちゃんが私へ手を振って来る。
その姿は受付嬢ではなく、一人の女性に見えるから美しくも、そして彼女特有の可愛さもある。
だから私も思わず笑みを浮かべてしまい、手を振り返しながら彼女の下へ駆け足で傍に行った。
「いやいや、元気だねフレイちゃんは。私には無いものだから羨ましいよ」
「何を年寄りみたいなことを言っているんですか? ルイスさんだって、まだまだ若いですよ! それよりも早く行きましょう! 私、王都限定のクレープやカフェに行ってみたいです!」
「ハハハ……分かったよ。今日はとことん付き合うさ」
死の山アルコルの疲れはどこへやらだ。
彼女の笑顔を見れて私はきっと安心したんだろうね。
いつも依頼を終えた私を出迎えてくれた、彼女のこの笑顔が見れて。
「さぁて、まずはどこへ行こうか?」
そう言って私が言うと、フレイちゃんは笑顔のまま私の手を掴んだ。
「もう決めてます! 最初は流行りのクレープ! 次に雑貨屋さん、そしてカフェに行きましょう!」
フレイちゃんはそう言うと私の腕を引っ張った。
そんな彼女の手は思った以上に柔らかく、そして暖かく、何より安心できて優しいものだった。
そして私はそれを感じながら彼女に引っ張られ、王都の街――その人混みの中へと入って行くのだった。
今日はきっと良い日になる。そう思いながら。




