獲得!死兆石!
「さ~て! もう一仕事だぞエミック!」
『~~♪』
エミックが嬉しそうに口をパカパカと開閉している。
まぁデストロイアを撃破したし、もう邪魔はいなくなった。
さて、頂上でアルコルでの最後の仕事をするか!
「それじゃ、死兆石を探すとするか……!」
私はそう言うと頂上の中心に立った。
ここからが大変だ。死兆石は《《探し方》》が特殊なものだから、尚のこと見つける難易度が高い。
ただ私はその条件を満たしている。
その条件こそが、これだ。
「――開眼! 力量の瞳!」
力量の瞳――つまりは『魔眼』だ。
死兆石は『魔眼』の類じゃなきゃければ見えないんだ。
普段は適当な岩や鉱石と同化しているが、魔眼を使えば死兆石の特殊な波動が見える様になる。
あとはこうして周囲を見て回って――
「――見つけた。ここだ」
私は特殊な波動や光りが見える岩の前に立つと、エミックも隣へ立った。
そして自身の口から次々とハンマーや杭、ツルハシを出してくれた。
これ全てがドワーフ族特製のオリハルコン製だ。
腰や肩には色々と来るが、これなら岩を砕くのは楽なものさ。
特に死兆石の硬度は結構、硬いから間違ってぶつけてもは割れはしない。
「ハァ……さて、やりますか」
私は腰を軽く叩くと、ツルハシを持って岩を砕き始めた。
「えっほ! えっほ!」
黙ってたら心が折れそうだから、気分転換の意味で声を出しながらツルハシで岩を砕いていく。
割っては砕いて、割っては砕いて。
次々と破片を撤去していき、どんどん巨岩を小さくして岩の中心へ進んで行く。
そして、中心に達した時だった。
私の手応えが固い何かを見つけた。
――これだ。
それは真っ黒な鉱石だった。
同時に、これが目的のものだ。
両手に収まる程の大きさだが、日の光を浴びた瞬間、その鉱石が星が輝く夜空の様に光り始めた。
「やった……やったぞエミック! 危険度10ダンジョン『死星山・アルコル』の宝――<死兆石>だ!」
『~~♪♪』
エミックも嬉しそうに跳ねて踊っている。
私も、少し騒ぎたかったが、そうもいかない。
この両手程の死兆石だけども屋敷が幾つも建てられるが、それでも足りないんだよなぁ。
「……ハァ。せめて後、同じやつを5個は欲しいな」
私は脳裏に浮かぶ依頼書の束を思いだし、再びツルハシ等を持って他の岩や岩壁を回った。
そして見つけては同じ様に、砕いて掘っての繰り返しだ。
「うぅ、腰がジンジンする。腕も痺れるよぉ……」
流石に危険度10ダンジョンの魔物との連戦後、その後にこれは堪えるな。
だが今、このタイミングを逃せば、次はいつ来れるか分からない。
この場所はデストロイアの縄張りだ。
しかもデストロイアは再生能力があるし、多分死んでないと思う。
それ以外にも並みの魔物だって強いし、何度も来れる場所じゃない。
採れるだけ採っておかないと、少なくとも依頼された分だけは。
「くそぉ……掘れ掘れ! 掘るんだエミック! こんな危険ダンジョン! 早く帰るんだ!!」
『――!』
私の叫びにエミックも同意だったのだろう。
エミックも闇の腕でハンマー等を持って砕き始めてくれた。
こうして私達は次々と死兆石を採掘し、最後はエミックの中に収納した。
「終わった……やっと終わった……!」
必要分を採取した私とエミックは、大の字で倒れていた。
「疲れた……だから嫌だったんだよ、死兆石の採取は……!」
腕がパンパンだ。腰も完全に気絶している。足だって職務放棄している。
全く、『酸素草』が入っているマスクしていても息苦しい。
だがデストロイアの縄張りだけあって、他の魔物は寄ってこない。
それだけは助かるな。
「良い空だな……」
つい大きな雲が浮かぶ空を見上げながら、私は黄昏ていた。
「綺麗だな……雲に夕日、それに爆発。――えっ、《《爆発》》?」
私が空を見ていたら、上空で確かな爆発が起きていた。
「なんだ……魔物か?」
私はそう思って、すぐに立ち上がってよくよく目を凝らして見た。
すると、その爆発の原因であろう黒い点が近付いてくるのが見えた。
――いやあれってまさか……!?
