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おっさん、死の山から師匠と共に帰還する

 いやぁ、本当に大変だった。――死の山アルコル。

 師匠のお陰……って言えば良いのかは怪しいが、楽に下山はできた。


 そして山の入口近くで待機してくれていた馬車の人と無事に合流した私は、危険手当じゃないが馬車の人に死兆石の欠片を追加報酬としてあげた。


 こんないつ死ぬか分からない山で待ってくれていたんだ。

 これぐらいしても罰は当たらないだろうし、馬車の人も泣く程、喜んでくれた。


 師匠は勿体ないと言うが、私が好きでやってることだ。


 因みに何故か師匠は、手に入れた依頼品――『死兆石』の原石手に持ち、笑いながら一緒に馬車に乗っている。


 いや普通に箒で帰れ。

 そっちの方が速いし、騒がしくてゆっくり出来ない。私が。


「良いじゃろ。たまには馬車でゆっくり帰りたい時があるんじゃ」


 そう言って子供みたいに足をバタつかせる師匠に呆れながら、私は手に入れた死兆石を手に持って眺めてみた。


「久し振りにじっくりと見れたが……やっぱり凄いな。まるで夜空が宝石の中に存在するかの様だ」


 伝説の宝石――『死兆石』


 ブラックダイヤの様な存在感を見せながら、その中は星々の様な万華鏡の様な輝きを見せている。


 今持っている掌サイズのコレだけでも、豪邸が数件は建てられる素材だ。


 これならクロノ達も満足してくれるだろう。

 ベヒーにもデザートを増やしてあげられる筈だ。


 フレイちゃんもエリアもきっと、喜んでくれる筈。

 

 私は数日は掛かるである道中、弟子や仲間達の喜ぶ顔を思い描きながらほほ笑んでいると、それを見ていた師匠が笑いだした。


「キシシシ! 良い顔じゃないかいルイス。やっぱり生粋の冒険者じゃのう、お前は」

 

「いや……そうは言いますけど、身体にガタも来てますから。こんな突然の高難易度ダンジョンの依頼は勘弁してくださいよ? 本当なら引退を考えているんですから」


「な~にが引退じゃ! お前が引退なら私はとっくに墓の中じゃろ?」


 それは師匠が定期的に若返っているからでしょ。

 笑いながら話す師匠の今の外見年齢は二十代前半ぐらいだけど、実年齢は私だって知らない。


 一度、聞いてみたら笑顔で最上級魔法を放とうとしてきたから、一応は自分では把握している様だが。


 まぁ、それは良いや。久し振りに師匠と馬車に乗って移動するのは昔を思い出して、懐かしい気分にもなる。


 悪い気分じゃない。師匠が近くにいると安心する。

 それだけ自分にとって特別な人だからね。


 この人がいなければ今の私もいない。

 本当に恨みもあれば感謝の方も大きい。


 本当に懐かしいな。それに安心したら眠くなってきた。

 

 私は手に持っていた死兆石をエミックの口に入れると、静かに目を閉じた。


 そして馬車の心地良い揺れによって、深い眠りへと入った。


♦♦


「ルイス? おいルイス!……なんじゃ眠ったのか」 


 静かになった思い、死兆石を置いて隣の弟子に声を掛けるとルイスは眠っておった。


「随分と大きくなったのう」


 その寝顔を見て、私はルイスの成長を実感した。

 鼻たれ小僧の時から知っているお人好しで馬鹿な、けれど愛おしい愛弟子。


 恵まれたスキル――才能は自身すら腐らせる毒じゃ。


 だからこそ私が、こやつの両親やグリーンスノーのギルド長に頼まれて弟子にしたんじゃった。


 このままでは駄目な人間になる。そう言われての。


「面倒じゃと最初は思ったが……愛着は持つものだねぇ」


 死んでもおかしくない修行もさせたのも事実。

 けれど、それはルイスの為でもあり、実際に危険だと思ったら助けもした。


 そんな小僧が今では若造から、ついにはおっさん冒険者になったのぅ。


「時間が経つのは早い……あっという間じゃな」


 私は上を向きながら昔を思い出していると、腕を組みをしながら眠るルイスの方を再び見た。


 そして不意に頭を持って、私の膝へと乗せた。

 所謂、膝枕じゃ。昔は辛い修行を乗り越えた後に、ご褒美でよくやってやったものじゃ。


「しかし……随分と重くなったものじゃのう。少し前までは小僧だったのに。今じゃダンジョンマスター……おっさん冒険者じゃ」


 真上から見る、ルイスの眠る横顔。起きる様子もない。

 それも仕方ないね。死の山アルコル――最上級ダンジョンを登ったのじゃから、当然じゃ。


 そう言って私はルイスの頭を撫でてやった。


「ルイス……私の馬鹿弟子にして最愛の弟子よ。頼むから早く逝ってくれるな。そうなると、随分と私の人生が退屈になるからのう」


 そんなことを言う私は自然と笑みを浮かべておった。

 ルイス――こやつを見てると退屈せんからのう。


 私はそんなことを思いながら弟子との馬車旅を楽しみ、王都に戻ったのはそこから数日後じゃった。



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