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おっさん、死兆石を納品する

「おぉ!! これが死兆石……!」


「すっげぇ……! めっちゃ光ってるぜ!」


「こんな宝石が、この世に存在するなんて驚きです……そして、これを採って来たルイス殿にも」


 今、私はクロノのギルド『黒の園』へとやって来ていた。

 そして、そこに集まった依頼人達――クロノ達へと死兆石を渡していた。


 弟子達や、グリーンスノーから来たレンド・ギルド長。

 他の依頼人達も誰もが死兆石の存在感に目を奪われている様だ。


 エミックが次々と口から死兆石を出す度に声を漏らし、隣ではそれを見てマリアン師匠が楽しそうに笑っていた。


「キシシシ! 売るも保管するのもよく考えるんじゃな! 人生を3~4回繰り返しても拝めない宝石じゃからな!」


「……同感。こんな特殊な魔力を持つ宝石なんて希少すぎる」


「……えぇ、つまりは、とんでもないお宝ということでしょう」


 師匠の言葉にレイと小太郎も息を呑みながら、真剣な表情で死兆石を手に持って声を震わせていた。


 他の者達も、師匠の話を聞いて死兆石の扱いについて真剣に話し合いを始めている。


 どう売るべきか、加工方法はどうするのか?

 

 皆々が真剣に話し合っている。当然だ。一度きりの人生で拝めるかも怪しい代物だからね。


 売るにしても間違いなく市場が荒れるだろうな。

 中には強奪を狙う連中も出てくるかも知れない。 

 

 だが、それは売る者達の話で私には関係ない。

 ハッキリ言って、今は疲れたよ。


 私は自身の取り分以外、それを吐き出し終えたエミックを抱えると皆に背を向けた。


「それじゃ、すまないが後は任せるよ。今回は流石に疲れたよ……」


「えぇ、任せて下さい師匠(せんせい)。後のことは我々で何とかしますよ。――本当にお疲れ様です」


 そう言ってクロノが頭を下げると、他の者達も同じ様に頭を下げたり、手を振ってくれたりする。


「なんだルイス! もう行っちまうのか?」


「えぇ、流石に今回は堪えました」


 ギルド長へ苦笑しながら私が言うと、不意に私は脇腹を軽く突っつかれた。


 一体、誰だ?――そう思って見てみると、犯人はマリアン師匠だった。


「情けない奴じゃのう! 少し鈍ったんじゃないかい?」


「……急に最高難易度ダンジョンに行かされたんですよ? 無事に依頼を達成したんですから勘弁してください本当に」


「キシシシ! まっ、妥協点じゃぞ!」


 師匠はそう笑いながら自身の持つ死兆石を指先一本で回していたが、ツッコミを入れる気力も流石にないよ。


「センセイ! 今度はオレも連れてってくれよ! 死の山アルコル! 行ってみたい!」


「いつかな。暫くは行きたくないって……」


 ミアは私の腕を掴んで振り回しながら、そんなことを行って来るが、流石に腰や肩、そして足にも負担がキテるよ。


「身体が疲労でボロボロだし、暫くはゆっくりしたいんだよミア……少なくとも2ヶ月は休みたいね」


「それが出来ると良いのでしょうが……」


 私がミアの手を放していると、小太郎が何やら意味深にそんなことを呟いた。


「えっ……どういうこと?」


 私が小太郎へ問いかけると、小太郎は一瞬で新聞を出現させると、とある記事の所を開きながら私に渡してきた。


 そして私はそれを受け取り、記事を読んでみると我が目を疑った。


『ダンジョンマスター・ルイス・ムーリミット! 最上級ダンジョンより帰還する!!』


「ハッ? なんだこれは……?」


 大見出しでそんなことが載っている情報ギルド発行の新聞。


 ご丁寧に私の顔写真付きでそんなことが書かれており、よくよく読むと『死兆石』は勿論、最近で起こった裏ギルド・五大ギルドとの抗争についてまで書かれていた。


 他にもモンスタースタジアムについても書かれているし、あまりにも記事が目立ち過ぎだ。


「おいおい……なんだこれは? 誰だ書いたのは……!」


 こんなの面倒事にしかならないじゃないか。

 私は書いた者のサインを探すと、新聞の端っこにそれはあった。


――『ジャック・ヘッドジャック』


 その名前を見た私は思わず頭を抱えた。


「アイツめぇ……」


 裏ギルドとの戦い時、共に戦ったジャックが記事を書いた張本人だった。


「今回の件をどっかで知って、私に無断で特集を作ったなジャックめぇ……!」


「キシシシ! これだけ目立てば依頼もやってくるだろうし、暇になることはないのうルイス!」


「勘弁してください……」


 師匠は嬉しそうに笑っているが、私は笑う気力もなかった。

 こんな新聞が回れば高難易度ダンジョンの依頼が沢山来るかもしれない。


 今までは影の薄さや、ダンジョンマスターの名の一人歩きだけで私に害はなかったが、これは流石にバレるだろ。


 色んな依頼が来るかも知れないし、引退からほど遠くなってしまうぞ。


「アハハハハ! 良いじゃないか! お前が有名になるのは嬉しいことだと思うがな?」


「勘弁してくれグラン。私の身体は一つだけだ……無理は出来ないって」


 騎士団長のグランも嬉しそうに笑っているが、本当に笑えないって。

 

 私は肩を落としながら周囲を見てみるが、クロノを始め誰もが笑顔だった。


「私は嬉しく思いますよ? 師匠はそれぐらい知名度があってもおかしくない冒険者なんですから」


「そうだぜセンセイ! 良いじゃんか有名になれてよ! 退屈しないぜきっと!」


「……師匠の門出」


「ようやく影から師が出られるのですね」


 どうやら目の前にいるクロノ達――弟子達は今は私の敵の様だ。

 平和に依頼を熟し、ゆっくりと過ごす人生設計が崩れようとしているんだぞ。


「諦めろ馬鹿弟子よ。既に新聞は出回っておるし、情報ギルドの拡散力は凄まじいぞ?」


「ガハハハッ! 良いじゃねぇか! これでグリーンスノーギルドの評判も上がるだろ!」


「な、何かあれば! このエリアが護衛や同行をしますのでルイス殿! 元気を出してください!!」


 師匠は諦めろと肩に手を置いてくるし、ギルド長は喜んでいるし。

 エリアは何故か興奮気味にそんな事を言って来るし。


 まぁ護衛や同行は嬉しいけどさ。とりあえず、今は諦めるか。


「ハァ……とりあえず、今日は帰るよ。もう寝たい……ハァ、癒しが欲しい」


 こういう時こそフレイちゃんの笑顔が恋しくなるな。

 

 このままグリーンスノーに帰りたい。

 そんなことを思いながら私は『黒の園』を後にするのだった。


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