「キシシシ! 本当にしつこい奴じゃ!」
「師匠!? なんでここにいるんだ!?」
急に私とエミックの傍に降りてきたのは、箒に立ち乗った師匠――マリアン・ロードその人だった。
師匠は金髪の髪を揺らしながら、私に気付くと「おうっルイス!」とだけ言って、手で挨拶してきた。
いやいや! おうっルイス!――じゃないだろ!
「本当になんでここにって――まさか、依頼しといて、ずっと見てたのか! このクソババァ!!」
「誰がババァじゃ!! お前が鈍っていないか見守ってやってたんじゃぞ! ありがたいと思いな!!」
こ、この野郎……! どれだけ苦労して死兆石を採取したと思ってるんだ……!
デストロイアの時も見てたのか……!
「だったらせめてデストロイアの時に援護しろよ!? こっちは大変だったんだぞ!?」
「キシシシ……そんな暇は無くてのぉ。――ルイス、お前厄介な奴とやり合ってるねぇ!」
「えっ……あれは――!」
そう言って上空を見ている師匠に釣られ、私も空を見上げた。
すると、そこにいたのはノアとグリムだった。
外見はやけにボロボロだったが、苦痛の表情を浮かべるグリムと違ってノアは笑みを浮かべていた。
「ノア!! なんで始高天がここに……!」
「――フッ! 今回はアナタに用はなかったですよ、ダンジョンマスター」
ノアはそう言って隣にいる師匠の方を見た。
すると、師匠のその腕には最大攻撃魔法を溜めてあり、再び笑みを浮かべていた。
「仲間になれとしつこくてのぉ……何度殺そうとしても意外と粘るんじゃ。厄介じゃのぉ、あの聖槍剣」
「っ! アストライアか……! ノア! まだやるなら俺が相手になるぞ!」
こんな人でも俺の師匠だ。
ここまで育てて貰って、守ってやらねば弟子とは言えない。
私はガントレットブレードを展開した。
「キシシシ……! 少し良い男になったねぇルイス。――それでどうする小僧? こっちは次は二人掛りで行くぞ?」
その言葉にノアの動きが止まり、表情も険しくなっていた。
「……いや、今回は退きましょう。ダンジョンマスターまで相手をするのは流石に予定外過ぎますね。――退きますよ、グリム」
「ハ、ハイ!」
私達が身構えていると、ノアとグリムは魔法陣を展開して、そのまま消えていった。
「……全く、面倒なガキじゃった」
「あれが始高天と呼ばれる裏ギルド――そのマスター達です」
「始高天ねぇ……大層な名じゃの。――それより死兆石はどうしたんじゃ?」
このババァ……! 終わった途端に言う事が労いの言葉じゃなくて、それか!
「ありますよ……ここに」
私はエミックの口の中に手を入れ、死兆石を取り出して見せた。
そして師匠はそれを受け取ると、見定める様に見渡すと、私の顔を見た。
「80点じゃな。疲れて最後辺りで手を抜いたじゃろ? お前なら、もっと綺麗に採取出来たじゃろうに」
「デストロイアの相手をした後だったんですよ!? その後なんですからボロボロだったんです!」
「フンッ……まぁ良いじゃろ。最悪、デストロイアに負けるかもと思っておったからな。――さて、帰るかの。ほれ、箒に乗れ」
「……ハハ、懐かしいですね」
昔はよくダンジョンに放り込まれたら、帰りにはよく師匠の箒に乗せてもらったっけ。
俺はそれを思いだしながら箒に――師匠の後ろに乗ると、箒は静かに浮き始めた。
「しっかし、あんな連中にトドメを刺さぬとは、本当にお主は甘いの」
「……師匠に似たんですよ」
「ん? なに言った?」
「いえ何も……やれやれ」
こうして私達はアルコルを下山した。
入口付近には馬車も待たせてるし、そこまで送ってもらうか。
「ギャー! パンツ見える!!」
「そんな短い格好してるからでしょ!!」
そんなやり取りをしながら、私達は下山していった。
♦♦
アルコルの頂上、そこからルイス達を見ていた者がいた。
岩との《《同化》》から解除すると――男は、空を浮かぶルイスを見ていた。
「ナイス! 《《魔眼持ち》》み~つけた!」
そう言って歪んだ笑みを浮かべる男。
彼は見ていた、顔にある《《五つの瞳で》》ルイスの事を。




